異世界ですか、鼠(そー)ですか。
分身系プラナリア
1.鼠.爆誕
お目覚め♡
(……ん、)
長い睡眠を経た意識が戻るにつれて、もふもふとした温かな感触が私の身体を包み込んでいるのを感じ取った。ずっとその場で眠っていたいのは山々であるが、流石にこの温もりに甘え続けていては人として駄目になってしまうな。
(学校……行きたくないなあ。)
与えられた使命を阻害するに程お布団の魔力というものは凄まじいが、それに抗い続けなければ生きられない人の生というのはなんと酷で世知辛いものであろうか。時折こういった温もりを感じ続けられるヒト以外の動物に強い憧れを抱くことはあれど、それも儚い夢に過ぎず結局はまた社会の歯車としてサイクルを回され続ける定めなのだ。
そんな訳でさらばもふもふよ、グッドバイ。今日が終わったらその感触を再び堪能させて頂くとしよう。
私は一頻りお布団のもふもふを堪能し、両目を開いた。
(……あれ、暗いな。)
まだ外が暗いのか、何も見えない。だがそれ以上の違和感がすぐさま身体に現れた。
布団に酷似したもふもふが背中ではなく何故かお腹から感じ取れたり、時折もぞもぞと私以外の何かが動いているようなのだ。
『チュウ-……』
慣れない感触を確かめていた私の耳許で、ネズミの鳴く声が響いた。
.......。
........。
..............。
(思考凍結中)
─────う、嘘でしょ。まさかベットまでネズミが這い上がって来たってこと?冗談だって言ってよ。
と、取り敢えず払いのけないと!手遅れかもしれないけど顔面ダイブされるのらはちょっと勘弁願いたいマジで!どいたどいた!
現実逃避よろしくぎゅっと力一杯目をつぶりながら、「しっしっ」と払いのけようとした私の手は空を切る、どうしてだか隣にいるであろうネズミに届かなかった。そればかりか、もぞもぞと動く毛玉らしきもふもふが時折意思を持っているかのように私の身体にぶつかってきているようなのだ。
───どうやら、このもふもふは生きているようだ。これお布団じゃねえ、なんかの生命体だ。
『ピピッ』
『チュウ-!』
『チュッチュッ!!』
相変わらずネズミのけたたましい鳴き声が部屋中に響き渡っている。というか明らかさっきより増えてる。いや、多っ。
まさかゴミ出しを1日忘れただけで湧いて出やがったのだろうか。でもでも思い出せる限りで確か生ゴミはそれ程無かった筈だし、家に置いてあるのは食べ物というより箱とか新聞、本系の物が殆どだった筈だがなあ。
それに加えてうちはマンションだから早々出ることはないだろうと舐めてかかっていたツケが今になって来たってことかな。にしても容赦無さすぎだろ。
さ、流石に夢だとおも……ああもう目は覚めてるから現実かぁ。(遠い目)最悪の目覚めだよホント。それに鳴き声からして多分私の身体にぶつかってんのはネズミなんだろう。認めたくはないが。
ああもう未だドコドコぶつかってきてるし、奇声にも近い金切り声を上げまくってる。全く煩くて敵わない。
ごろんとわざとらしく寝返りを打ち、真横にいるネズミと思わしき生命体に喝を入れる。ある程度心の整理がつき再び目を開けることにした。
家族の誰かが妙にリアルなネズミのジョークグッズかなにかを買った可能性だってあるんだ。
それでもホント嫌だし多分1日は無視するだろうが、現状そうであればどれだけ有難い事だろうか。というか最早その説しか信じたくない。
私はその望み薄な希望に懸けて、ため息混じりの悪態をついた
「チュウ!!!」
つもりだった。
(は……??)
私は自分から発せられたものが言葉ではなく鳴き声であったということに気付くのに、少々時間を要した。どちらかといえば信じたくない、というのが本音だったろうか。何にせよ、あまりの衝撃の強さに言葉が出なかった。
「チュウ……チュッ……キュ……??」
……最早なにがなんだかよくわからなかった(お手上げ)。私の身に一体何が起こっているのだろうか。教えて偉い人。
ま、まあ考え事は出来るしちゃんと日本語ぼこくごでこうしてありのままに起こったことを話しているつもりになっていたんだけどね、まさか本当にその気になっていたとでもいうのか。
おまけに慣れてきた目で周囲を見渡せば、そこら中ネズミだらけだったのだが。ぎょえー!右隣も左隣も私と同じくらいの大きさをしたネズミがもふもふとした羽毛のような枕に潜り込んでいるではないか。何故私は自分と同じサイズの巨大ネズミとこうして寝る羽目になってるのだろうか、これがほんっとわからない。それによく見ると両隣にいる二匹のみならず、ずらりと一列に並んで同じように寝ているようである。もうどれくらいるかなんて数えたくないからパスするけど、ざっと二桁に届くくらいは居る気がする。
とにかく、こんな場所からさっさとおさらばしなければ。私はすっくと立ち上がろうと両手に力を入れる。よし、うんとこ、あれ?あ?
だが何故だか身体が重く、中々立ち上がることができなかった。それも足場が不安定というよりは、立ち上がるための手の長さが足りてない感じに近かった。力が腕と脚に上手く伝わらない。
そんな、ね?一人で動けないほど太ってる訳でもないし、そもそも赤ちゃんじゃないんだから立つことなんて造作もないことですよ。そんなわけで何度も直立を試みるが、まるで自分の身体でないかのように不思議にも言うことを聞いてくれない。
……取り敢えず今は四つん這いでもいい、私は一刻も早くこの場を離れなければならない。こんなネズミ地獄は勘弁願いたい。
そう思い立ってネズミのもふもふ地獄から抜け出そうとした矢先、何かに頭を、いや身体全体を強引に押さえ込まれたような感覚がした。押さえ込まれた……というより、どちらかというともふもふ枕が不自然に隆起したことで、バランスを崩された私が倒れ頭からダイブさせられたという方が近いのだろうか。
にしてもまさか枕まで生きてるなんて想定外で.....私はそのまま目線を上にして絶句した。
(……はい?)
『きゅううう....』
周囲のネズミより重く鈍い鳴き声を出した、枕だと思い込んでいたそれはどうやら巨大なネズミらしく、見下ろすように私を睨み付けていたのだ。そんでもって私の身体はその眼差しと巨体が放つ威圧感、そして気付いてしまった衝撃的な仮説によって思考、身体両方がガッチリと固まった。
それは私の数倍はあろうかという大きいネズミであり、同じ腹でぐっすり眠っているネズミ達……の親に違いない。そうなると必然的に、私も彼(彼女)?の子供という立ち位置になるのだが。ん?
え?
そこまで考えたところで気づいてしまった。私の姿がどうやら、彼等と同じネズミになっているという考えたくもない事実に。
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