第5話 第一次世界大戦 → 現在へ
唐突ではあるが、1914年7月28日に勃発し1918年11月11日に公式に終戦となった”第一次世界大戦”に、日本皇国は最初から”
無論、英国側(連合国側)でだ。
この時期、まだ日英同盟は完全な双務的な物(=片方が宣戦布告されれば、片方は無条件で参戦する)にはなっていなかったが、英国はとある条件を出し、開戦直後より日本を参戦させることを成功させた。
「参戦するなら日露戦争の戦費を含め、これまで大英帝国から日本皇国に行った貸し付けを全額
是非もなかった。
当時、セルビア人グループによりオーストリア皇太子夫妻暗殺された”サラエボ事件”に端を発したこの戦争は、どの国もそこまで長くなるとは思っていなかった。
当時の日本皇国でも精々1年、長くても2年程度で終わると思っていたようである。
日本皇国が建前として「日英同盟を正しく履行する為」に、実状的には「英国の傭兵」として最初に起こした行動は、当時はドイツに割譲されていた山東半島、特に青島を攻略する。
この戦い自体は1914年(大正3年)10月31日 - 11月7日)で短期間で終結し、山東半島のドイツ軍は事実上、全面降伏し日本のあちこちに映画「バルトの楽園」のような”緩い空気の捕虜収容所”が生まれることになるのだが……
だが、日本にとってはここからが本番であった。
英国の要請に従い、第一陣である陸海軍合わせて7万2千人の軍勢を欧州戦線に送り込んだ。
最終的に最大派兵数29万8千人となる第一次世界大戦だが、ソンムの戦いをはじめとする名だたる戦いのほとんどには参戦した。
しかし、かと言って少なくとも攻勢作戦において日本皇国軍が主役となる作戦は、4年を通じて欧州ではなかったとされている。
反面、このような評価が残っている。
『一度、守勢に回った日本人は厄介な相手だった。弱くは無いが、強いかと言われれば首をかしげるが、彼らは陣地や防衛線の構築が上手く、士気や戦意が著しく高いわけは無いが反面、それらが崩れにくく、爆発力や圧倒的な攻撃力はないが、粘り強く戦うことに長けていた』
この評価は温度差はあれど敵味方問わず多くの国の陸軍兵士が、異口同音に語っていたようだ。
そう悪くない評価と言えるが、これは見方を変えると、
・防御的な作戦は、一足早く現代戦を経験した”日露戦争の戦訓”を生かすことができた(塹壕戦のノウハウや効率的な機関銃の運用、効果的な地雷原の敷設など)
・反面、装甲防御や機動力という概念が出てきた攻勢作戦では、戦車などの新世代装備を持っておらず、主戦を張るにはやや心許ない戦力と判断された
ということではないだろうか?
実際、陸の上での攻勢作戦では目立った活躍はあまりなく、少なくとも”肉弾三勇士”が生まれるような状況にはなっていない。
***
地味だが堅実な、大勝もないが大負けもない陸戦とは異なり、海上での戦いは華々しく、そして壮絶だった。
第一次世界大戦で欧州方面に派遣された日本皇国の主力艦は、英国の協力で前倒しに完成した史上初の排水量30,000t越えの扶桑型戦艦”扶桑”、”山城”。そして英国生まれで故郷でデビュー戦を飾ることになった金剛型の”金剛”と”比叡”であった。
まさに日本皇国が投入できる全てを投入したという陣容だった。
もっともこれは抽出できるぎりぎりの戦力だったらしく、扶桑型2隻の完成を急いだために設計改正型の伊勢型の起工は遅れに遅れ、またその余波は長門型にまで及んだ。
もっともこれは、第一次世界大戦のフル参戦が決定したために(欧州にピストン輸送せねばならないため)日本皇国の造船リソースを、大量建造の必要に迫られた輸送船や、それを護衛する巡洋艦や駆逐艦に急遽振り分けなければならなくなったことが大きく影響している。
特にドイツの
このような理由があり、第一次世界大戦中に日本に残っていた最新鋭の戦艦は金剛型の3,4番艦の”霧島”、”榛名”の2隻だけで、他には弩級戦艦の河内型とをはじめとする旧式艦ばかりいう状況だった。
だが、その中で大きな悲劇が日本皇国海軍を襲う。
舞台は、第一次世界大戦のハイライト・ステージであり、戦艦が戦艦らしく最も激しく砲撃による殴り合いを演じた史上最大規模の海戦、”
この時、日本の布陣は高速を誇る金剛型2隻は皇国の選抜水雷戦隊を率いて”戦場の火消し役”こと独立遊撃分艦隊として動き、この時代の戦艦の標準的な最高速の扶桑型の2隻は英国戦艦と戦列を組み、水上打撃群の一翼を担っていた。
結果を書いておこう。
英国戦艦共々、敵主力と会敵した扶桑型2隻は全力の砲戦を行い、”山城”は「主砲の長射程化により、砲弾は水平方向からではなく垂直方向から着弾する」事を自ら示して轟沈する。
ドイツ戦艦の砲撃に対して、合計65㎜の装甲厚しかない甲板は薄すぎた。
運悪く副砲の弾薬庫に火が回り爆沈したようだ。
だが、戦艦らしく戦い戦艦らしく沈んだ”山城”はまだ幸せだったかもしれない。
日本皇国艦隊の旗艦だった”扶桑”は、煙突に砲弾の直撃をくらい中破判定となり、母港リヴァプールに戻る最中に損傷が原因の重度の機関故障を起こし、曳航された状態で入港。
自航出来ないまま
金剛型2隻が損傷軽微で帰港し、以後の戦いにも参戦しながら第一次世界大戦を生き抜き、1919年1月1日、日本へ無事帰還したのとは好対照と言えよう。
***
この4年間で得られた戦訓、教訓、経験は日本皇国にとり値千金だったのだろう。
陸軍は塹壕を力任せに乗り越えてゆく戦車の開発と、更なる重火力化に勤しむことになる。
まあ、火力は正義だ。
それが九〇式野砲を改設計した戦車砲を積む”一式中戦車”や”一式改中戦車”、或いは47㎜48口径長砲を搭載した九七式軽戦車へとつながることになる。
一式も九七式も、まだ新しい戦車だが、作られたそばからトブルクに配備されているのは何気に心強い。
伊勢型戦艦は計画見直しの為に建造中止となり、16in砲搭載予定の”長門型”戦艦は大幅に建造計画が見直される事になった。
また、旧式戦艦のほとんどは「改装しても現代海上砲戦に対応できない」として一部が練習艦などとして残された以外は、大半が標的艦になるか解体処分された。
事実、第一次世界大戦の膨大な戦費を考えれば、戦後は緊縮財政……自主的に軍縮になるのは既定路線であり、海軍としても「無用な戦力」を維持することは無謀というものだった。
軍としては、もう一つ大きな動きがあった。
そう、”日本皇国
「青島の戦い」でも日独双方とも航空機やそれに対抗すべく対空火器が投入されたが、欧州で経験したそれは比べ物にならないほど大規模なものだった。
そうであるが故に新世代兵器である航空機を「より効率的に運用できる専属の軍」が必要という判断に至ったのだ。
これは、1918年4月1日に”英国王立空軍(Royal Air Force:RAF)”が設立されたことも大きく影響しているだろう。
ヴェルサイユ条約発効後の1920年4月1日、日本皇国空軍は発足した。
前世の記憶では、今のトブルクに配備されている”隼”や”鍾馗”は陸軍航空隊が、陸上攻撃機は海軍(基地)航空隊が運用していたが、現在は空軍が一元管理されている。
海軍が運用する航空機は基本的に「空母や艦艇に搭載できる各種航空機」と海上哨戒が主任務の水上機や飛行艇など。
陸軍が管轄するのは、弾着観測機や九九式襲撃機のような直掩機などだ。
特に九九式○○機シリーズは、戦後世界のヘリのような感じで多種類が近距離航空機として陸軍で採用されている。
20年と少し前に終結した第一次世界大戦は、1941年現在に強く影響している。
また、この20年間の間にも変わったことは多くある。
例えば、ヴェルサイユ条約体制下の1925年、ジュネーヴ議定書により第一次世界大戦で猛威を振るった毒ガスなどのC兵器(化学兵器)や細菌やウイルスなどのB兵器(生物兵器)の戦場での使用が禁止された(ただし、研究や生産、貯蔵は禁止されていない)。
毒ガスはわかるが、細菌やウイルスなどがそこに含まれるようになったのは、ある意味、第一次世界大戦が「奇妙な終わり方」をしたことが影響しているのだろう。
1918年より蔓延し、世界で5億人以上が感染し、どんなに少なく見積もっても1億人以上を殺した新型インフルエンザ”スペイン風邪”によって、参戦各国は継戦能力を失ったことで、ようやく終戦に向けた交渉テーブルにつくことができた。
参考にまで言っておけば、第一次世界大戦の戦死者は戦闘員が900万人以上、非戦闘員が700万人以上とされているが、スペイン風邪が殺した人数はその5倍以上だ。
これでは、戦争を終わらせたくなるのも頷けるし、こんな無差別大量虐殺を人為的に起こされたらたまったもんじゃない……と、まあこんなとこじゃないだろうか?
他にも変わらないもの、変わったものもある。
例えば、アメリカよりロシア革命に対応したシベリア出兵を呼びかけられたが、「第一次世界大戦とパンデミックによる疲弊」を理由に断っている。
また、日本皇国はドイツより戦時賠償の一環で遼東半島に続き山東半島を手に入れたが、国家生存戦略に関係するとある理由と事情により1941年現在、皇国は大陸に領土・領地は持っておらず、大陸経営から一切手を引いていた。
第一次世界大戦は、「戦争を終わらせる為の戦争(The war to end war)」と喧伝された。
だが……
「歴史は繋がっている。間違いなく」
「少尉殿、なんか言ったか?」
「いや、何でもないさ」
そして、俺は今日も引き金を引く。
1941年現在、
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