蟹、攻略

『ブクブクブクッ!!』



 カワラガニが反撃にと泡を吹いてくる。私はそれを大きくジャンプして回避し、カワラガニとの距離をとる。




 体力は...やっぱ減ってないわ。幾ら硬くともネズミの力じゃ文明(石ころ)振りかざしたって大した火力にはならないのか。




 同じランク無しとはいえ歯の通ったシロアリなんかより数倍手強い相手のようだな。ステータスのほぼ全てを体力と防御力に回し、攻撃することを放棄している。


 でも、こういうヤツが敵に回すと一番厄介なんだよね~実際。これで魔法とか使えるような魔物がいたとしても、私はそいつと絶対に会いたくねえ。




 私のステータス的にマミーラット系列は機動力重視の魔法攻撃アタッカーみたいで、魔力をガンガン消費して強いスキルで捩じ伏せる戦い方をする。防御特化の相手で自分の火力源が相手のダメージになってないとなれば、負けるのは言わずもがな私の方である。


 因みにいうと魔法なんてものはまだ覚えてないんですけどね。







 うん、詰み♡そもそも防御20越えなんて戦ったことないし。防御力だけなら必死こいて歯を通したアオアミヘビ以上の数値を誇っている。



 無理だな~こりゃ。アオアミヘビの舌とか明確な弱点ってのがカワラガニにある訳じゃなさそうだし、ここまでやって体力1も減らせてないのはカワラガニの防御力が高いのもあるけどなにより私のステータス不足が原因だろう。



 使わない魔法攻撃力と素早さだけが20越えてて、物理攻撃手段なんてまだこの牙しかないからな...あの硬い殻に歯を突き立てようもんなら、この歯が先に折れかねない。流石にこのよくわかんないカニ一匹のために攻撃手段は失いたくない。





 いやでもやれるだけ...やってみるか。こいつと同ランクにこれから出会える確証もないし、ここ周辺には蠱毒蛙だの邪蛇馬だのアオアミヘビだの格上の化物勢揃いだ。格下相手に逃げてたら格上にはどう足掻いても勝てるわけがない。






 ───てなわけでネズミ奮闘中─────





 まずは助走をつけて噛みつき切り裂き!カワラガニに弾き返された!!歯がいてえ!




 次に歯を何回か突き立ててみる。はい、硬くてとても噛みきれそうにはないです。あ、ちょっとやめて挟まないでいでででであだだだだだ!!




 もう一度関節部分を噛んで何とか出来ないかと試みる。噛みきれない。うんっdっっっだー!泡吐かないで~!!!やめろそれが一番効くからぁぁっ!!





 .....






...私の身体だけじゃどうにもならん!ええいこうなったら投擲じゃ!さっき掴んだ石より小さめな石を両前肢で抱え、その場でハイジャンプする。そして抱えこんだ石を勢いよくカワラガニへとぶん投げた。





 食らえ!ロックアロウ!



『キシ...!!』



 石はカワラガニの背中にぶつかり、一瞬カワラガニの身体が重さで下に持っていかれているように思えた。潰せはしなかったがノーダメージってことはないんじゃない?





─────



[種族]〈カワラガニ〉


[Lv] 3/7


[体力]9/11



─────




 よっしゃ減ってる!!たった2だけど、たった2ではあるけど有効打ができただけで勝てる気がしてきたぞ。




 因みにロックアロウは私が名付けた。アローじゃなくてアロウな。特に意味はないけど。まあスキル認定はされてなかったよ。クソめ。





『.....』





 カワラガニが大きく鋏(両手)を上に上げ、地面へ振り下ろす。刹那、カワラガニを中心に周囲を覆う砂嵐が巻き起こった。



 ま、待てよ!これまさかスキル欄にあった砂かけ?マジかよ砂をかけるってレベルじゃねえぞ砂煙越えて砂嵐だこれ!




 目を瞑り、両手で目を覆って砂が目に入るのを防ぐ。こいつ、ダメージ受けた時のためにこんな隠し球持ってやがったのか。砂掛けとしか書いてなかったから気ぃ抜いちゃったじゃねえか。




『....』



 件のカワラガニはダダダダとカニ歩きしながら逃げているところだった。その動きは遅いが無駄がなく、殆ど減速せずに私と距離を取っている。




 折角ダメージ与えられたところなのに、逃げられちゃ意味がない。大人しく経験値になれや!!






 砂嵐で濁る視界の中、再び石を持ちハイジャンプしてぶん投げる。その石はカワラガニのすぐ後ろで地面にぶつかり、ゴトリと音を立て勢いを失った。




 うーん、虚しっ!!外した時の虚無感すごいわ。


 しかしながらこの虚無感にずっと浸ってる訳にもいかない。こちらが止まってる間にもカワラガニはカサカサと脚を動かして距離を離していくのだから。ターン制のRPGみたく獲物は待ってくれない。






 けど、速度は私が圧倒的に勝ってんだからな。



 緩やかな石の畳を登り上流へと向かうカワラガニを捕捉。見失う前に猛ダッシュでカワラガニへと迫る私。



『....!!』




 カワラガニが私に気付き、身体を反転させてこちらに鋏を向けてくる。





 私は大きくジャンプし、カワラガニの背中を飛び越える。




『!!!』




 そしてカワラガニが再び振り向く前に後ろから脚に噛みつき、その身体を持ち上げた。



 ぶらぶらと空中で吊られながら、脚をせわしなく動かすカワラガニ。わしゃわしゃと脚が口の中で動く感触が馬鹿ほど気持ちわりぃが離す手はない。




 そしてカワラガニを前肢で抱え、そのまま坂下へとハイジャンプした。





 私が思い付いた策。それは石の代わりにカワラガニをぶん投げる、もしくは投げられなくとも坂下へと思い切り落としてやるというものだった。


 これなら重力が上手い具合に働いて殻を貫通できるのではないだろうか。





『....!!』




 痛っ!!痛たたたたたっ!!




 前肢で抱える形になったことでカワラガニが抵抗しやすい状況になってしまったようで、上を向いた鋏で私の顔面を挟んでくる。確かに大分痛いが、マザーにぶつけられた時と比べりゃこのくらい大したことはねえ。




 生憎、死ぬ気でやってんだこっちも。その程度の痛みでいちいち怯んでられるっかよ!!!




『!!!!』




 離してほしいとばかりに必死の抵抗をするカワラガニ。残念だがお前の命はここで終わりだクソッタレ。もっと楽に狩りたかったが、こればっかりはまだ私が弱いから仕方ないと思ってくれ。恨まれたって構わねえし。



 カワラガニを抱えた私の身体が放物線を描く形で重力に従って落ちていく。私の身体が勢いをつけて軌道に乗った瞬間─────










─────カワラガニを地面に向かって叩きつけんばかりに投げつけた。


 ぐしゃり、という音を立ててカワラガニの身体の隙間からグロテスクな蟹味噌が吹き出す。カワラガニはピクピクと僅かに痙攣した後、動かなくなった。




 よ、よっしゃ~!!カワラガニ、討伐成功~!!イエーイ!!


 勝利の舞っ♪勝利の舞っ♪ずんちゃずんちゃ♪


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る