ざんこくぅな現実







自分で出しておいた結論に自分が困惑し、納得出来ずにいた。納得出来る筈がない。「今の貴女はネズミですよ」なんて言われても「はいそうですか」で済ませられる筈がない。




 それも周囲に居るのはネズミだけだから自ずと自分がネズミである可能性を感じ始めているだけでしかなく、誰かからそう言われた訳でもなければ夢である可能性だってある。明晰夢ってやつだろうか?





……もういっそのこと誰かが「貴女はネズミに転生しましたよ」とでも言ってくれたらもう少し心の整理がつくものなんだけどな。






【貴女はネズミに転生しました。】






 うん、そうだよね。機械的な音声でわざわざ伝えてくれてありがたいけど、まあわかってたし多分そんなこったろうと思ったわこれで踏ん切りついたよありがとう










 なんて言うと思ったか馬鹿か貴様は。それに今ので大体何が起きたか察したわ、多分ラノベあるあるの異世界転生ってやつだ。ネズミに転生する事例は流石に見たことないけど、某多脚虫だったり別の種族に生まれ変わる話なら私も知ってる。




 まあ作品によっては無機物に憑依したなんていうものもあるし、別にネズミになることそのものに違和感はない。現状なってみると困惑しかないけどね……(遠い目)





 遠いまなこで再び周囲を見渡して声の主を探るも当然ながらそれっぽいものは居ない。多分こちらに介入してくる【神の声】とか【御告げ】とか【ステータス表示】みたいなものだろう、そこら辺もある程度転生系ラノベで押さえてはいる。







そうなんだろ、ハッキリ言えよクソッタレ。






【私は貴女の希望に応じて周囲の魔物や人名、ステータスを表示し、解説する役割を持っています。気軽に活用してください。】




 魔物、ステータスということはやっぱりここは異世界な訳だ。現代では絶対使うことのない言い回しだったということもあってすんなりと事実を受け入れることができた。




 まあ受け入れられたのはいいとして……取り敢えず使ってみないことには始まらない。気は進まないけれど出し渋っていては展開も進まないんだ。そうだな、まずはさっきから隣でもぞもぞしている同胞について解説してほしい。暗くてよくわからないけど、この場に居るということは私と瓜二つの容姿の筈だ。自ずと自分の素性を把握できる。





【ハウスラット・ベビー】


《人家の空きスペースに巣を作り、寄生するタイプのネズミ型モンスター。成長するにつれて病原菌を媒介し始め、居住者に被害を被るれっきとした魔物である。》


《ハウスラットの戦闘力は皆無であり、鈍器一つで仕留められる程脆く弱い。また、家に寄生するタイプがハウスラットなのに対し、山や林に巣を作るタイプはオードラットである。》





 説明をしてもらったのはいいが、うーん、これはどう足掻いてもイエネズミ。嫌われ者の代表ですねぇ。同胞がこれとかなんか泣けてくる。理由とか聞かないでくれ。


 てなわけで、今の私はイエネズミ。菌を媒介する害獣の赤ちゃんなのだ、バブー(白目)。






……





……





……ま、まあね。初っぱなとんでもない魔物と出くわした訳じゃないし、まだ気の持ちようがあるっていうか、なんつーか気が滅入るよなぁ。はあー(クソデカ溜め息)。




 ともあれ一旦落ち着いて、私のマザーと思われるこの大ネズミの説明もしてもらわなくてはなるまい。





【ハウスラット・マザー】


 《安定した土地に定住することができたハウスラットは子供を宿し、種を後生に残す役割を持つ。一般的なハウスラットに比べて凶暴性を増し、有事の際には倍以上の体躯を持つ人間にも襲い掛かることがある。群れの存続に関わる行動を担っており、場合によっては間引きを行うこともある。》




 淡々とした説明からして、ハウスラットと銘打っても一般的なハムスター辺りとそこまで変わらない性質の魔物らしい。特にビームを放ったり菌を撒き散らして武器にする類いでは無さそうだということがわかって安堵する。





─────



【ハウスラット・マザー】


《攻撃.魔法スキル》

[汚染攻撃.Lv1][噛みつき.Lv3][道連れ.Lv-]

[毒牙.Lv1][飛び掛かり.Lv1][眼光.Lv1]


《耐性・特性スキル》

[毒耐性.Lv4][麻痺耐性.Lv1][毒媒介.Lv3]

[危険予知.Lv-]


《称号》

[マザー][一族の長][同族喰らい]

─────





 解説が横槍を入れるようにマザーのスキルを事細かに表示してきたのだが。そこにはなんと見るに耐えない物騒なスキルがてんこ盛りでした。



 なあ今さっきまでの私の安堵を返してくれよ、マイマザー。なんだよ同族喰らいって、なんだよ毒媒介って、なんなんだよ道連れってさあ!!!道連れに至っては普通のイエネズミらしからぬ特殊能力じゃねえかふざけやがって、何がハウスラットだなぁにがイエネズミだお前れっきとした魔物じゃねえか!





【《成長するにつれて病原菌を媒介し始め、居住者に被害を被るれっきとした魔物である。》】





 ああもう解説いらないから!!わかってっから追い討ちすんな!変なところだけ切り取ってわざわざ強調しなくていいから!ただでさえ精神的に疲弊してるんだから勘弁してくれもおお!





 はーあ、もうなんか疲れたでござるの巻き。マザーは相変わらず私を子供だと認識して逃がさないようにくるんでるし、ここは母の優しさってのに甘えて二度寝するしかないよなぁ。





(……)




 さっきまで望んでいたはずのお布団パーリナイがここまで嬉しくなくなるなんて、人間よくわからないもんだな。ネズミだけど。




 私ネズミだけど!!(二回目)目が覚めたらこんな転生してたとか冗談じゃない、私は寝るぞ、もといた現実ってやつに帰るのさ!!



 そうして私は再び目を閉じ、もといた現実を願いながら眠りについた。





 スヤア。

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