第14話

 気が付けば、既に話始めて30分以上が経過していた。


「すっかり長く話し込んじゃったね。時間は大丈夫?」

「全く問題なし」

「そかそか。ちなみに、お母さんの体調はどう?」

「もう退院して、いつも通りって感じだな。朝早くから起きて準備しなくちゃいけない弁当作りもしてくれてる」

「元気なのね、それは一安心だ! ちゃんとお手伝いしてるのか~?」

「何個か任された役割があるから、それはちゃんと遂行してる。ただ、母親は何か『そろそろ年ごろなんだし、遊んで帰ってきてもいい』とか言い出しててさ……」

「えー、お母さんからそんなこと言われるんだ」

「いや、俺もびっくりしたよ。いつも勉強しろってしか言ったことなかったような人だったからな。加えて、『気になる異性がいるんじゃないのか?』って急に探りを入れてくるようになってさ」

「あれ、そう言えば私もそんなことくーに聞いたよね?」

「うん、ちょうど一週間前くらいにな。その上、妹にも聞かれたんだよな……。俺の顔って今そんなに厭らしい顔でもしてんのかね?」

「厭らしい顔って、何で自分でそんなこと言っちゃうの!?」


 また啓太のワードチョイスが瑞希のツボにはまったのか、大笑いを始めた。

 言われてみると、確かに「厭らしい」というワードは流石に歪すぎる。


 そう言うことが自然に出てくる以上、やはり自分自身のワードチョイスが変だということを認めざるを得ないような気がしてきた。


「だって、男子高校生がそう言う雰囲気出すときって、性欲にまみれてそうじゃない?」

「そ、そうなのかなぁ……? 私はくーを見て、別にそんな風には思わないけど」

「じゃあ何でこの短期間で、こんなに聞かれたんだろうな」


 スケベな顔をしていないとなると、それなりにしおらしく悩んだ顔でもしていたということだろうか。

 男子高校生がそんな顔をしているよりは、スケベな顔をしている方が百倍くらいマシなような気がするが。


「うーん、儚い顔でもしてたんじゃなーい?」


 どうやら瑞希も同じような考え方をしているようだ。


「それなら、スケベな顔をしてるから言われた方が断然マシ。儚い顔は女子だけで十分だわ。性欲まみれのモンスターに儚いとか要らんぞ」

「は、吐き捨てるように面白いこと言わないで……!」


 また瑞希が笑いすぎてその場にダウンしそうな状況に追い込まれている。

 数分前までは、非常にまじめなお話をしていたはずなのだが。


「はぁはぁ、笑い死ぬわ……」

「ここまでくると、何かの化学反応起きてるレベルだな」

「いやぁ、くーといると一生退屈しないんだろうなぁ」

「流石にいつか飽きる……とも言い難いな。これだけいつもバカ受けなら、逆にいつ熱が冷めるのか見てみたいまであるわ」


 短い間隔でこうして席が隣になったことに加え、前よりもこうして放課後なども話をすることが出来たにもかかわらず、彼女が面白がる様子は変わることが無い。

 何なら、昔よりも遠慮が無くなったことでより面白がっているまである。


 こんな相性の相手など、これまでの人生で出会ったことは無いわけで、今後どうなっていくのか、ちょっと気になるところである。


「じゃあ、今後もこうして仲良く居ないとなぁ!?」

「多分、俺でバカ受けする間はこの仲は勝手に続くんじゃね?」

「それは間違いないね! ということで、今後ともよろしくな? くれぐれも逃げ出したりするんじゃねぇぞ?」

「はいはい、よろしくー」

「え、めっちゃ適当なんですけど。私、悲しくて病んじゃいそぉ……」

「柄にもねぇことやるんじゃねぇよ。見た目とアンマッチなんだよ」

「ひっど、これでもさっきはヘラってたのに」

「あれでヘラってる、病んでるとか言ったら今の10代20代全員メンヘラになって世界が終わっとるがな」

「うーん、そんなもん?」

「そんなもんやろ。何か最近、何でも病んでるという風潮があるだけだと思っとる」

「えー、じゃあ私はメンヘラ女じゃないのかぁ……」

「違うな。少なくとも、こんな他人の前で腹抱えて笑うやつがメンヘラぴえん女だとかあってたまるかよ」

「あはは!」


 瑞希自身が本気で自分の事をメンヘラ女だと思っているかは知らないが、啓太から見ればどう考えても、メンヘラという存在からはかけ離れている。


「あー、面白いなぁ。何かいつまでも話せそう」

「とはいえ、ぼちぼち帰るかね。どうせ話そうと思えば明日も話せるわけだし」

「だね。楽しいことは、一気に消費するのはもったいないし!」


 そう言った考え方も二人そろってあっさりまとまったので、二人は荷物を片付けて下校の準備を始めた。


「あ、そうだ!」


 片づけをしていると、瑞希が何やら思い出したかのように何かを取り出した。


「これ、くーにあげる。相談に乗ってくれたり、いっぱい笑って元気にしてもらえたし。今日一日、本当に助けてもらったし」

「これは何だ?」

「キーホルダー! このキャラ、JKに人気なんだぞー?」

「な、何か目がガンぎまってるけど、これが女子に人気なんか……?」


 女子高校生ならもっとかわいいキャラが人気になりそうなものだが、貰ったのはなぜか目がガンぎまっている羊のキーホルダー。


「私は筆箱に、ピンクの子を付けてるんだ。だから、この水色のキャラの方をくーにあげる!」

「お、おう。貰ってて言うのもなんだが、水色になると何かもうチアノーゼになってるみたいに見えるけど」

「あはは! 可愛いだろー?」

「う、うーん?」


 イマイチ可愛いかは分からないが、彼女にとっては可愛らしい物らしい。


「せっかくあげたんだ。どっかに付けてよ!」

「そうだなぁ、付けるならカバンか筆箱くらいしかないかな?」

「お、じゃあ筆箱がいいかも。カバンだと、外に持ち運びしてる時に外れたりするでしょ?」

「確かに。どっかに引っかけたりしそうだな。なら、その可能性が少ない筆箱の方が良さそうだな。今の筆箱、飾り気も無いしちょうどいい」


 瑞希の提案を受けて、啓太はその意見を受けて筆箱に付けることにした。


「よし、じゃあこのチャックの部分に付けといてやろう!」


 彼女はそう言うと、手慣れた手つきで啓太の筆箱にそのキーホルダーを付けた。


「これでお揃いみたいになったなぁ?」

「うわ、ほんとだ。まぁ、別に誰も気が付かないでしょ」


 瑞希が自分の筆箱と啓太の筆箱を持って、それぞれに付けられたキーホルダーを並べながらそんなことを言った。

 啓太としてはあまり意識していなかったため、後から気付くような形にはなったが、特に問題にもならないだろうと、その水色のキャラを見つめながら思うのであった。

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