ILLUSION ーイルジオンー

T-Kawa

Prologue ープロローグ、森の道でー

 ベージュのレンガでできた高い壁を両側に備えた道を少年が歩き続けていると、飾りのような低い階段が足許に見えた。特に何も思わずそこを降りると、軽く整地されていた道がデコボコになり始めた。レンガの外側にはさらに背の高い森が広がっており、それ特有の包み込むような冷たい香りが漂っていた。

 また少し歩くと雨が降り始めるが、傘を差すことはなく濡れながら歩いていく。

 背後から地を蹴る音が聞こえた直後、「待って!」と呼ぶ声がする。少しためらった後、少年は振り向く。彼にとって見慣れた少女が立っていた。

「どこに行く気?」

 また少年はためらい、「別に。」と答え再び歩き始めるが、腕を掴まれその足が止まる。

「別にって何?」

 少女は語勢を強め少年に詰め寄る。それに押されて「どこに行くかは決めてないよ。」と答える。

「決めてないってどういうこと!?」

 少女の語勢はさらに強くなる。

 これまで一番の躊躇の後、少年は口を開いた。

「・・・あの街にいると気が狂いそうなんだ。」

 一度下を向いてまた向き直り、「ごめん。ローデリカ。」と重い色を帯びた言葉を発した。

 少年と反対に、答えに納得いかない様子のローデリカと呼ばれた少女は鬼気を纏う。

「一緒に魔導士になろうって約束したじゃん!」



「俺は魔導士にはなれない!」

 間髪入れず放たれた返答に少女は怯み「なんでよ!」と尋ねる。少年は再びためらいながら答える。

「俺、体内に魔素を溜め込めないんだ。」

 吃驚し全身に籠った力が抜けた少女から「えっ…?」とかすれた声が出る。しかし微量の威勢を取り戻し「でも、ルッツは魔法使えてたじゃない!それなのに、魔素がないって・・・!」と再び詰め寄る。

「身体に蓄積させられないだけで、体外の魔素を操作するのは問題ないんだ。だから下位の単純な魔法は使える。」

 少女が言葉を探している間に少年は再び口を開く。

「でもさ、体内に一定量の魔素を溜め込めないと上位の魔法を使うのは困難らしいんだ。それで、魔法大学校に受からなかった。」

 涙が瞼まで迫るのを押さえて少女が叫ぶ。

「そんな・・・ でも、だったら!言ってくれればよかったじゃん!」

 少年は下を向き、「ごめん。情けなさすぎて言えなかったんだ。10年以上もずっと一緒に魔導士目指してたから・・・」

 言葉を探す少女の脳内をさらなる錯乱が襲う。

「・・・ちょっと旅行するだけだから!」少年は少女に背を向け走り出した。

「待って!」少女が咄嗟に叫ぶが、少年の姿はすぐに小さくなり、見えなくなった。



「待ってよ、ルッツ!」少女の声はただ森とレンガに吸い込まれていった。

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