義妹は俺としか話せない

 階段を飛び跳ね、急いで二年の教室へ向かう。

 確か、二年A組だったはず。


 教室前に到着して飛び込もうとすると、中から何か飛び出てきて、俺の腰辺りにしがみついた。



「――って、夢香!」

「待ってたよ、お兄ちゃん」

「なにがあった」

「なにも?」

「なにもって……オイ」


「ちゃんと駆けつけてくれるかなぁって思ってさ」



 そういうことかよ。

 俺を試したってわけね。

 そりゃ、もちろん駆けつけるに決まってる。


「紛らわしいことするなよ。心配しちゃっただろ」

「心配してくれたんだ。嬉しい」

「当然だ。さあ、帰ろう」



 腕に抱きつかれたまま、俺は夢香と共に歩きだす。

 こうベタベタされると目立つのだが――思ったよりも、周囲の視線は“無関心”だった。それとも、見ないふりをしているのか。


 少なくとも夢香への視線はあった。


 俺は透明人間扱いかよ。

 別にいいけど。




 学校を出た。

 校門前に差し掛かったところ――謎の人物によって道を塞がれた。



「ちょっと待ってくれ!」



 同じ高校の生徒だ。

 茶髪ピアスで丸眼鏡とは……明らかに陽キャの部類に入るタイプだ。そんなヤツが俺になんの用だ?


 いや、夢香に用があるのか。

 だが俺は夢香を庇うように前へ。


 ちょっとビビってるけど、夢香の前でカッコ悪いところは見せられない。


「な……なんだい、君。俺に用か?」

「あんたじゃない。平田さんに用があるんだ」


「その平田は俺だけど」


「……え。同姓か。じゃなくて、夢香さんの方だ! 彼女に用があるんだ」



 だが、夢香は青ざめていた。

 あ~…ですよね。


 俺もかなりギリギリなところなのだが、夢香はもっとコミュ障なのだ。

 少し前に聞いた事があるのだが、夢香は極度のあがり症。特に相手がイケメンだとズタボロらしい。

 そのせいでイケメンの相手は正直したくないんだとか。


 俺みたいなギリ普メンが許容範囲のようだ。ちょっと悲しいけど、でもそのおかげで俺は夢香とだけは接することができたのだ。



「…………(ブルブルブル)」



 ダメだ、こりゃ。



「お、おい。君、夢香が怯えているだろ……」

「ど、どうして!? なぜ!?」



 相手の男も混乱しちゃってるよ。

 てか、俺ももうキツイ!!


 夢香以外の誰かと話すと心拍数もヤバいし、目線を合わせるのも三秒が限界だ。もう活動限界を迎えている。



「……夢香、行くぞッ!」

「……う、う、う、うん……」



 俺たちはその場から逃げ出した。

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