マザーとの決着!!

 マザーの攻撃をみすみす喰らった私は大きく放物線を描くように飛んでいき、地面に落下する。落下した身体は横腹を擦るように引き摺られ、それが数秒続く。やがて床との摩擦で身体が止まったようだ。





────痛ぇ。死にはしなかったが、それでもかなりのダメージを貰ってしまったようだ。クソッタレが。




 もう一発今のを喰らったら、もう一度立ってられるかわからない。一気に体力の半分は持っていかれたかもしれない、それほどまでにマザーの一撃は手痛かった。




 やってくれるじゃねえか。仮にもアンタの子供だったってのに。





 でも、この一撃を喰らったことで収穫は沢山あった。あれがマザーの持てる手の内の全てだ。遠距離の汚染攻撃に毒牙を仕込ませ、毒を浴びせかける遠距離攻撃。それを嫌った相手には突進噛みつき、そして毒牙の三点セットをお見舞いしてくる。汚染攻撃事態はブラフで、攻撃を回避した後にくる突進とそれを通すための眼光の方がよっぽど脅威だ。





 だが、今はどちらも喰らえない。私の身体は既に満身創痍で傷だらけだからだ。毒を含んだ攻撃を受ければあっという間に毒が通って回っちまう。




 状況はハッキリいって私不利だ。動きを止めるスキルに高威力の物理攻撃と状態異常持ちで牽制するための武器もある。いくら小さな世界でのやり取りだったとはいえ、そんなヤツが弱い訳がない。


 それにマザーだって、ただで攻撃を喰らっていたわけじゃない。私の通す技が少なく接近するしかなく、マザーが止まった隙を狙ってると理解してからはちゃんと動いて隙を減らしてきてる。実際、唯一の隙だと思った汚染攻撃は走りながら溜めて放ってきていた。



 学べるヤツは強いし、マザーも野生を忘れてここで寝そべっていた訳じゃない。命のやり取りをした数、戦闘の場数は間違いなく私より多いと言えた。




 それに引き換え私は現に生まれたての仔ネズミちゃん。戦闘なんてシロアリくらいとしかしてないクソザコナメクジ改めネズミなんだ。ちょっと変異体で姿が違うとて、圧倒的に他のベビーと差があったなんて訳がない。





 んなこと、とっくにわかってるっての。なんなら特別なのはこのきったねえ姿だけだってことも。それも込みでやっとネズミでいることに慣れてきたんだ。こんなところで毒親なんぞに殺されてられるかっての。






 子供殺しのクソ親が、かかってきやがれ。





『チギャァァァァ!』




 マザーが私の殺気を感じ取り、大きく咆哮を上げる。本当に、生きるか死ぬかなんだよな。大丈夫だ、私だって死を隣に感じるくらいのやべえ出来事はこの姿で既に経験済みだ。一撃必死のお爺さんの攻撃を躱し、少女の圧力に屈しかけてシロアリに噛まれた。そしてマザーの殺意を感じ取った。体格や攻撃力を始めとしたステータスがヤツに及ばなくとも、攻撃がちゃんと通ることは把握済みだ。勝てる。




『ギッ!!クチャクチャクチャクチャ!!』




 再びマザーが猛スピードで突進してくる。床を駆ける音に混ざってちゃんと汚染攻撃を溜めてるのも分かる。抜かりねえなほんと。




『ペェッ!!!』




 私もマザーへと突進して、顔にもろに唾液を浴びる。抜かりはないが、牙から毒は錬成してなかった。スピード特化で来た分、毒を混ぜてこなかったってわけだ。どうしても毒と汚染攻撃混ぜに徹していると、そっちに意識が向くもんな。私にどうしても通したい攻撃は突進のほうだ。そして噛みつきに毒牙を仕込ませて止めを刺したいと思うだろう。




 さっきまでの私なら、汚れるのを嫌って回避していたかもしれない。回避して失速した瞬間に一気に加速して、本命の毒牙を当てるつもりだったんだろ?マザーよ。魂胆が見え見えなんだよ!!




 私は全速力で駆ける。駆ける。驚き失速するマザーなど構わず、この一撃に全てを賭けるしかなかった。同じ手はマザーに通じない。手数とスキルの多さ、ステータスの優位から勝負の利は相手にあるからだ。それを理解出来ない程マザーも馬鹿じゃない。






 再び来るマザーの汚染攻撃、無視!きたねえ!!



 眼光、無視!視界がマザーに持ってかれそうになるのも構わねえ、目くらいくれてやる!



 クチャクチャ汚染攻撃を溜める音も無視!食らう頃にはどうせ死んでっからな!!




 そして、マザーの牙が毒々しく輝いた瞬間──────






 私は大きくハイジャンプし、マザーの牙のリーチから抜ける。そして大きく回転させた身体を整え顔を下へ向け、マザーへ向かって全体重を乗せた歯による切り裂きを喰らわせたのだ。




 マザーのもふもふに刃が通った切り傷が一直線に出来る。私の全身全霊の一撃は、確りとマザーを捉えていたようだ。マザーの傷から血が流れ、滴ってくる。




『ぢ......』




 ふらっ、とマザーの身体が倒れ勝利を確信した瞬間、自然とマザーが二本脚で立ち上がった。その目に生気はないが、こちらを向いている。し、仕留めきれなかったのか!?





『ァァァァァァァァァ!!!!』




 マザーはこれまでになく大きな咆哮を上げ、こちらに全速力で突進を仕掛けてくる。私はそれを受け流す体力も、気力もねえ。が、喰らったら間違いなく死ぬってことはわかった。




 私はそれを、全力でハイジャンプすることで回避する。





 マザーの身体は私の下をくぐり抜けて一直線に壁へと激突する。バキュウンとかいうとんでもない音を立てながら木製の壁に大きく風穴を空け、マザーの身体は爆発四散していった。





 よ、よかった。喰らわなくて....よかった。あれ、道連れのスキルだったわけか。あれ、明らかネズミが出来る範疇越えてるだろあんなの。喰らってたら私も一緒に岩盤ダイブなってたわ。毛布はいらねえ。


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