第2話 俺の人生始まった?のか?


いつもの登校なら汗なんかかかないのに、と嫌な汗をかきながら本日2度目の登校である。


校門前にたどり着いてよくよく考えれば、蘭子の家を知らないことに気づく。

そこまで頭が回らないほど焦っていたらしい。


後ろを振り返れば先ほど相対していた”ナニカ”がもう追ってきていないのが見える。


いっそ夢であればいいのに、とも思う。

思うのだが、びっちょりと汗で濡れたTシャツと疲労感。

そしてこのただ夜だからというには濃い暗闇。


それら全てが現実感を伴って、すぐそこに死が迫っていたのだと自覚させる。


今のところすぐに危機に瀕するとうわけではなさそうだが、このままおちおちと家には帰れない。


蘭子が忘れ物でもして教室に取りに戻った……。

なんて、偶然でも起きることを祈るしかない。


そんなことを思い『俺に力があれば……』風に

意味もなく自分の右の手のひらを見ていると……


「こんなところで一体何をしているのかしら?」

少し棘のある声が聞こえてきた。


視線を声のしたほうへ向けるとやはり蘭子がそこに立っていた。


「ちょうどいいところにいるじゃねえか。お前こそ、ここで何してんだよ?」


(お前のせいで死にかけたじゃねぇか)なんて気持ちをのせて問う。

少しハッとした顔をして蘭子は答える。


「忘れ物を取りに、ね。」

そう言って蘭子は手に持っていた白い手袋をひらひらとさせる。


白い手袋といっても軍手や手袋のような厚手のものではなく、それこそ執事なんかがしているような薄手のものだ。

その手袋には不思議な模様が刺繍してあった。


「それよりあなたは平気なの?」

俺がしてきた苦労も知らずに、この女は……


「平気に見えるかよ?お前のせいで死にかけたんだぞ?」

「普通その状態だと死にかけた……ではすまないのだけど」


「あ?どういうことだってばよ。」


「あなた憑りつかれているのよね?右目が……」

蘭子によると今の俺は先ほどの”ナニカ”に取りつかれているらしい。

その証に自分ではわからないが右目とそのまわりが影に覆われているらしい。


「本来そのような状態になると自我が無くなり暴れまわるハズなのだけれど、会話が成立しているなんて……」


(こんなこと初めてだわ)


こちらに見せつけるようにしていた手袋をおもむろにはめる蘭子


「もしかしたら痛いかもしれないけど、恨まないでね?」

と言うと、目にも見えないぐらいの速さで間合いを詰め

「はあぁあああああ!」


という声と共に、気合いのこもった掌底から放たれる衝撃が体を突き抜ける。

ドポォッと、まるでドロドロの液体が体から抜け出るような感覚がする。


そのあと蘭子が何か呟いた。

後ろを振り返ると、後ろで影が大きなバランスボールのようなものに入って浮かんでいるのが見えた。


蘭子が手を振りかざし、そのまま地面に向かって振り下ろす。

それを追従するようにバランスボールが地面に向かって落ちていく。

そのまま地面にぶつかるかと思いきや、影が圧縮されていく。


そしてそのまま……消滅した。


なんなんだこれはまるでゲームやアニメの世界じゃないか。

あのへんな影に襲われた時点で十分ファンタジーだったが、この転校生までバケモンなのか?


また頭の中がグルグル混乱していると蘭子がこちらに近づいてくる。

おもむろに俺の顔に手を当てると、そのまま顔を近づけてくる。


(な、なんだこれ……ま、まさかキッキス!?)


「ッなにして……」

腕を振りほどく。心なしか顔が熱い。


「よかったわ。邪鬼は滅せたみたい」

どうやらその邪鬼というものが滅せたかどうか確かめたかったらしい。


紛らわしいことすんじゃねぇよ。思春期男子のライフポイント考えろよ。

もう神宮寺くんのライフポイントはいろんな意味でもう0だよ!


「それは良かった(よくねぇけど)取りあえずどういうことか説明しろ」

「ええ、こうなってしまっては仕方ないわね」




一通り説明を受けた内容をまとめるとこういうことらしい。

まず転校生こと神楽寺蘭子は普通の高校生らしい。

もちろん普通の高校生は影(邪鬼というモノらしい)を滅したりしないんだよ!とツッコんでおいた。

両親の仕事の関係で引っ越してきたのは本当で超自然的現象の原因解明と原状回復、その他もろもろ情報の操作だったりなんやかんやを行っているらしい。

守秘義務の関係もありすべては明かせないのだそう。


蘭子もそうなのだが特殊な家系らしくあのような不思議な力が使えるらしい。

特に蘭子は先祖返りだそうで扱える力の量が桁違いなのだそうだ。

勿論その分コントロールが難しいという欠点もあるらしいのだが、一家に代々伝わる手袋をつけることで安定するらしい。

バランスボールのように見えたものは一種の結界のようなもので、内と外をわけるような力があるのだとか。


そして聞いてびっくり。失敗した場合は俺の体ごと消し飛んでいたのだとか……

うまくいったからいいでしょと抜かしたあのあまいつか絶対しばく。


そして今この街に起きていること、それはあの邪鬼が生まれやすくなっている......という事らしい。

原因は調査中だとか、使えねぇ。


あとは俺の体質についての話だ。

先ほどのやりとりでもあったように、普通は邪鬼に取りつかれた人間は、自我が無くなり暴れ回るそうだ。


そのうえ体のリミッターが全部外れるのか、最終的には全身ズタボロになった挙句に力尽きて死ぬ……というのが通説らしい。


しかし何故俺がそうならなかったのか?

こんなケースは初めてなので詳しいことはわからないらしい。


確かに逃げるのに夢中で気付かなかったが、奇妙な全能感?みたいなものはあったか?


「今までの説明を受けて疑問点はあったかしら?」

「ねぇよ(あってもどうせ答えねぇだろ)」

「じゃあ決まりね」


「は?だからなにが」

「もちろん私の仕事を手伝うってことよ」


「だ・か・ら!どうしたらそういう流れになるんだよおおお!!!」

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