お兄ちゃんが中二病過ぎて通訳がほしいんだが〜実は忘れていた力で世界を救ってしまう件について〜

詩夜兎誰エ@あにつう連載中

1章

第1話 転校生が来た

いつも通り廊下を歩いて教室に向かう。するとなんだかいつもより教室が賑わっている気がする。


ガララッ

構わず勢いよく教室の扉をあけ放つと窓側の席に座っている愚民クラスメイトが声をかけてくる。


神宮寺じんぐうじは今日も遅刻寸前か?」

このセリフを聞くのはこれで何度目になるだろうか。


「あぁそうだな主役は遅れて登場するもんだ」

「なら、今日の主役は神宮寺……お前じゃないらしいな」


いつものやり取りとは違う流れだ。


「そういえば騒がしいが何かあったのか?」

「どうやら転校生がくるらしいぜ?教室は今朝からその噂でもちきりさ」


なるほどな。教室に入る前に感じた騒がしさはそれが原因か。


「道理で愚民どもがはしゃいでいるわけだ」

「なんだよ~神宮寺だって気になるだろ?」


少し残念そうにこちらをうかがっている。


「愚民が増えようが、減ろうが俺には関係のないことだ」

「神宮寺のそういうとこ!好きだぜ☆」

「はぁ・・・」


本当にわけのわからんやつだ・・・


そんなやり取りをしていると教室に先生と生徒が一人入ってくる。

生徒とは言ったが制服はこの高校の制服ではない。

見かけたことがない顔なので噂の転校生だろう。


「さぁ席につけ。みんな知ってるとは思うが・・・てか何で知ってるんだ」

「はい☆ジブン職員室騒がしかったんで聞き耳立ててました!」

「目をキラキラさせてるがなぁ、神田。あとで職員室な」

「・・・はい。すいませんでした」


俺と先ほど話をしていた愚民クラスメイトの神田は一瞬のうちに顔が青ざめた。

いつの間に立ち上がっていたのか、力が抜けた様子で椅子に座る。


「アホの神田は置いといて転校生の紹介するぞ。制服が間に合わなかったので前の学校の制服だが、もうクラスメイトだ!仲良くしてくれよ!」


体育会系の担任が呼びかけると、それに続き黒板に名前を書き終えた転校生が名乗る。


「転校してきました。神楽寺蘭子じんらくじらんこです」


黒板に書いた字を見ると、名の通り品行方正そうな雰囲気が伝わってくる。


「両親の仕事の都合上転校が多いので、仲良くして頂けると嬉しいです」


そういって微笑む顔はさながらお嬢様のようで、皆の視線を集めて離さなかった。


「それじゃあ席は……神宮寺の隣か…………」


先生は物凄く渋そうな目でこちらを見ている。


(言われなくても自分から積極的に関わろうとはしないさ)


「神楽寺さん、空いた席に座ってもらえるかな?」

「はい、かしこまりました」


綺麗な銀髪を揺らしながら音を立てずにこちらまで来ると、静かに椅子を引いて席に着く。

動作が一々お嬢様じみている。


「よろしくお願いします。神宮寺さん」

「あぁよろしく頼む」


これが転校生との初めての会話だった。




転校生がやってきた日とはいえ、休み時間に質問攻めで隣がうるさい以外特に変わったことはなかった。

授業もすべて終わり帰ろうとした時、転校生がすっと立ち上がり遠慮がちに声をかけてくる。


「こんにちは。神宮寺さん?だったかしら」


用があるから声をかけているのだろうが、世間話に付き合う義理はない。

念のため確認しておくか。


「ああそうだが、何か用か?」


「もしよければ校内を案内していただけませんか?」


「隣の席の奴に頼めよ」


面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ。早く帰りたい。


「頼んだのですが部活があると断られてしまって」


この高校は文武両道として有名だ。

部活に入っていない生徒のほうがマイノリティなのは当然か。

ここで断るのも少し可哀想な気がするな。しかし今日は……一瞬の逡巡の後に答える。


「仕方ないな……ついてこい」

校内を軽く案内するぐらいであれば問題ないだろうと判断してのことだ。

それを聞いて転校生はお嬢様然とした態度を崩した表情になる。


「えっ?……」


確かに愛想がいい方ではないが、基本的にはコミュ障なだけだ。

そんなに驚かなくてもいいだろうに。少しむっとする。

「案内してやると言ってるんだ」


「てっきり断られるのかと……」


「さっさと終わらせるぞ。無駄口叩いてないで早く来い」


少し不満そうな顔をして頷く転校生。教室にはまだ陽が差している。

陽が落ちる前に帰らなくては……





校内を案内する前は窓から光が差していたのにもかかわらず、今はすっかり陽が落ちている。


「一通り案内し終えたし、俺は帰るとするよ。結構暗くなっちまったから気を付けてな」


もっと早く終わらせる予定だったんだがな。

これ以上長引かせるわけには……


「待って!危ないから一緒に帰りましょう?」


勢いよく手をつかまれる。女にしてはかなりの力だ。

無理やり振りほどくとこけてしまうかもしれない。


「だから早く帰れって」


周囲がどことなく影に包まれていく


「何だまって……」


転校生……いや、神楽寺蘭子はこちらを見つめる。


「………私じゃなくて、あなたが危ないの」


「それってどういうことだよ」

一抹の不安が頭をよぎる。こんな美人と一緒に帰るほうが周囲の反感を買いかねないと思う。しかし明らかにそんなことを言っているのではないと理解する。

周囲が重い空気に包まれてまるで水中にいるかの様に感じられる。

時が止まる。


比喩表現だと思っていた。


息がつまる……。


声が出ない。


自分と蘭子だけがここにいるような気がする。




それを遮ったのは蘭子だった。


「あなたは何も知らないの?」


上品な顔立ちを曇らせて問いかける蘭子はそう言った。

対する俺は、何もわからない。

一体何だというんだ。

俺が、何を知ってるというのか。


「普通に考えて暗い夜道を歩いて危ないのは、蘭子。お前のほうだろ?」


不審な人物がうろついているなんて噂は聞いたことがない。

ましてや疎まれることはあっても人に恨まれる覚えなんて


「そういう事を言っているわけでは……」


「じゃあどういうことだって!」


「言えない……」


あなたには関係ないもの

言葉は続かなかったが目はそう言っていた。


「じゃあ俺は帰るから気をつけて帰れよ」

少し不貞腐れながら歩きだす。

このまま放っておくのは気が進まないが、それ以上に藪をつついて蛇を出すのは嫌だったからだ。


「えぇ……気を付けて」

その態度を見てか、蘭子は引き留めることはしなかった。

急いで帰るとするか……いつも以上に早足で歩きだす。




帰り道いつも見慣れた光景がどこか変わって見える。

心境の変化というやつか、はたまたそう錯覚しているだけか。

どちらにせよさっきのやりとりが原因なのは言うまでもない。


『あなたは何も知らないの?』


この言葉が頭の中をグルグルと回っている。

どうもひっかかるんだよなぁ。


そんなことを考えながらふと横を向いた。

影が差していて性別まではわからないが、まだ年端もいかない子供がベンチに腰かけて座っている。


こんな時間に何してるんだ?

迷子なのだろうか?

一応声くらいかけといたほうがいいか。


『あなたは何も知らないの?』

ふとこの言葉が浮かぶ。すると何故だろう。妙な胸騒ぎがして鼓動が速くなる。


ドクッ……ドクッ…………


心臓が波打つ。


人を待ってるだけかもしれないしな、不審者扱いされても困る。

とりあえずは放っておくか。

そう思いなおし、歩き出そうと前を向いたその時。


「うわっびっくりした!」

先ほど見ていた子供とそっくりな子が

前に立っている。どこから出てきたんだ?


顔には影が差して見えないが髪型からして男の子のようだ。


「あそこにいる子の知り……」

言葉は途中までしか出てこなかった。

指を指しながら振り返ると、そこにいるべきはずの子供がいなかったからだ。


もう一度目の前にいる子供の表情をうかがう。

やはり影に覆われているので、はっきりとはわからない。


……いや待てよ。


ど・う・し・て・影ができるんだ?


男の子は笑っている。

白い歯だけが浮かぶように。

いや、そう見えるだけで頭から足まで、夜の闇より濃い影で覆われているのだ。


なんなんだこれ、人間?なのか?言葉が通じるか話しかけてみる。


「なぁさっきあそこにいた子供は君の知り合いか?」


返事はない。だが首を傾げている。

聞こえてはいるのだろか。

相変わらず辺りは静寂に包まれている。

自分の心臓の音が聞こえてきそうなぐらいに。


「あ……そ……ぼ?」


子供がそう口にすると、手が、足が、伸びた。

目の前が黒に覆われていく。


本能的に触れてはだめだと思い、後ずさる。

幸いそんなに速くこちらに迫ってくる様子はない。

まるで、”遊んで”いるよう。


その思考に行きつくのを見計らったかのように影が追いつめる。


後ろを向きながらでは振り切れないと思い、視界から影を外すのはまずいと思いつつ、全力で距離をとる。


足の速さにはそこそこ自信がある。

そう簡単には追い付かれない。

ただ、逃げてどうなる?

あいつの正体は?

捕まったら?

倒し方、そもそも敵……なのだろうか。


『あなたは何も知らないの?』


蘭子に聞けばわかるかもしれない。


がむしゃらに走る。

鍵はあいつが握ってるんだ。

全部聞き出してやる!!!


【後書き】

気になるなと少しでも思っていただけたら作品のフォローをよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る