第5話 見えないつながり

 次の日、私は宇宙船の中にいた。地球へ帰るのだ。アルさんとダガンさんが操縦してくれることになっていた。

「マミさん」

 ユイさんはそう言って、私に手を差し伸べた。

「はい」

 私はユイさんの手を取った。ユイさんは優しく私の手を握ってくれた。ユイさんは私を抱きしめるようにして、耳元でささやいてきた。

「マミさん、あなたは本当に素晴らしい人でした。あなたのおかげで、私たちは救われました。本当にありがとうございました。どうかお元気で。さようなら」

「さようなら、ユイさん。さようなら、みなさん」

 私は涙を浮かべていた。

「それでは出発します」

 宇宙船のエンジンが動き出し、徐々にスピードが上がる。私は窓から見える景色を見つめた。

「……さようなら」

 宇宙人の街並みは、あっという間に小さくなっていった。




 数日後、私達の乗る宇宙船は、地球へ到着した。宇宙船が地面に着陸すると、私は宇宙船の外に出た。

「帰ってきたんだ……」

 そこは見慣れた風景だった。高層ビルが立ち並び、人々が忙しそうに歩いている。遠くには海が見える。潮風に乗って、海の匂いが漂ってくる。

「あれ? ここは……?」

 そこは、私が通っていた高校の校舎だった。

「おい、お前は誰だ!?何者だ!?」

 警備員らしきおじさんが話しかけてくる。

「あの、すみません……。間違えてここに来てしまったみたいです。すぐに出て行きますね」

 私はペコペコ頭を下げながら、そそくさとその場を立ち去ろうとする。しかし警備員に呼び止められてしまった。

「ちょっと待ってくれ。君、体が透けてるじゃないか!」

「はあ、まあ、そうなんですけど……」

「それにこれはテレパシーだろう?君は宇宙人なのか?」

「テレパシー?」

 その時、私は口から言葉を発していないことに気付いた。

「ホントだ」

「マミさん、テレパシーを使っていることに気付いていなかったんですね」

 アルさんもテレパシーを使って、そう言った。

「うん。全然気付かなかった」

「おそらく、宇宙人のエネルギーがマミさんの体にも流れているんだと思います」

「なにそれ、怖い」

「でも、マミさんがテレパシーを使えるようになって良かったですよ」

「どうして?」

「だって、これでいつでも連絡が取れるようになりましたから。お別れしても安心です」

「なるほど。確かにそうかも。これからはアルさんとダガンさんに会いたくなっても、すぐ会えるってことか」

 私は笑顔になった。

「そうですね。あと、もう一つ言っておきたいことがあるんですよ」

「えっ、なに?」

「僕、マミさんのことが好きです」

「えええええぇ〜!!」

 私は驚いて大声を上げた。周りの人達が何事かという顔で、私を見る。

「うるさいぞ!静かにしろ!」

 警備員のおじさんに注意されてしまった。

「ごめんなさい」

 私はすぐに謝った。

「でも、アルさんが私のことを好きだったなんて知らなかったよ」

「そうですか。それは残念です」

 アルおじさんは悲しそうにしていた。

「アルさんは宇宙人だから、私とは結ばれないよ」

「分かっています。僕は宇宙人なので、マミさんと一緒にいることはできない。一緒に暮らすこともできない。でも、僕はあなたを愛しています。あなたと一緒に過ごした日々はとても楽しかった。マミさん、あなたに出会えて本当によかった。ありがとうございました」

 アルさんは深々と頭を下げる。

「こちらこそありがとう。アルさんがそばにいてくれて嬉しかった。アルさんがいてくれたおかげで、毎日楽しく過ごせた。アルさんと一緒にいた時間は、とても幸せだった。アルさん、大好きだよ。さようなら」

「さようなら、マミさん。さようなら、皆さん」

 アルさんは、ダガンさんを連れて宇宙船に乗り込んだ。

 宇宙船は空高く飛び立つと、あっという間に雲の向こうへ飛んで行って、やがて宇宙船は見えなくなった。

 私はアルさんが去って行った方角を見つめていた。




「アル、元気にしてる?」

 私は独り言のように呟く。返事はない。

 アルたちと別れてから二年が経った。別れてしばらくの間は、アルとテレパシーで話をしてばかりだった。しかし最近はアルからの応答がない。

 実は、応答がなくなる前、アルはこんなことを言っていた。

「どうやら地球と私たちの星との距離が、少しずつ離れていっているようです。このままだと、テレパシーでマミさんとお話しできなくなります。悲しいことですが、仕方ありません」

「そんな……嫌だ」

「マミさん。どうか、お体に気をつけてくださいね」

「分かった。アルもね」

 アルは微笑んだような気がした。それがアルとの最後のやり取りだった。

 私は、変わらず高校へ通っている。体が透けていることと、たまに言葉を話さずにテレパシーを使ってしまう以外は、普通の人間と変わらない。

 ただ一つ、新しく始めたことがあった。それはダンスである。私はダンスが好きになっていた。

 ダンスは楽しい。私が踊れば、皆が喜んでくれる。そして何より、私はダンスを忘れたくない。

 いつかまた、宇宙人にさらわれてもいいように。

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