第2話 踊れ、踊れ

 私は、アルさんたちに連れられ、船内へと入った。そこは、まるでホテルのような内装をしていた。部屋の中に入ると、そこにはソファーやテーブルなどが置かれており、奥にはキッチンのようなものがあった。

 アルさんたちは、私のことを気遣って、座らせてくれた。

「はいどうぞ。熱いから、ゆっくり飲んでね」

 アルさんは、私にティーカップを差し出した。

「いただきます」

 一口飲むと、紅茶の良い香りが鼻腔をくすぐった。

「すごくおいしいです」

「そう?なら良かったよ。どんどん食べてね」

 アルさんがクッキーの入った皿を勧めてくる。

「はい。ありがとうございます」

 私は遠慮なくいただくことにした。サクッとした食感とともに甘さが口に広がっていく。その味は今までに食べたことがないくらいに美味しかった。思わず夢中で食べる。

「すごい勢いで食ってるな。お腹が空いていたのか」

 ダガンさんが不思議そうな顔をしている。

「いえ、それほどでもないと思いますが……。もしかしたら、緊張しているのかもしれません」

「なるほどな。まぁ、無理もないことだ。俺たちのことは気にせずに好きなだけ食えばいい」

「はい。そうします」

「それで、マミは何か質問はあるか?」

「そうですね。アルさんたちって、何のためにやってきたんですか?」

「僕たちの星のエネルギー問題をなんとかするためだよ。そのためには、マミの力が必要なんだ」

「具体的には何をすれば良いのでしょうか?」

「ダンスをして欲しいんだ」

「ダンスですか……?」

 ダンスと言われてもピンとこなかった。

「ああ、そうだよ。マミは踊ることで、たくさんの人たちを笑顔にする力を持っているんだ」

「私がそんな力を……。でもどうして、それがわかるのですか?」

「マミの体を見た時にわかったんだ。マミの体は、光を放っているんだよ。とても綺麗だった」

 アルさんは真剣な表情をしている。

「それって本当なんですか!?」

「嘘なんかじゃないさ。信じてくれ」

 アルさんは私の目を見つめる。私は、アルさんの目を真っ直ぐ見返すことができずにいた。

「信じられないかもしれないけれど、本当のことなんだ。どうか、お願いできないだろうか」

「そう言われましても……」

「頼む! 君しかいないんだ!」

 アルさんは頭を下げる。

「えっ、ちょっと待ってください! 頭を上げてください!」

「嫌だ!このままでは、僕らの星が滅んでしまうんだ!これは、僕たちが生きるか死ぬかの問題なんだ!」

 アルさんは必死に訴えかける。

「そこまで言うならわかりました。協力させていただきます」

「本当かい!?」

「はい。ただし条件があります。まず、私以外の人に迷惑をかけないこと。そして、この仕事が終わったらちゃんと地球に帰してくれること。これらを守ってくれるという約束をしてくれないと、私は、あなたたちを信用できません」

 私は、アルさんの目を見て言った。

「もちろんだとも!無事に帰すことを誓うよ。これでいいかな?」

「はい。問題ありません」

「よかった。じゃあ早速だけど踊ってくれるかな?」

「えっと、ここでですか?せめて、どこか広い場所で踊りたいのですが」

「そうか、それもそうだね。ではホールへ行こうか」

「はい、分かりました」

 私たちは、階段を登っていく。私は、今になって不安を感じていた。本当にうまくできるんだろうか、失敗しないといいけど。

「どうしたんだい、マミ? 浮かない顔をしているようだが。具合が悪いとか?」

「いえ、そういうわけではありません。ただ、緊張しているだけです」

「大丈夫だよ。僕たちがついているから」

 アルは微笑む。

「ありがとうございます」

「着いたぞ。ここが、ダンス会場だ」

 そこは大きな部屋で、真ん中に丸いステージがあった。床は板張りになっていて、壁や天井に鏡が貼り付けてあった。その横の壁には、スピーカーのようなものがいくつもあった。照明器具は見当たらないが、天井が明るくなっていた。

「さぁ、始めようか」

「はい。よろしくお願いします」

 私は深呼吸をする。

「それじゃあ、ミュージックスタート!」

 アルさんがそう言うと、どこからともなく音楽が流れてきた。ゆったりとしたテンポの曲だ。私はリズムに合わせてステップを踏んだ。すると、体が軽くなって、まるで宙に舞っているかのような感覚になった。それと同時に、私は心が満たされるような気持ちになった。

 こんな感じは初めてだった。今まで体験したことの無い感情。これが愛っていうものなのかもしれない。

 すると、ダガンさんが声を上げた。

「素晴らしいぞ!マミ。どんどんエネルギーが高まってるじゃないか。頑張れ!」

 ダガンさんの声援に答えるように、私はさらに激しく動いた。しかし、疲れを感じなかった。もっと、もっともっと、動きたかった。いつまでも、こうしていたかった。でもそれは叶わない夢なのだ。

 音楽は鳴り止み、辺りが静寂に包まれた。

「すごいよ、マミ!最高に輝いていたよ」

 アルさんは拍手をしながらそう言った。ダガンさんも同じように褒めてくれた。

 嬉しかった。自分のことを必要とされているのがわかった。心が温かくなってゆくのを感じた。私は、自然と笑っていた。

「あ……れ?」

 突然、私の視界が歪んでいった。意識が遠のいて、やがて目の前が真っ暗になる。

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