第23話 最強と最強、勝ったのはより最強だった方

「がはははは! 機械の王よ! お前はちっぽけだなあ!」

「お前は無駄にデカいな! さあ、決めようぜ。真の最強はどっちなのか!」

「がはは、よかろう! まずは死ねい!」


 リカルドが口を開いた。


 喉の奥が赤く光り、やがて白くなり、火球というより熱線ビームに近い高エネルギー体を吐き出した。


 思考を加速させて速度を計ってみる。意外と早い。秒速およそ二十九万キロメートル。光速よりやや遅い、といったところだ。


 俺は歩いて回避する。

 ぎりぎり光速を超えないように気をつけてはいるものの、俺が一歩踏み出すごとに周囲の空間が歪んで、地面を構成する分子が歩行の衝撃に耐えきれず崩壊する。


 やばい。この速度だと歩くだけで世界を滅ぼしそうだ。走ったりしたら超重力を生み出しかねない。思考速度を調整しないと。


 焦りつつ慎重に熱線を回避。回避は容易だが、焦らされたということは、焦らせるほどの威力があるということだ。


 相手の力量に関する見積もりを修正し、ただちに思考加速を解除する。


「うおっ」


 戻した瞬間、目の前に鋭い爪が迫っていた。

 リカルドの奴、生の反応速度だとこんなに早いのか。こりゃたまげたぜ。

 反射的に爪を握ると、爪は砂糖菓子のようにあっさりと砕けた。

 お、どうやら硬度はそれほどでもないようだな。


「ぐおおおおお!? 俺様の爪が砕けただと!?」

「悪い。急に詰めてくるから、驚いて手加減できなかった」

「ぬぐっ、舐めるなあああああ!」


 リカルドが三対、計六枚の翼をはためかせ暴風を巻き起こす。

 荒々しい魔力を内包した風は竜巻を巻き起こし、空気の刃となって千のドラゴンに襲われても耐えられる城を細切れに切り裂いた。

 なるほど、直接攻撃より遠隔攻撃の方が強力みたいだな。

 でも、


「竜巻には目があるんだよなぁ」


 俺はすでに風向きの演算を終え、ニケと共に唯一の無風地帯である竜巻の中心に立っていた。

 

「にゃああああ! 飛ぶ! 飛ぶにゃあああああ!」


 安全地帯に引き込んだニケは、帽子を手で押さえ、地面の上でうずくまりながらぶるぶると震えている。


 相当怖いのか、生えたばかりの尻尾を足の間に挟んでいるところがなんとも可愛らしい。


「落ち着け。一歩も動かなければ大丈夫だ」

「無理にゃああああ! これ死んでしまうにゃああああ!」

「大丈夫だってば」


 ポケットに手を突っ込んだまま頬を撫でる風を堪能していると、リカルドが羽ばたくのをやめて地上に降りてきた。

 

 視線で射殺さんとばかりに、こちらを睨みつけてくる。


「クソがああああああ!」


 性懲りもなくまた熱線を撃とうとするリカルド。

 爪に風に熱線って、お前の考える最強ってのはそんなものなのか。


「片腹痛いっつーの」


 いま避けたら、足元にいるニケが蒸発してしまう。

 俺は迎撃すべく、「体内工場」で右腕内部に核融合炉を形成。掌に作った射出口を奴に構えた。


「コア・ツー……起動」


 今度はハートの左上が赤く発光した。

 コア・ツーは動作系の連結。それはエネルギー系の連結という意味でもある。

 構築した核融合炉を、彼女たちの演算能力を駆使して起動する。

 右腕の周囲に、黒い稲妻が迸る。


「ディーテリウム・キャノン!」


 技名は思い付きだ。核融合炉は重水素ディーテリウムで発電するし、まんまだな。

 右手から発射された緑色の光は、リカルドの放った白い熱線を飲み込み、押し返していく。


「うぐおおおおおおお! 俺様が、負けるのか!? こんなにも強いのに! こんなにも力が溢れているのに! なぜだ!? なぜだあああああああ!」

「最強の矛と最強の矛。勝ったのはより最強の矛でした、ってことさ。あばよリカルド。お前、強かったぜ----最強にな」

「俺様のことはドラグナーとっ----ぐああああああああ!」

 

 リカルドは光に飲み込まれ、塵と消えた。

 最初は不安だったが、予想通りの結果だ。


 俺は最強。だが人間とは戦えない。だから相手も最強にする。

 人間であることを辞めさせ、異形の土俵に上がらせる。その上で、最強の力を最強の力で打ち砕く。


 それが機械の王である俺の戦い方。これが俺の、勝利の方程式なのだ。


「これで一件落着、か。おいニケ、お前は自由の身になれたんだし、少しは喜んだらどうだ? ……ニケ?」

「にゃはあああああ……」


 足元でニケが大の字に倒れたまま泡を噴いていた。

 さっきまで鬼のような形相で鎌を振り回していた人物とは思えないほど情けなくて、俺は思わず頬が緩んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る