第17話 出版に向かって~心浮き立つ 肆
翌日、高遠は朝八時から行われる
大奥の主である
池には鯉が泳ぎ、季節の花が咲きと、障子を開ければ季節の移ろいが手に取れるようにわかる最高の場所だ。気分転換にも、もってこいだろう。
「塩沢さま。高遠にございます」
名乗ると、「入れ」と声がして部屋方がそっと障子を開いた。
綿がたっぷり詰まった絹の柔らかそうな敷物に座り、姿勢を正した塩沢が、
「せんだっての件についてご報告に参りました」
高遠がそう言うと、塩沢は本を閉じ、部屋方に「下がれ」と命じ、心得ている者たちは次の間へ消えていった。
しばし周囲の気配に耳を澄ませる。
誰もいなくなったと確認してから高遠は言った。
「まずは、お須磨の方さまの絵は無事に認められ、小説と絵が揃いました。すぐにでも、わたくしの小説が行事の吟味を受けることになります」
塩沢は部数や出版行程を頷きつつ聞き入り、そして言った。
「前にも申したが、その
言外に足しにもならないという落胆が洩れている。
「わたくしもそこを考え、鶴屋に飲ませた条件がございます」
「前に申しておった秘策とやらだな?」
「はい」
塩沢はスゥっと目を細めて、「申してみよ」と先を促した。
ことの真偽をくだす目だ。キツネのように疑り深い目。
高遠もフッと息を吐き、よし、と胸の中で克を入れて、滑舌よく語った。
「一冊に対し売り上げの二割の税を課したのです。そして、その金子を月末に大奥に収めること。これを条件といたしました」
「なんじゃと?」
塩沢はそんなことがあり得るのかといった表情だ。
高遠は税について予算を書いた紙を指しながら、詳細な説明を行った。
基本、小説家は潤筆料――原稿料をもらうだけで終わりだ。どんなにヒットしようと一円も入ってこない。代わりに豪華な食事でもてなしを受けたり、謝礼が入るのみだ。
ただ、六百部どころか
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