第3話 やわらかくて、透明な

 次に目を覚ますと、私はベッドの上に寝ていた。

「おっ、目が覚めたようだね」

 私は、ゆっくりと起き上がった。周りを見ると、そこは小さな部屋であった。机と本棚があり、ベッドとソファーがあるだけの質素なものだったが、生活感はある。どうやらアルさんの部屋のようだ。

「あの後、どうやって家に運んだのか覚えてないけど、とりあえず無事で良かったよ」

 アルさんは微笑む。

「そうだったんですか……。ご迷惑をおかけしました」

「いやいや、気にしないで。それより、体の調子はどうかな?」

「問題なさそうです」

 私は自分の手を開いたり閉じたりしていたが、そのうちあることに気付いた。

「あれ、なんか透けてない?」

「それが君の本当の姿なんだ。さっきまでは人間の姿をしていたけど、今はもう違う。ほら、向こう側が見えてるよ」

 私は驚きを隠せなかった。

「えっ!? 本当だ……」

「驚くことはないさ。君は選ばれたんだから。さあ、もっとよく見せて」

 アルさんはそう言うと、私の透けた手のひらをじっと見つめる。まるで美術品を鑑定するような目つきだ。そんなにまじまじと見られると、恥ずかしくて照れてしまう。私は思わず手を引っ込めてしまう。

「あんまりじろじろ見ないでください。ちょっと怖いですよ」

「はははっ、ごめんね。つい興奮してしまって」

 アルさんは笑いながら謝った。

「じゃあ、僕はそろそろ行くとするかな。またね」

「はい」

 アルさんがいなくなった後、私は改めて自分の体を見てみた。やっぱり透けている。手で触るとちゃんと感触はあるのだが、体は透けてしまっている。私はふと思った。アルさん達はどうして私を選んだんだろう。何の取り柄もない普通の女子高生なのに。不思議に思っていると、扉の向こうから声が聞こえてきた。

「マミさーん、入るよー」

 そう言って入ってきたのは、ユイさんだった。

「こんにちは。具合はどうですか?」

「うん、大丈夫」

「良かったぁ。心配したんですよぉ。急に倒れるものだから」

「本当にごめんなさい。でも、おかげで助かったわ」

「いえ、良いんです。お礼なんて言わなくてもいいですよ。だって、私たち仲間じゃないですか」

「そうですね」

 私が笑うと、ユイさんも笑った。

「ところで、さっきアルから聞いたのですが、マミさん、体が透けちゃったらしいですね」

「そうなの。びっくりしちゃいました」

「まあ、いずれ慣れますよ」

「そうだといいんだけど……」

「それで、これからのことなんだけど……」

「はい」

「私たちの星がエネルギー不足に悩まされているのは、ある原因があるのです」

「その原因って?」

「実は、私たちはダンスが踊れなくなってしまったのです」

「ええ!? どうしてですか?」

「ダンスを踊るために必要なものが足りなくなったのです」

「それは?」

「心の輝きです」

 ユイさんは深刻な顔をしている。一体どういうことだろう。

「心の……輝き?」

「そう、心です。心がなければ、ダンスは踊れません」

「なるほど」

「そこでマミさんには私たちが心を取り戻せるように、あることをやって欲しいのです」

「どんなこと?」

「それは……」

 ユイは言葉を言いかけた瞬間、誰かの声が聞こえた。

「おい、ユイ。こんなところにいたのか!」

「あ、ダガン! 」

「まったく……。お前はいつもフラフラどこかに行ってしまうんだから」

「ごめん、ごめん。今すぐ行くから」

「わかったよ。早く来いよ」

 ダガンさんはそう言うと、部屋から出ていった。

「すみません、話の続きはまた後で。ダガンが呼んでいますから」

「わかりました」

「それでは、また会いましょう」

 ユイさんはそう言い残すと、ダガンさんの後を追った。

 ユイさんたちが出て行ったあと、私は一人になった。誰もいない静かな空間で、私は心とは何かについて考えていた。心とは一体なんだろう? そもそも心というものはどこにあるんだろう? 頭だろうか、それとも胸の中だろうか。

 考えれば考える程、頭が混乱してきた。そして、私の意識は次第に薄れていった。そして、気が付くと私はベッドの上で寝ていた。



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