(19) 幕間
――遠い夢の記憶の中で、少年が空を見上げている。
遥か遠くを見ているのか、そこに居る月を見ているのか、それは分からない。
両親に虐げられた日は、決まって空を見ていた。時々だったそれは、いつしか毎日になった。
雨の日は、出来るだけ遠くの方を見ているようだった。もしくは、雲を抜けた空の先を空想しているようでもあった。
――いっそ壊れてしまえれば、楽になれるのに。と、少年は呟いた。
それでも壊れることがないし、突然死んでしまえるような幸運も訪れなかった。
地獄はここだから、死ぬことも出来ないのだと悟ったようだった。毎日帰る場所こそが地獄であると、誰が想像するだろうか。
月から見守る何かは、ただ待ち続けていた。待ち続けるしか出来なかった。奇跡が集約されたような存在が現れるまで。
今は違う。その少年を、彼を、故郷の星に送ったのだ。
永く待った甲斐があった。故郷での環境も万全のタイミングで、理想通りに念動の芽も出た。全てが彼のために巡っている。そう感じざるを得ない程に。
月から見守る何かは、故郷を再生出来るのではと期待している。壮大な計画の、最後の欠片が揃ったのだから。ただし今は、更に機が熟すまで待つ事にした。焦りは禁物だからだ。
一方、彼を……エラを間近で見守るアドレーは考えていた。
エラの話した事が事実ならば、この星を再生させるために送られたのではないかと。古代史は作り話の創世記ではない。エラはそれを証明する存在と言える。
だがアドレーはこう思う。この雛鳥には、もっと愛情が必要だと。星の再生などという想像もつかない事よりも、今目の前で眠る、我が子を愛したいと。
――この世が地獄なのだと悟った者は、眠っている。手に伝わるぬくもりが、苦しい夢を遠ざけてくれたようだった。少し穏やかになった寝顔で、静かに眠っている。
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