第4話
「あー……。瑞希ちゃんが人妻だったなんてな……」
「裕也それよく言うけどさ、既に彼氏いる女の子を人妻って言うの何なん?」
昼休み。
校舎の屋上で日光を浴びながら、啓太は購買で購入したサンドイッチを口に運ぶ。
隣でいる裕也と傑は持ってきた弁当を突っ付いているが、裕也の方は瑞希に彼氏がいたことに対するショックが未だに残っているらしい。
「相当ショック受けてるけど、裕也って内海さんのことが好きだったの?」
「いや、好きと言うよりは……。ほら、これまで付き合ってる話とか本当に効かなかったから、だんだんと誰にも触れられないアイドル的な存在にはなっていたからな」
「あーそれ分かるかも。別に狙ってるわけじゃないけど、それなりに気兼ねなく話せる相手というか……。って、あの時チャイムが鳴って聞きそびれたけど、内海さんの彼氏ってこの高校のやつなのかな」
「確かに誰なんだろ、啓太は聞いてねぇの?」
「他校の人って言ってたよ。だからこの高校の生徒じゃないってさ」
裕也に彼女の彼氏について聞かれて話すかどうか悩んだが、変に黙ると憶測だけが飛び交いそうな気がしたので、こればかりは事実を言っておくことにした。
「他校のやつなのかぁ……。どういう出会い方なんだろ。中学の馴染み?」
「その線が一番ありそうだね。あとは塾繋がりとかじゃない?」
「その辺りについては、啓太は何も聞いてないのか?」
「聞くわけないな。女子同士なら『相手どんな人なの~?』って聞けるかもしれないが、男の俺が踏み込んで聞いたらなかなかやべぇやつってなっちまうしな」
「だよな~。それに分かったところで、相手のハイスペックさにただただ絶望するだけのような気しかしないもんな」
「間違いなくそうだろうね。ってか、そうならこっちがビビるほど全てのステータスに振り切ってて欲しいかも」
「分かる。『絶対にあきらめるわこんなの』ぐらいな」
あれだけ容姿・スタイル・性格ともに男から見て完璧と言って良い存在である以上、付き合う相手もそう言った相手になってくると当然予想してしまう。
というか、どんな相手でも凹みそうだが、言い方は悪いが中途半端な感じだったら「自分たちに可能性があったのでは?」みたいな他の人から見たら、「馬鹿じゃないか」と真顔で言われてしまいそうな感情を本気で抱いてしまいそうにもなりそうだ。
「てことは、顔が良くて運動が出来て……」
「傑、それお前自分の事言ってね?」
「いやいや、それだけじゃないでしょ。内海さんって頭も相当いいから、頭も良くないとダメなんじゃない?」
「顔の良さと運動が出来ることは否定しねぇんだな……」
天然なのか自信を持っているのか分からないが、裕也のツッコミにはスルーだった。
どちらにしても、男である啓太や裕也から見ても傑がイケメンであることは変わりないのだが。
「でも、傑の言う通りか。頭いい女子からすれば、自分より馬鹿な男って興ざめしそうな気がするもんな」
「んー、でも彼女の方が頭いいってやつ、結構いるけどな」
こうして少し話してみるだけで、それぞれ恋愛観や瑞希のような完璧に見える女子に釣り合うには何が必要か、考え方が違うことがよく分かる。
ただ、言えることが一つ。
「ま、俺らには関係の無い世界だってことは間違いないよな……」
「だな。結構話として盛り上がったが、知る由もない上に知ったところで何にもならんしな」
色々と話してきたが、何かが分かったところでここに居る三人には何も関係が無いことであって。
こうして話が落ち着いて頭が冷えてくると、一人の女子の恋愛事情を三人の男が熱心に話すという気持ち悪いと言われても仕方が無いようにも感じてきてしまった。
話が一通り落ち着いて、残ったサンドイッチを口の中に押し込んで手に付いたパンくずを払い落とす。
「最近の啓太ってマジで小食じゃね? そんなので腹持たないだろ」
「んー、パパっと食べられる方が楽でいいから特に不自由には思わないけど」
「だとしても、途中でお腹空かないか?」
二人の疑問は尤もなものだった。
高校二年生の男子が、サンドイッチ二つほどで昼食を済ませているのは誰から見ても少ないだろう。
現に、啓太自身としても物足りなさはある。
「ってか、啓太って普通に弁当持ってきてたよな? 最近、てっきり見なくなったけど。もしかして、母ちゃんと喧嘩して作ってもらえなくなったか?」
「あー、まぁそんなところだね。喧嘩はよくするしな」
軽くサンドイッチなどで手早く済ませているのは啓太自身の意思だが、弁当を持ってこなくなった昼食事情に対しては、とある理由がある。
その理由は、友人であるこの二人であっても少し話しにくい”事情”があった。
悪友と言っても、こうして高校生活の中で常に一緒に楽しく過ごしているメンバーなので、この”事情”を話せば気を遣わせてしまい、必ずコメントに困らせることになることを、啓太としては既に予測が付いている。
「大丈夫。どうせ家に帰ったら、晩飯あほみたいに食うわけだし」
その結果として、二人の前で全く問題ないといった態度を取っている。
「そんなに食わねぇでいると、せっかくいい体してるのがひょろひょろになっちまうぜ? 早いとこ母ちゃんに謝って弁当作ってもらえよな!」
「裕也の言う通りだ。ちゃんと栄養は付けないといけないし、ずっと喧嘩してるわけにもいかないだろうし。仲直りの仕方分からないなら、相談乗るしな」
「おう、めっちゃ助かる。うまくいきそうになかったら、また相談に乗ってくれ」
真実を打ち明けていないこともあって、二人の厚意に申し訳なさが勝ってしまう。
誰か一人にでも打ち明けられたら、多少は楽になるのだろうが。
(俺って意外とこの二人に隠し事してるな……)
先ほどまで、瑞希に彼氏がいるという事実を隠していた。そして、今は自分自身の家庭事情を適当に誤魔化している。
それぞれ黙っておきたいと思う理由は異なるが、黙っていることが多ければ多いほど自分が友人のことを信頼していないような気がした。
そう考えると、とても自分が嫌なやつのように感じてしまった。
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