秋山くん、どっちなのかな?
脇汗がじんわりと出てくるのがわかる。
「ど、どこまでというと……なんの?」
「とぼけなくていいよ、知っちゃったんでしょ?」
顔が近い。
近くで見ると碓氷さんの肌はとてもきれいだ。
鼻息もかかってくる。
碓氷さんからはいい匂いがした。
いや、男なわけがない。
だってこんなにきれいなのに。
目が泳いで碓氷さんの顔を間近で観察することしかできない。
「あ、にきび。」
あ、やべ。
明らかに碓氷さんの顔がむすっとする。
「そういうのいいから。」
怒らせてしまったが、先ほどまでのような冷たさはなくなった。
「聞いていいですか?」
碓氷さんは問いかけに対しては何も答えず、続きを待った。
「碓氷さんは、どっちなんですか?」
「どっちって?」
碓氷さんは煽るように聞き返してきた。
「その……。」
なんで僕は今更思春期発動してるんだ?
「男の子なのか……、女の子なのか……。」
「さぁ?どっちでしょう?確かめてみる?」
何を言ってるんだ?確かめるって?
「どうやって?」
「さぁ?触ってみたらわかるんじゃない?」
「触るって……どこを?」
「それはあれだよ……きみ
何を言ってるんだ?
もし仮に女の子だった場合どうするんだ?
いや、男の子だったとしてもセーフなのか?見た目はほぼ女の子だぞ?
確かに胸では平たいから判断できない。
男だったら?
女だったら?
はたまたそれ以外だったら?
ごくり。
「どうしたの?触ってみないの?」
のどが渇く。
あたまがぼーっとする。
時計の針の音こんなに大きかったっけ?
がらがら。
「秋山、起きたか?」
碓氷さんの鼻息を感じる。
気が付けば今にもキスしそうなぐらい近づいていた。
「は、はい!」
「じゃあ、ありがとうございました!」
保健室の扉に手を掛けようとしたところで碓氷さんに呼び止められる。
「またあとでね、秋山くん。」
僕は何も答えずに保健室を後にした。
きーんこーんかーんこーん。
あれ?寝てたのか。
気が付けばみんな帰っていた。
結局弁当食べ損ねたし、午後の授業はなんにも集中できなかったな。
時計を見る。
三時五十分。悪くない。
よし、食べて帰るか。
鞄から弁当箱の入った包みを取り出す。
結び目をほどき、箸を取り出す。
卵焼き以外は冷凍食品だが、決して手抜きというわけではない。
むしろ、世の中のお母さんのレベルが高いのだ。
母は昔から不器用だったが、最近になってようやく卵焼きがきれいに巻けるようになったのだ。
そんなことを考えながら手を合わせる。
「いただきます。」
「おいしそうだね、それ。」
びっくりした。
これが食事中だったなら、米を吹いていたところだった。
「碓氷さん……。」
実のところなんとなく察しはついていた。
「またあとでね」なんて言っていたにもかかわらず、あれから碓氷さんは保健室から帰ってくることはなかったのだ。
心のどこかでは碓氷さんを待つために弁当を広げたのかもしれない。
「さっきの続きだけど……、触ってみる?」
「食事中なので。」
と、あっさり断る。そして再度合掌する。
僕が無視して食べ始めると、碓氷さんはため息をついて僕の前の席に座る。
「なんで僕の前に座るんですか?」
「だってここ私の席なんだもん。」
そうだった。
「
心の声が漏れるが、碓氷さんにかまわず食事を続ける。
「私っておかしい?」
「おかしくはないけども……。」と、言おうとしたが、いう間もなく碓氷さんは続けた。
「そもそも正しい一人称って何だろうね?」
「女の子は私で、男の子は僕?俺なんて言ったりもするよね。」
「でも、社会に出れば男の子も私を使うわけで、俺なんて言ってたら笑われちゃうもんね。」
「その点、英語だったらみんな『
「でも日本語の一人称が不便ってわけじゃないとおもうんだよね。」
碓氷さんは止まらない。
「だって小説とか読んでて、『僕』のセリフがあるだけで、男の子のセリフなんだってわかるもんね。」
「でも逆に、女の子のキャラが『僕』なんて言ってたら読者は混乱しちゃうもんね。」
「何をもってして男の子と女の子を判断すればいいんだろうね?」
「おちんちんが付いてるから男の子?」
「おっぱいが膨らんでいれば女の子?」
「でもそれって体の性別の話だよね?」
「心は?」
「好きになった人が女の子なら男の子なのかな?」
「それとも、男の子を好きになれば心は女の子?」
「心の性別が仮に分かったとして、結局その人の本質はどっちにあると思う?体のほう?心の方?」
気が付けば僕は箸を止めていて、聞き入っていた。
「秋山くんこそどっちなのかな?本当に男の子?」
碓氷さん、どっちですか? はりぼちゃ。 @haribo-3
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