第6話 着任

更衣室で先ほど渡された佐官用の軍服に着替え、腰に懐中時計をつけて鏡の前で全身を見る。さっきまでの一般用の軍服もカッコよかったが、佐官用の軍服は更にラインや細かいデザインが入っていてもっとカッコよかった。そして腰に携えた銀の懐中時計の光沢がいい感じである。

自分の身だしなみをしっかり確認したあと、本部から少し離れたところにある第一師団の駐屯地に向かった。先ほどまでとは違い、警備やすれ違う兵士から敬礼をされる。こんな成人したての若者というか子供にも何も言わずに敬礼するくらいだからこの軍隊の中で階級がどれほど重要視されるかがよくわかる。



駐屯地に着くとすぐさま師団長に挨拶に向かった。






「レオン・メイナード、本日付で第三大隊第一中隊長に着任いたしました。」


「楽にしてくれ。私は第一師団長のローグだ。君の君のことはエルリッヒ上級大将から聞いている。その歳にしてすでに上級魔術師とは驚いた物だ。私の師団には上級魔術師が3人しかいないから新たな戦力として大歓迎だ。」



第一師団長のローグ少将はガタイがいい、つるっぱげのオッサンといった印象だった。東部貴族のローグ伯爵家の当主で東部方面軍の中でも武闘派として有名だ。


「ありがとうございます。」


「3ヶ月以内にはおそらく実戦が待っているだろうからそれまでにしっかり自分の隊を確認しておいてくれ。」


「了解です。」





師団長への挨拶を終え、部屋を出たところに1人の見知らぬ女性士官と、以前父の執務室で見かけた兵士が待っていた。


「メイナード少佐でありますか?」


女性士官が俺に敬礼をしながら尋ねる。


「そうだが。」


「私はメイナード少佐の副官のフィリアです。階級は中尉です。」


「そうか。で、君は以前父上の執務室で見かけた兵士か」


「はい。同じくメイナード少佐の副官に任命されましたガイルです。階級は大尉です。よろしくお願いします。」


父が護衛として腕の立つ人間をつけると言っていたが、おそらくガイル大尉のことだろう。


「2人ともよろしく頼む。まず、急ぎで片付けるべき仕事はあるか?」


俺の質問にフィリアが答える。


「ありません。一応、訓練場で中隊全員を集合させていますがどうしますか?」


「では挨拶に向かおう。案内してくれ。」





2人に連れられて訓練場に着くとすでに整列して待っていた兵士達の視線が俺に集まる。

貴族のボンボンのコネ入隊だと思われたのだろうか、俺への視線は明らかにいいものでは無かった。確かに無理もない。中学校卒業したての子供が今から上司だと言われたら前世の俺も不満の一つくらい言いたくなる。


俺は台の上に登って隊員を見渡して口を開く。


「君たちの隊長になったレオン・メイナードだ。私の事をどう思おうが勝手だが、命令には従って貰う。以上だ。」


短く挨拶を済ませて俺は台の上から降りた。






ーーーーーーーーー宿舎ーーーーーーーー


「小隊長!あんなガキが中隊長だなんて聞いてません!」


そう小隊長に直談判しているのは1人の若い隊員だった。若いと言っても20歳くらいなのでレオンよりかは年上である。


「俺だって納得はしていない。だが、メイナード男爵家の息子だぞ。俺たちのような下っ端が逆らうと首が飛びかねない。」


「しかし小隊長、足手まといを連れながら戦闘なんて無理ですよ。前にでしゃばって死んだら小隊長の責任問題にもなりますよ!」


「流石に自ら戦闘に立つような真似はしないだろう。仮にも軍閥系の貴族だぞ?」


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