第2章:1941年5月・神話の島にて

第20話 転生狙撃手、再び




再び1941年5月1日、トブルク近郊、西部






”タァァァーーーン”


 今日も元気にクソ熱い中東で狙撃銃あいぼう片手に、ドイツ人だかイタリア人だかの脳天か胴体に風穴開ける素敵なお仕事に励んでる”下総兵四郎”だ。

 まあ、今回は「とりあえず、偉そうなやつの頭吹き飛ばしてこい」という狙撃兵向きのミッションではなく、あくまで脇役。

 

「少尉殿、ヒットだぜ」


 いや、そんな「ゲットだぜ!」風に言われても。

 たまに我が相方、小鳥遊伍長は転生者なんじゃないかと思うんだが?

 

 それはさておき、さっきから射撃大会というより射的大会のような感じで仕事をこなせるのは、なんともありがたい話。

 というのも周囲に戦場音楽オーケストラが鳴り響いているおかげだ。

 

 現在のパートは、ドイツ人の機甲部隊に急襲をかける九九式襲撃機と、はるか後方トブルク要塞から撃ち込まれる15㎝級の榴弾のアンサンブル。

 九九式襲撃機には1機当たり15kg級を16発搭載されているが、こいつの弾頭が曲者で”夕弾・・”、つまりモンロー/ノイマン効果を発揮し、数千度のメタルジェットで装甲を焼き穿つ成形炸薬弾だ。

 15㎝砲弾のほうは、焼夷弾子ではなくベアリング球のような重金属球状弾子を空中から地上にばら撒く対非装甲目標特化の三式弾仕様っぽい。

 何となく、砲弾型クレイモアとか言いたくなるな。いや、時代的にはSマインとかか?

 まだどっちも実戦での試験運用段階的な雰囲気で、まだ戦術が確立しきれていない感があるが……

 

(これ、明らかに開発に転生者関わってるだろう……)


 なんせ俺が知ってる戦史では、この時期の日本にこんな「現状の技術力で生産できる、機甲部隊の足を止めさせたいシチュエーションにマッチする兵器」なんてあるわきゃない。

 ついでに言えばこの九九式襲撃機、史実よりもそこそこ強化されているようだ。

 

 例えば、エンジンは瑞星ではなく、いくらか出力の余裕のある栄が選ばれている。

 三菱製の機体に中島のエンジンは、九七式艦上攻撃機のちょうど逆だが、別にバーダー交換とか高度な政治取引とかではなく出力と整備性の問題だろう。

 まず出力の大きさってのはわりと武装とかに反映されていて、オリジナルはペイロードが200kgで、250kgを積んだのは特別攻撃の時だけだったなんて話が残ってるけど、この世界だと無理なく合計250kgのペイロードを胴体の下、あるいは主翼下に搭載して出撃できるらしい。

 他にも武装や防御力、航続距離なんかも心持ち強化されてるっぽい。

 

 整備性というのは言うまでもなく、全く異なるエンジンが並んでるより全く同じとは言えなくてもほとんどの部品が共通してて(理想から言うなら、セッティングが違うだけでエンジン自体は共通とか)、整備手順が同じエンジンを多数揃えた方が整備効率が格段に良くなる。

 九九式襲撃機の場合は、いまBf109と頭上で制空権の取り合いしてる”隼”と同じエンジンだ。

 確か、”鍾馗”と”吞龍”も同じハ5系列だ。

 因みに空軍機の三菱系エンジンの有名どころと言えば、一〇〇式司偵の”金星”と一式陸攻の”火星”だが、火星は謹製をベースにでっかくした兄弟エンジンだから、基本構造はかなり似通っていて、それに比例してメンテも随分と似ていると聞いた記憶がある。

 

(というか、三菱ってあんま瑞星作ってない臭いんだよなー)


 どちらかと言えば、金星と火星の生産と改良、次世代の18気筒に全力を注いでるっぽい。

 おそらく、軍部の上の方か政府の方針なんだろうが、史実の大日本帝国のような泥縄式のエンジン開発は良しとせず、可能性の模索と技術の発展のための研究開発は盛んだが、量産は「メインストリームとしたエンジン」に絞っている気がする。




***




 それはともかくとして、そんなオーケストラがフルボリュームで響き渡ってる状態で、狙撃銃の銃声なんて聞こえるわけはない。

 というか、完全にドイツ人の射撃音に紛れてる。

 まあ、装甲車両の上で対空射撃してる奴の頭もしくは胴体を撃ち抜いてるのが俺なんだけどな。

 

 状況から察してもらうと助かるが、この戦いにおける陸上の主役は弾着観測班に前線航空統制官だ。

 要するに砲撃と爆撃の効果を確かめる人員と、その護衛だ。

 

 という訳で俺がやってる狙撃は現状だとハラスメントアタックに近い。

 言い方を変えれば、砲撃と空爆のおこぼれにあずかってる状態だ。機動力を発揮できなくなった機甲部隊の銃弾で倒れそうなのを片っ端から撃ってる感じ。

 一応、狙撃兵としても敵の進軍を食い止める阻止攻撃としても、わりと王道で正道ではあるのだが。

 

 とはいえ、横から味方の頭が吹き飛べば、狙撃に気づく連中もさすがに出てくる。

 相手によっては、カウンタースナイピングなんて映画の1シーンみたいなことが起きるかもしれないが、この状況じゃ流石に無理だろう。

 スナイパーの位置を探る最大に道しるべである発砲音がまともに聞こえないし、発砲炎も夜のようにはっきりとは見えない。

 おまけにこちとら、この時代の砂漠用ギリースーツ、デザートポンチョを着こんでいるのだ。

 

 なので、向こうドイツ側としては、弾が飛んでくる方向から逆算して「狙撃手がいると思われる場所にとりあえず火力をぶち込む」という方法しかない。

 狙撃手という”点”を狙えるなら、機銃掃射やら迫撃砲やらで居そうな場所を”面”で制圧するのは確かにそれは正解だ。

 基本、頭を上げなければ狙撃はできないもんだ。

 しかし、

 

(弾幕が届く場所に俺がいればの話だが)


 狙撃の基本は、「撃ったら反撃が来る前に移動する」だ。

 砂漠にはジャングルや都市部のような身を隠す障害物はない。どうしても射貫きたい標的がいるならまだしも、とりあえず頭数を減らせばいいのなら砂漠に同化して潜んでいるよりもショット&ランの方が効率がいい。

 砂漠には確かに身を隠せるようなものは乏しいが、ひたすら平坦な土地という訳でもない。

 風などにより砂が動き、穏やかな丘陵もできるし、場所によりけりだが岩やら何やらも皆無って訳じゃない。

 

 そして、下手に俺にかまけていると今度は別の方向から一発の弾丸より遥かに殺傷力が高い物体が飛んできたりするのだから、敵にとっても質が悪い。

 

 














******************************










「シモヘイ少尉殿、大戦果なのに浮かない顔でどうした? 今日だけで10人以上、戦場の苦しみから解放したんだろ? 新記録じゃねーの」


 と激戦の後だというのにケロッとした顔で皮肉をかます小鳥遊伍長。

 ”(俺の)労働は、貴方ドイツ人に(魂の)自由を与える”ってか? 勘弁してくれ。

 

「だから、シモヘイ言うなって」


 きっとこいつは血液の代わりに耐熱仕様の潤滑油でも流れてるに違いない。

 

「いや、なんつーか……手ごたえが”無さすぎる”のがちょっと気になってな」


「手ごたえがない?」


 不思議そうな顔をする小鳥遊に、俺は何となく答えをまとめられぬまま頷き、

 

「ドイツ人ってのは、ああもあっさり撤退するもんか? 英国人とやり合っていた時は、もっとこう……殺気みたいなものなかったか?」


 何というか、必殺の覚悟と言おうか……マーマイトを口とケツに同時にねじ込まれるような、ドロッとした殺気がさ。

 いや、普通に拒絶だな。そんなん。

 

「あー、確かにちょっとあっさり引き過ぎる気はするな。なんつーか、一当てして反撃食らったらさっさと逃げるみたいな?」


 そうそう。例えるなら「命がけのピンポンダッシュ」だ。

 だが、命がけでピンポンダッシュをやるバカは居ない。

 

(ということは、何らかの意図があるって事か……)


 そもそもドイツ人が、大好きな戦車やら機甲部隊やら持ち出して、大したダメージもないまま戦車戦やらずに引くってのはあるえるのか?

 確かに皇国の”一式”や”一式改”はいい戦車だが、別に無敵って訳じゃない。

 

 

(イタリア人の為に余計な消耗をしたくないってのは確かだろうが……)

 

 どうにも腑に落ちないな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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