固すぎ
いた。
暫く走り回っていると流れの緩やかな川、水辺に差し掛かったのだがその小石が散らばり広がる地面にそいつはいた。
そいつは単刀直入に言ってカニだった。というかカニ以外の何者でもない。脚と呼べる脚が8本あって、太陽を反射する艶やかな光沢のある赤い甲羅を持ち、前肢の二本は小さいながらもちゃんと鋏になっている。これをカニといわずなんと言うのか、反論があるなら聞きたいくらいである。
ん、ザリガニ.....??
うーんとりあえず魔物チェ~~ック!!
[カワラガニ]
《河川に生息する小型のカニの魔物。性格は非常に大人しく、生息地周辺で打ち上げられた魚の死骸を主に食すことから川の掃除屋と呼ばれている。中身は美味な故に天敵に襲われると泡を吹くが、大抵の場合意味を成さない。
※なお人間が食す際は加熱処理が必要である。》
カワラガニはランク無しの魔物とも呼べないヤツだ。今の私なら大して苦戦することなく勝てるだろうが、少しだけ身構えていた。
と、いうのも...今は亡き私の母親たるマザーの存在である。
アイツは最後に道連れというトンデモスキルを使い、私を仕留めようとぶつかり木の壁にでかい風穴を開けた。それ故の警戒って言ったほうがいいか。一瞬ミスれば即死もありえる現状、警戒しすぎるくらいが丁度いいってもんだ。
─────
[種族]〈カワラガニ〉
[Lv] 3/7
[体力]11/11
[魔力]6/6
[物攻] 3
[物防] 25
[魔攻] 3
[魔防] 13
[素早] 6
《スキル》
[鋏攻撃.Lv1][バブル.Lv4][砂かけ.Lv2]
《耐性.特性スキル》
[寄生虫耐性.Lv2][甲羅.Lv-]
《称号》
[逃亡のプロ]
─────
防御方面が馬鹿高いが、特にこれと言って変なスキルは持ってない。バブルは泡を吹く動きをスキル化した物だろう。泡を吹いて逃げ、攻撃を受けても甲羅で受け流し、砂かけで視界を奪って逃げる防御と速度に全てをかけた魔物だ。
そしてその速度も私が大きく勝っている。挑まない手はないだろう。
カワラガニがこちらに振り向き、鋏を振りかぶるのも構わず私は突進する。そしてその鋏を押さえつけるように噛みついた。
ギリギリ...と歯と鋏の殻がぶつかり合う音がする。やっぱ防御力は伊達じゃないみたいだな。間接部分だからとやってみたけど噛み切れねえ。
やっぱあの土壇場魔法に頼る他にこいつも狩れねえか?少なくとも私の物理攻撃では文字通り歯が立たない。死ぬまで突き立てたところで歯が折れるのが先だろう。
でもまあやるしかないね。今回は追われてるわけでもなし、魔法の特訓もこいつ相手ならゆっくり出来る。
えーと?まず何処に力いれてたんだっけ?腹?牙?頭か?少なくともあの時ってあんま動いてなかったし、よしこい、みたいにでっかく構えとけばいいのか?
.....よしこい!!
『ブクブクブク』
ぎゃあああっ!!顔に泡!泡吐かれたあ!!ちょま、息ががががががおぼぼぼぼぼ溺れますわぁぁぁぁ!?
ふぱあっ!
とりあえず泡を吹き付けられたことで視界と息を奪われ、鋏を噛む動作をキャンセルされた。あんま近づきすぎるとダメだな、有効打ないのにみすみす食らってちゃこっちがバテる。
そういや吐かれんのってこれで二回目なんだよな、一回目は先輩ネズミさんから毒吹き付けられた。これってさ、言ってしまえばゲロ(られ)インだよな?これがほんとの吐き溜め...ってうるせえええ!!
因みになんですけど、カワラガニの体力は1も減っていませんでした。知ってたわクソめ。
とりあえず魔法を....ってもやっぱ出し方わかんねんだよなあ。詠唱とかした試しないし恐らくはどっかに力入れるんだろうが、必死だったもんで何処に入れるかなんて覚えてない。
勘を取り戻すにしたってもう一度あのアオアミヘビ逆ギレストーカー野郎に追われる気はねえ。正面切って勝てない相手だしなにより精神衛生上よろしくないので勘弁してほしい。
カワラガニには正面から近づきさえしなければカウンター含め攻撃を貰わない。状況的に有利は私にあるはずなんだけど...私からアイツに対する有効打がない。
たとえ手数や素早さのステータスが劣っていたとしても、それを持ち前の防御力で防ぎ相手を消耗させて戦意を削ぎ、自分は相手の動きに合わせて最小限のリソースだけで戦うそんな受動的な戦い方は相手依存にこそなれど生き残ることだけに執着するならこの上ない立ち回りだ。
これがまあ厄介で、わざわざ正面から戦ってるのが馬鹿らしくなるんだなあ。ぬかに釘というか甲羅に歯というか、これじゃあ城壁に石投げて必死にぶっ壊そうとしてんのとそう変わんねえな。ぶっちゃけ攻撃自体は幾らでも当たるけどやってることはほぼ無意味だ。そんなことしてるならさっさと別のルート....を....
お、石か。そうだ、石ころあんじゃん。こんなところにネズミの私でも扱える手頃な武器があるじゃないですか、昔の時代の人達は手ごろな石を加工し石器にして狩りをしていた。硬く、鋭利な武器は分厚い獣の肉や皮、はたまた鱗や甲羅に攻撃を通す手段に使っていた。
その場にあった丸い小石を前肢で抱えるようにして持つ。いい重さだ。ネズミの私にはちょっと重いくらいだが、全身全霊かけてぶっぱなせる。
借りるぜ、人類の文明を!進化の力ってヤツをよ!!
こんっ
『....』
後ろから硬い石をぶつけられたカワラガニがじっとこちらを見つめる。あ、あれ?効かなかったかな?
こんっ、こんっ、こつん。
こん....こん...こん...。
うん、効かねえ♡
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます