20話 結局丸投げかよ!


神威しんいくん意識はある?」

 蘭子らんこは念の為に確認する。

 

「ぐっ……ぐぁああああ!」

  神威は突然胸を抑え苦しそうにうなる。

「お兄ちゃん!?」

 桜夜さくやは戸惑いながらも呼びかける。

 

桜夜さくちゃん! 構えて!」

 蘭子は張り詰めた声で言う。

「うん!」

 桜夜さくやは空中から相棒の鎌フレイムデスサイズを取り出し、桜色の髪が鮮やかな赤に変わっていく。

 

「嘘嘘嘘嘘! 冗談!」

 やり返してやろうと揶揄からかうつもりが、おもいのほか本気にさせてしまった。

 

「神威くん右手!」

 蘭子に言われ思わず右手を見る。


「───ん? 何も」

 その後、前を向くと蘭子が落ちていた石を拾い振りかぶるのが目に入る。

 

「はぁああああ!」

 そして神威に向かって思いっきり───投げた


「待て待て待て!」

 手を振り下ろすのがハッキリと見える───手を離れたつぶてが顔に近づいてくるのを辛うじてかわす。

 

「──っあぶね!」

「すご〜い! 避けちゃった」

 

「やっぱりね……」

 蘭子は腑に落ちた表情で頷く。

 

「何一人で納得してるんだ?」

「気づかない? 普通の人はあの距離で全力投球された石を避けるのはまず無理よ。目が追いつかないわ」

「て、言うことは〜」

 

「これが邪鬼を吸収した効果?」

「自分じゃ見えないかも知れないけど初めて邪鬼を吸収した時と同じように右目に邪鬼が集中してるわよ」


「右目に? どうしてだ? 俺は特に何もしてないぞ?」

「人にはそれぞれ利き目って言うのがあるのは知ってる? 神威くんはそれが右目なんでしょう」

 

「利き目?」

「手で丸を作って、その穴からこの指を見て」

 蘭子はそう言って人差し指を立てる。

「右手を閉じてみて」

「あっ……」

 

 両目で見ている時は、指で作った丸から確かに蘭子の人差し指が見えていたはずだが、片目を閉じた瞬間、丸の外に人差し指がある。

 

「集中して"視よう"とする事で無意識に利き目である右目に邪鬼の力が集中してしまったのでしょうね」

蘭子らんちゃんすごーい!」

 

「初めて邪鬼を吸収した時のことが無ければ気づけなかったかもしれないわね。あの時も丁度、右手を見ていたようだし」

 よく観察しているなと関心してしまう。

 

「なるほどな道理でぶん殴られるのが良く見えた訳だ……」

 本来の自分の動体視力なら蘭子が距離を詰めて来る事すら見えていなかったはずだ。

 

「何だか特訓のやりがい出て来たね!」

「で? どうやってコントロールしたらいいんだ?」


「それは神威くんが考えることよ」

「結局丸投げじゃねぇか!?」

 

「仕方ないでしょ……邪鬼を吸収した本人じゃないと感覚なんて分からないもの」

「ファイトだよ! お兄ちゃん!」


 こうして神威は能力ちからのコントロールの第一歩を踏み出した。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る