第19話 設定覚書2 飛行機関連のあれこれ





設定覚書2




日本皇国航空機事情(~1941)



エンジン系列

史実の陸海軍は同じエンジン、あるいは同系列のエンジンでも別の名前を使っていたのだが、この世界線では発動機を示す”ハ〇〇”というのが型番、”栄”や”誉”というのがペットネームという扱い。


つまり、「ハ35”栄”」という感じになる。

これに細かいナンバリングが付き、例えば作中に登場した”隼”最新型のエンジンは、ハ35-32でも栄三二型でも正解ということになる。

ただし、ペットネームは基本的に海軍に採用されたエンジンにつけるのが慣例となっている為、空軍(あるいは陸軍)のみに採用されたエンジンには付いていない場合がある。


基本的に1941年までに作中に出てくるエンジンは、


・ハ35”栄”系(中島)

 採用機:一式制空戦闘機”隼”、月光(この世界では、最初から「ドイツ軍の夜間爆撃に備える」という理由で双発複座の夜間戦闘機として設計)、九九式襲撃機(この世界線では瑞星ではなく栄)、二式襲撃機”屠龍”(二式複座戦闘機ではなく、この世界では対地攻撃機として最初から設計。瑞星ではなく栄仕様)

 

・ハ112”金星”系(三菱)

 採用機:零式艦上戦闘機、九九式艦上爆撃機、九七式艦上攻撃機(この世界線は中島製の機体に三菱のエンジン)、一〇〇式司令部偵察機

 

・ハ5系列(中島。ハ41、ハ109はハ5の発展型)

 採用機:二式防空戦闘機”鍾馗”、一〇〇式重爆撃機”吞龍”


ハ101”火星”系(三菱)

・一式陸上攻撃機、二式大型飛行艇(海軍機)


ハ40”アツタ”(愛知飛行機、川崎重工業)

・彗星、二式艦上偵察機、三式防空戦闘機”飛燕”

 ※英国ロールスロイス社”マーリン”エンジンのライセンス生産品。海軍向けは愛知、空軍向けは川崎が製造を担当。




***




・基本的に、空冷星型14気筒。ただし、史実の日本に比べて冶金技術や電装関係の工業水準が英国準拠なので、信頼性は比較にならぬほど高い。

スパークプラグやケーブルは高品質であり、軍用無線機などは真空管のメタルビーム管化を進めている。

また、史実の大日本帝国と違い「分割陽極型マグネトロン」をはじめとする各種マグネトロンや「八木・宇田アンテナ」、「全電子方式テレビジョン」、「NE式写真電送装置」などの研究も国費を投じて盛んに行われている。

英国との各種技術共同開発も多く、日本が国策として英国の公的機関や民間企業に出資しているケースもある。


・また、100オクタン燃料・鉱物油系エンジンオイルが基本(標準)となっているのも大きな違いであり、稼働率もさることながら「カタログ通りの出力を安定的に出せる」事が大きい。

英国と同盟関係を組んで1世紀近くたつ恩恵が、ここにも生きている。


・海中磁気探知装置KMX(MAD)、電磁式近接信管などは実用化一歩手前まで来ている。


・日本のレーダー/ソナースコープはAスコープではなく、PPIスコープタイプが主流になりつつある。


・また水上艦用、潜水艦用、航空魚雷を問わず磁気信管が量産段階にある。


・航空機搭載レーダーは一部で実用化。電波高度計・電波誘導装置・電波管制装置は既に実用化済み。


・1941年当時の皇国軍航空機の主流は、英国系の反射式光像照準器。また同じく英国発のジャイロ・コンピューティング式照準器は既に試作段階を越えて生産体制に入っている。また、電波測距儀も実用化一歩手前まで来ているようだ。


・核関連技術は極秘事項。ただし、暴走より制御の方により力を入れているようだ。


・プロペラは米国ハミルトンではなく、英国式ダウティ・ロートル系で年々アップデートされる為、推力変換効率が史実よりも良い。


・日本皇国は、特に星型エンジンの振動制御に苦心している。実際エンジン開発の要求性能の中に、栄や金星の時代には既に振動対策として動吸振器(ダイナミックダンパー)機構の導入が義務付けられており、また誉などの18気筒エンジンの開発には要求性能の中に慣性平衡装置(ダイナミックバランサー)の導入が盛り込まれていた。


・他にもウエイトの慣性力を用いたフライホイール、クランクシャフトのカウンターウエイトへの振り子型ダンパーの組み込み、慣性主軸エンジンマウントなども研究・開発・採用された。

 

・また、18気筒ではキャブレター方式では全ての気筒に均等に混合気を配することは比較的困難で燃焼のばらつきがトルク変動(=出力の不安定化)を発生させる為、性能安定化の為に燃料供給装置搭載が要求性能に盛り込まれた。

 例えば、誉には設計段階から低圧燃料噴射装置(シングルポイントインジェクション。中島式のシリンダー内への直接噴射ではなく、キャブレターを負圧式からダイヤフラムポンプを使わない低圧燃料噴射式のフロートレス気化器を採用したタイプ)の採用を前提とした。

 また、三菱は最初から燃料直噴タイプの燃料噴射装置を採用することを前提とし、より安定した高性能を狙っていた。


・ドイツ空軍航空機の高性能化を踏まえ、技術的に完成していた二段二速式ないし流体フルカン継手式の遠心圧縮式過給機スーパーチャージャーを標準搭載とすることも盛り込まれた。

 将来的には、全てのレシプロエンジンに排気タービンターボチャージャーの搭載を視野に入れる。


・液冷エンジンの系譜は、史実とは全く異なる。何しろロールスロイス系、具体的に言えば”ケストレル”のライセンス生産に始まり、現在は”マーリン”の生産体制へ移行している。

 三菱、中島が各種空冷星型エンジンの開発と製造に手いっぱいだったため、液冷系のライセンス生産は航空機用エンジン製造技術がありまだ余力があった愛知航空機と川崎重工業に託された。(ライセンス権は空軍と海軍で折半)

 愛知生産は工場のある地名に合わせて”アツタ・マーリン”と呼ばれ海軍向けに生産され、川崎生産分は空軍向けで”カワサキ・マーリン”と呼ばれた。

 戦前よりライセンス生産準備はされていたが、基本的にはドイツのポーランド侵攻を契機とした「包括的英国支援計画」の一環として大量生産が決定された。また、日本製マーリン・エンジンを搭載する日本の機体(これも英国支援策の一環)は、41年は出荷準備に入っており搭乗員の訓練を含め42年以降に多く前線に登場する事になる。




***




・41年当時は、陸海空問わずに航空機用機銃は41年4月時点ではホ103/12.7㎜機関銃が基本。20㎜機関砲はまだ少数派で、戦闘機の主力兵器となるのは42年以降となる。また、標準弾丸は12.7×81mm弾(50ヴィッカース弾)となっており、史実と違いホチキス系の13.2㎜弾は実用化されていない。


・空気信管型榴弾、いわゆる”マ弾”は12.7㎜サイズのそれ既に実戦配備されている。


・次世代航空機武装である20㎜機関砲弾は、エリコンFFL規格の20×101mmRB弾と決定済であり、現在複数開発されている20㎜級の航空機搭載用機関砲は全てこの弾の指定弾丸になっている。


・実は20㎜機関砲に関しては、英国から打診が来ている。どうもライセンス生産したイスパノ・スイザ HS.404が不調続きらしい。


・20㎜弾用のマ弾は、既に量産一歩手前まで開発が進んでいる。基本構造は空気信管を搭載する事は12.7㎜と同じだが、弾殻が比較的薄く作ることにより内部の充填炸薬比率が増やし、それに伴う貫通力の低下を防ぐべく、重金属製の貫通体を弾芯ペネトレーション・コアとして採用することで、破壊力と貫通力の両立を目指している。

 日本版Minengeschossというより、構造的には機関砲用の”半徹甲榴弾”という感じだ。例えば、空気信管は目標に命中し弾芯に押される事で発火する仕組みの為、「貫通してから爆発する」設計になっている。



・空軍はホ103の発展型であるホ5/20㎜機関砲(史実と違い専用弾は開発されず、強度アップのため3kgほど重い)、海軍は九九式改型(史実の九九式二〇粍二号機銃五型準拠)の量産体制に入っている。大きく二系統に分かれているのは対立しているからではなく生産量の確保のためと、片方が何らかの理由で失敗した場合の保険という意味合いもあった。

例えば、ホ103系列はブローニング系ショートリコイル、九九式はエリコン系のAPIブローバックで動作方式が異なるため両方とも失敗する可能性は低いと考えられた。


・海軍は30㎜機関砲の研究開発を行っていたが、空軍は30㎜だけでなく対地攻撃/対重装甲/対大型目標用により大口径の37㎜級の開発を行っていた。これらはそれぞれ二式/五式30㎜機関砲、ホ155/30㎜機関砲、ホ203・ホ204/37㎜機関砲などに結実してゆく。




***




整備マニュアルについて

日本は政府の方針として、エンジンごと、機体ごとに必ず以下のような最低3種類のマニュアルを用意するように通達されている。


新人向けノービスマニュアル

文字通り、整備のイロハや初歩から通常メンテまで記載。難しい専門用語を極力避け、イラストや図解、写真などを多く使い、教育マニュアルとして使える仕様にすることが条件。


一般向けノーマルマニュアル

新人の域を抜けた一般整備員向け通常マニュアル。戦闘時のメンテや補給、故障や損傷による修理など平時、戦時に必要なノウハウを一通り網羅。


班長向けチーフマニュアル

整備班長などのベテラン向けマニュアル。上級整備ノウハウやオーバーホールだけでなく、整備チームの編成や効率の良い運用、チームとしての手順や整備法などリーダーとしてのノウハウにかなりのページを割いている。

















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