第3話 交換して強化

 数時間後、ゴミ山の中で微かに動いていたゴーレムを発見。

 スキル「解体」でバッテリーを取り外し「改造」で自分に取り付けた。

 申し訳ないとは思ったがこの際仕方がない。いつか返しに来るからそれまで待っててくれ。


 ついでにそのゴーレムから視覚センサーも手に入れた。色彩を取り戻し、空を見上げる。

 抜けるような青さが心に染みた。ビュリホー、イン・ザ・スカイ。


 ひとまず危機を脱したのでもう一度ウィンドウを開いてみる。バッテリーの残量は三十パーセント前後。思ったより回復してねぇ。

 ちなみに現在の状態はというと、


・頭脳:汎用型演算装置

・胴体:汎用型ドラムボディ

・右腕部:汎用型フレキシブル・リングアーム

・左腕部:汎用型フレキシブル・リングアーム

・右脚部:汎用型フレキシブル・フット

・左脚部:汎用型フレキシブル・フット

・核:ホワイト・コア

・電源:有機分解型バッテリー

・オプション:分析機能付き視覚センサー、汎用型マイク、汎用型スピーカー


 ふむふむ、この有機分解型バッテリーってのは、その名の通り有機物を分解して電気に変えることができるみたいだな。

 これはありがたい。小動物を捕まえればそのまま電力に変換できそうだ。

 それよりこの分析機能付きセンサーってのはいったいなんなんだろう?


 スキル一覧を見てみると、一番下の段に「分析」スキルが追加されていた。

 ウィンドウをタッチして説明文を開いてみると、どうやら見たものの情報を教えてくれるらしい。

 さっそく分析スキルを起動して、さきほどバッテリーをいただいたゴーレムを見てみる。ゴーレムが丸い照準のようなものに囲まれ、視界の右側に縦長のウィンドウが表示された。


・名称:農業用ゴーレム

・装備:農業用演算装置、ヒューマノイド・ボディ、ヒューマノイド・アーム(右腕)

・概略:農作業に特化したゴーレム。両腕の装甲は厚く、また出力も高く設定されている。細かい作業は苦手。


 このゴーレムは上半身しかないし、左腕ももげちゃってるからこれしかパーツがないのか。

 ヒューマノイド・ボディが赤く表示されているのは、たぶん胸から下が欠損しているからだと思う。つまり故障しているパーツは赤色表記。使えるパーツは白色表記ってわけだ。

 ……ならこのゴーレムの腕って使えるんじゃないか?


 試しに農業用ゴーレムの右腕を注視したまま「解体」スキルを起動した。

 すると腕を固定しているボルトだけが蛍光緑色に発光して見えた。

 先ほどバッテリーや視覚センサーを取り外した時も同じで、このスキルは外すべきポイントを教えてくれる。


 リング・アームでボルトをつまんで回転させると、ボルトは難なく外れた。握力が半端じゃない。これが油圧の力だ。本当に油圧かどうかは知らんけど。


 腕を外してから「改造」スキルを発動すると、今度は自分の右腕から空気が漏れるような音がしてぼとりと地面に落ちた。

 あまりにもあっさり腕がもげたので驚いたが痛みはない。痛みどころか視覚と聴覚以外の感覚がないんだけどね。はは、あー笑えない笑えない。


 心の自傷行為もほどほどに、左のリング・アームで取り外したばかりのヒューマノイド・アームを掴み、右肩に押しつける。

 肩から飛び出していた継ぎ手ジョイントに難なく嵌った。動かせる。右腕だけがゴリラみたいにごつくなってしまったが、指がある分リング・アームよりずっと細かい作業ができそうだ。


 よし、ひとまず今やるべきことが決まった。俺にはいま、三つのタスクがある。


 まずはバッテリーの充電だ。充電するためには有機物を摂取する必要がある。ようは肉や野菜を食えばいいってことだ。


 次に自分を改造する。この体はあまりにも不便だ。リング・アームじゃ握ることなんかできないし、農業用の右腕も指が太すぎる。これじゃゴリラだ。

 それに平べったい鉄板が張り付いているだけの足も交換したい。地面のちょっとした凹凸やガラクタに躓いて転びそうになる。


 三つめは、これはかなり望み薄だけど、人間になりたい。人間型じゃなくて人間になりたい。

 右腕を交換して改めて感じたが触角がないってのはクリエイターとしては致命的だ。これじゃ繊細な作業が必要な創作なんてできっこない。

 こうして機械の体になってみると人体ってのは驚くほど高性能だとわかる。

 手だけでも、いったいいくつのパーツでできているのか。そのうえ体中に張り巡らされた神経は味や匂い、触り心地まで正確に読み取ることができる。

 機械が人間になるなんて常識的に考えたら絶対無理だ。

 それでも望みはある。

 だってここは異世界。

 異世界といえば、そう、魔法だ!

 きっとこの世界には魔法がある。あってもらわなきゃ困る。

 俺自身が魔法を習得するか、使える人を見つけて人間にしてもらう。それが俺の目標であり、前に進む理由だ。


 蜘蛛の糸のほうがいくらか期待できそうなか細い期待を胸に、右腕だけが異様にごつくなった体を引きずって、荒れた大地を踏みしめた。

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