第5話 廃った時間に歪んだ視界

 うるさい。どこかで、何かが鳴っている。もうこんな時間か、ああ、起きなきゃ、彼女がまた、うるさい。かたい床から起き上がり、起きあがろうとし、手に持っている袋に意識が向く。あれ、なんで僕が、、俺が持って、ああ、でも、なんで持ってるんだろう。手に跡が残るほどに固く握りしめられていたそれを、くしゃくしゃの袋に入っているキーホルダーを手から放し、歪んだ視界と、足に落ちる雫を跳ね除けながら、自分の部屋まで辿り着く。

「ああ、寝るか」

結局俺は何も変わっていない。好きなことをやって、嫌なことからは逃げる。そういう人間。だから、まあ、仕方ない。もう、彼女はいないんだから、僕は必要ないんだから、僕が頑張る必要はないんだから、もう、どうでもいい。考えたくもない。あとは、きっと、そのうち、時間が経てば。

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