第4話 アイシテ・ル!


 それからしばらく経って、宇宙船はアルさんたちの星へ到着した。宇宙船を降りると、そこにはたくさんの建物があった。どれも地球にはないような形をしていた。まるでアニメに出てくるような家ばかりだ。

 するとダガンさんが話しかけてきた。

「ようこそ、マミ。俺らの星へ」

「すごい! これがあなたの星の景色ですか?」

「ああ、そうだぜ。なかなか綺麗なもんだろ」

「本当だ! 素敵!」

 私は思わず感動してしまった。目の前に広がる光景はとても幻想的で美しかった。

「おっと、あまりゆっくりしていられないんだった。ユイ、そっちの準備は終わったか?」

「はい、終わりました。いつでもいけます」

「よし、じゃあ早速始めるぞ。マミさん、あなたはこっちに来てください」

「はい」

 ダガンさんに案内されて、私は建物の中に入った。そこはダンスホールになっていた。天井は高く、とても広々としていた。そして、フロアにはたくさんの椅子が置かれていた。その数はざっと数えても百はある。たくさんの宇宙人たちで、フロアはごった返していた。

「あの、これは何の集まりですか?」

 私の疑問に答えてくれたのは、ユイさんだった。

「マミさんには、ここでライブを行ってもらいたいんです」

「ライブ?」

「そうです。私たちが心を取り戻せるように、ダンスを踊ってほしいんです」

「私が……、ダンスを?」

「はい、そうです。大丈夫ですよ。マミさんならきっとできますよ」

「でも、私ダンスなんてやったことがないし、それに私、体が透けているから、うまく踊れるかどうか……」

「そんなことは気にしなくていいんですよ。大切なのは気持ちです。マミさんの踊りたいという気持ちがあれば、きっと成功するはずです」

「本当に?」

「ええ、もちろん」

「……わかりました。やってみます」

「ありがとうございます。それでは準備を始めましょう」

 ユイさんはそう言うと、ステージの奥の方へと向かっていった。そして、大きな箱のような機械を取り出した。

「これ、なんだと思いますか?」

「さぁ、なんでしょう」

「実はですね……」

 ユイさんはニヤリと笑みを浮かべながら言った。

「実はこの中に、地球の音楽が入っているのです!」

「音楽!?」

「そうです。地球の音楽は素晴らしいものばかりです。特に、アイドルという存在が生んだ歌は、我々にとって最高の娯楽となっています」

「アイドルって、あのテレビとかでよく見るやつですか?」

「そうです。マミさんは、アイドルを知っていますよね」

「はい、知っていますけど……。でもどうして、それがここにあるんですか?」

「それは秘密です。確かに言えることは、我々は地球人の歌を聴きたいと望んでいるということです」

 ユイさんはそう言って微笑んでいた。

「わかりました。それで、どんな曲を踊るんですか?」

「そうですね。まずはこの曲を聴いてください」

 ユイさんは、部屋の奥から持ってきた機械を操作し始めた。そこから流れてきた曲は、紛れもなく私の知っている曲だった。

「この曲は……、『アイシテ・ル!』だ」

「ご存知の曲ですか?」

「はい、すごく有名で、みんながよく聴いている曲なんですよ」

「そうなんですね!やっぱり地球って凄いんですね」

 ユイさんは目を輝かせていた。

「それじゃあ、リハーサル始めてください」

「はい」

 私はダンスを始めた。ダンスの経験は全くないけれど、それでも精一杯頑張って踊った。体を動かしているうちに、だんだん楽しくなってきた。体が軽くなったような気がした。

「マミさん、とても良い感じですよ」

 ユイさんはそう声をかけてくれた。

「本当? 嬉しい!」

 私は自然と笑顔になっていた。

 それからしばらくして、ダガンさんが私に声をかけた。

「マミ、そろそろいいか?」

「うん、大丈夫だよ」

 ダガンさんは、大きく息を吸い込んだ。そしてゆっくりと吐き出すと、大声で叫んだ。

「よーし!いくぞ!お前ら!俺たちの心を取り戻すんだ!」

 すると、どこからともなく歓声が上がった。

「おっしゃあああ!!」

「やってやるぜええええええええええええ!!!!」

 ダガンさんが叫ぶと同時に、観客たちのボルテージも上がっていた。

「マミ!頼むぜ!」

「わかったよ」

 私はダガンさんの声に応えるように、元気よく返事をした。ダガンさんは私をじっと見つめると、満足そうに大きくうなずいていた。

「よしっ、始めるぞ」

 すると会場に『アイシテ・ル!』のイントロが流れ出した。

「うおおおお!!待ってましたあ!!!」

「最高だぜえええええええええええ!」

「行くぜ!みんな!一緒に盛り上がろうぜ!」

 私が踊り出すと、たちまち大きな歓声が巻き起こる。

 体が軽い。まるで空を飛んでいるみたい。楽しい。こんなにも気持ちが高ぶっている。今まで生きてきて、一番幸せな時間かもしれない。

「よーし!もっと盛り上げていくぜ!」

 ダガンさんがそう言うと、さらに盛り上がる。

 観客の中にはアルさんの姿も見えた。アルさんはとても楽しそうだ。ダガンさんと一緒になって叫んでいる。その姿を見て、なんだか嬉しくなる。

 やがて、曲が終わりに近づいてきた。もうすぐ終わるのかと思うと、寂しい気持になる。でも、まだ終わらない。

 私は最後の力を振り絞った。

「ありがとう。みんな」

 私は心の底から感謝の言葉を口にする。

「さあ、フィナーレだ」

 私は心を込めて歌い上げる。そして、ついにその時は来た。

「よっしゃああああ!!!」

「やったぜええええ!!」

「俺らは自由だあああ!!」

 観客たちは、私の踊りで解き放たれたかのように、歓喜の声を上げながら踊りだした。中には泣いている人もいる。そんなに喜んでもらえるなんて、とても嬉しい。

 ふとアルさんの方を見ると、アルさんはこちらを見て微笑んでいた。

 こうして、初めてのライブは終わった。

 ライブが終わると、私はアルさんと二人で話したいと思って、アルさんを探しに行った。でも、どこにもいない。ライブの後片付けをしている人たちの中にも、アルさんはいなかった。私は諦めて、一人で帰ることにした。




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