第7話 計略
着任から二週間、俺は駐屯地内の施設を覚えたり、書類仕事を覚えたりなど新しいことばかりであっという間に感じた。
更に、夜にはエルリッヒ上級大将に連れられて軍の将校や魔術省の官僚達への顔合わせがあった。今まで三男ということもあり社交界にはほとんど出席していなかったので精神的にもかなり疲れた。
どうやらエルリッヒ上級大将は俺を自分の派閥にしっかり取り入れて離さないつもりのようだ。今はまだ上級魔術師に過ぎないが、年齢を考えると魔導師になれるのも時間の問題だから今のうちに恩を売っておこうという魂胆だろう。
エルリッヒ上級大将の派閥は軍の中でも大きい上に魔術方面にも強くパイプがあるので申し分ない。
そしてある日、俺は師団長に呼ばれたので会議室に向かった。部屋に入ると大隊長2人と俺以外の第三大隊の中隊長1人と知らない佐官服の男がいた。
「急に呼び出して悪かったな」
「いえ、大丈夫です。」
「全員揃ったから早速話を伝える。まずここにいないゴーン中佐だが任務中に殉職した。」
ゴーン中佐は俺の直属の上司、第三大隊の大隊長だった人だ。俺は着任以来あった事が無いので面識は無い。
「どういう事ですか詳しく教えてください、師団長!」
大柄な強面の男が師団長に詰め寄る。第二大隊大隊長のガリア大佐だ。
「ゴーン中佐にはファーレンス王国がポスタル森林に砦を建てているとの報告が入ったからハン少佐と共に砦の破壊任務を与えたのだ。」
ハン少佐は第三中隊の中隊長である。そのハン少佐が手を挙げて話し出す。
「ここからは私が。事前の情報通りポスタル森林でファーレンス王国は砦を建設中でした。砦の建設は予想よりも早く一個中隊では難しいと判断し情報を持ち帰るために退却をはじめました。しかし、退却途中で王国軍に見つかってしまいそこから王国軍の激しい追撃を受け、大隊長は自ら殿につとめ…」
ハン少佐は泣きながらゴーン中佐の最後を語った。会議室は再び暗い雰囲気になった。特にガリア大佐は親しかったのか、目に大粒の涙を浮かべている。
しかし、俺はそんな雰囲気の中で全く違う事を考えていた。ハン少佐に何か違和感を覚えたのだ。ハン少佐が誰かに似ている感じがする。しばらく考えを巡らせるうちに俺は気づいた。こいつは俺と同類なんだと。
俺はハン少佐がゴーン大隊長を殺したと確信した。ハン少佐の目には涙があるが心の奥底では喜んでいる。前世で会社の同期を罠に嵌めて蹴落とした時の俺と同じ顔をしている。俺と俺の1つ上の先輩のどちらかが主任に昇進できるという場面で俺は先輩の大事なプレゼン資料のデータを消した。もちろん、先輩の商談は破談になって昇進は見送られる事になった。そして消去法的に俺は昇進した。その先輩は新人の頃に色々と教えてもらった先輩でもあったので偽りの涙で感謝の気持ちを伝えた。その時の俺の涙と同じ涙をハン少佐は流していた。
しばらくの沈黙のあと、ローグ師団長が顔を上げ口を開いた。
「ハン少佐を第三大隊大隊長に任命する。そして第一師団で砦の破壊を行う。各自、準備に取り掛かれ!」
会議が終わると部屋には俺とハン少佐、第二中隊のミーク中隊長が残った。
「2人とも一緒にゴーン大隊長の無念を晴らそう!特にメイナード少佐には着任したばかりだと思うが期待している。」
「はい、期待に答えられるように頑張ります。」
俺はハン少佐に気づかれないように従順な部下なふりをした。はっきり言って反吐が出るが仕方がない。
これは俺にとっても好機である。ここでハン少佐の犯行を告発すれば大隊長の椅子が開く。しかし、今告発したところで大隊長になるのはなんの功績もない俺ではなく俺より長くいて実績もあるミーク中隊長だろう。だから俺が功績を上げてから告白するといった順に事を進めなければならない。
俺はこうも早く出世のチャンスが自分に回ってきた事に内心大喜びだった。
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