第34話 魔女の晩餐
「みんながみんな魔術師ってわけではないと思うけれど、大半はそうね。特に魔法を使って力仕事をしていた魔術師は、ほとんど占い師になったわ」
繁華街が占い屋で溢れかえっていたのは、そういうことだったのか。
「これはわたしの責任でもあるの。わたしがゴーレムをこの都市に導入したのは、老人や、怪我や病気で働けなくなった人の生活を支えるためだった。それがゴーレムの普及に伴って、魔術師たちの生活を圧迫してしまったから……」
クルーゼさんの言いたいことは、なんとなくわかる。
社会的弱者の救済措置として機械を導入した結果、新たな弱者を生み出すことになってしまったということだ。
「ものすごく難しい問題ですね……」
「そうなのよね……。ゴーレムを導入した立場として、わたしなりに魔術師たちの新しい仕事を作ろうと思ったのだけれど……それでもやっぱり、みんなを納得させることができなくて……」
新しい仕事っていうのが、ようは観光業や繁華街の占い師たちのことなのだろう。
「ニケはクルーゼ様が間違っているとは思わないにゃ!」
「……いちおう聞くけど、なんで?」
「そりゃもうクルーゼ様だからなのにゃ!」
聞いた俺が馬鹿だった。
ニケの根拠なき根拠に内心呆れていると、クルーゼさんは頬に手を当て「あらあら」と困ったように笑ったのだった。
「ごめんなさい、貴女たちの悩みを聞くはずが、いつの間にかわたしの悩みを聞いてもらっちゃったわね」
「いえ、そんな」
ただで話を聞いてもらってる上に、食事まで振舞ってもらったんだ。
文句なんて言えるはずがない。
「それで、王様さん。貴女の悩みだけれど、きっとこの都市の中央にある、大図書館に行けばヒントが得られると思うわ。あそこには、わたしが集めた様々な伝説や伝承にまつわる本が置いてあるから」
「大図書館って、あの、鐘のついた時計塔のことですよね?」
「ええ、そうよ。調べものが済むまでこの家から通うといいわ。きっと、一日二日では終わらないもの」
「えっ……いいんですか?」
「もちろん」
「……あの、なんで今日あったばかりの俺たちに、そこまで良くしてくれるんですか?」
俺とニケはエマを送っただけだ。
感謝されることかもしれないけど、だからといって居候させてくれるってのはいくらなんでも変だ。
親切心が過剰というか、親切すぎて、逆になにかあるんじゃないかと疑ってしまう。
「それは----」
「ごちそうさま!」
クルーゼさんがなにかを言いかけると、食事を終えたエマは飛び降りるように席を立ち、ダイニングテーブルを回り込んでニケの元へと駆け寄っていく。
「ねえねえ、ニケお姉ちゃん! ご飯を食べ終わったから遊んで遊んで!」
「にゃはは、もちろんにゃあ!」
「じゃあ、わたしの部屋に行きましょ! こっちよ!」
ニケはエマに手を引っ張られ、二人はダイニングを出ていった。
「あいつ、食器も片付けないで……。すいません、俺が代わりにあいつの分も洗いますから」
「うふふ、ありがとう。それで、さっきの答えなんだけど」
「え?」
「どうして貴女たちに親切にするのかっていう話。それはね、エマが貴女たちのことをとっても気に入っているからよ。あの子は昔から体が弱くて、ビジネス街の学校にもあまり通えていないの。それで友達も少ないから、ぜひ貴女たちにあの子の遊び相手になってもらいたくてね」
ああ、そういうことだったのか。
「俺たちで良ければ、遊び相手になりますよ。でも、本当にいいんですか?」
「もちろん! 貴女たちが来てくれたおかげで、久しぶりにあの子が笑顔になったんだもの! 本当は少し前まで、あの子の遊び相手だったゴーレムがこの家にいたの。でも、魔導委員会の通達で、労働以外のゴーレムの所有が禁止されてしまったから……」
「だから工業区にいたんですね」
なぜあんな小さな女の子が工場の中にいるのか疑問だったが、あの子は自分のゴーレムを探していたんだ。
「改めて、引き受けてくれるかしら?」
「むしろこっちからお願いしたいくらいですよ! よろしくお願いします!」
「ありがとう……本当にありがとう」
感謝の言葉を口にしているクルーゼさんの表情はどこか寂しげで、なぜか俺は、彼女の揺らめく藍色の瞳から目が離せなかった。
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