第4話 実演
俺は前に掲げて目を瞑る。
深呼吸をして集中力を整えて頭の中で思い浮かべた魔術陣を目の前の空中に描く。
第四位階魔術〝火炎地獄〟
的のあった壁付近が広範囲に渡って炎を包まれる。
炎が消えると俺は後ろを振り返る。
エルリッヒ上級大将とその護衛の騎士達は驚きの表情を浮かべていた。
自慢げな顔をしていた父がエルリッヒ上級大将の顔を見ながら尋ねた。
「いかがでしたか。我が息子ながらなかなかの魔術の腕前でして。」
「君には一杯食わされたよ。この前のパーティーで私の娘が帝国魔術学院に次席で入学したと自慢していたのが恥ずかしいくらいだよ。」
「いえいえ、娘さんの実力も同年代では飛び抜けているでしょう。」
「娘の話はここまでにして。レオン君、学院には通うつもりはないか?編入試験をするように伝手で頼むこともできるし、お金なら侯爵家から援助するから気にしなくても大丈夫だ。」
想定通りの質問がきた。魔術の実力が上がるにつれ帝国魔術学院、つまり同年代のトップ層の魔術の実力がどの程度なのかも自然と分かるようになってきた。
学院に入る12歳時点で一つでも第三位階魔術が使えれば主席争いに参加できると言われている。俺は12歳ですでに第三位階魔術を複数使えていたし、15歳で第四位階を使える学院生も1人いるかどうかのレベルだと思う。正直、この話はありがたかった。
「ありがとうございます。しかし、私は軍に入ることをもう決めました。」
「理由を聞いてもいいかね。魔術に携わる人間ならば誰しもが一度は入ろうと思う場所だと思うが。もちろん、私も学院の出身だ。」
「ソニア・グリモールです。彼女を越えるには学院に通って学ぶだけでは足りません。私は彼女ほどの天才ではありません。だからこそ戦場で、死と隣り合わせの毎日の中で命のやり取りを通して魔術師として成長する他ありません。」
ソニア・グリモール。
帝国一の魔術名家として名高いグリモール公爵家の長女で14歳にして帝国最年少の魔導師に認定された魔術師である。
「氷姫グリモールか。確か君と同い年だったかな?彼女は帝国の長い歴史をみても超がつくほどの天才だ。しかし彼女を除けば君が1番と言っても過言ではない。だから気にする必要はないと思うが。それに成人したとは言っても15歳の君を戦場に送るのは心苦しい。」
エルリッヒ上級大将はそう言いながら俺の目を見つめる。俺は既に覚悟が決まっているという意思を込めてエルリッヒ上級大将を見つめ返す。
「そうか、分かった。説得するのは難しそうだな。1週間後の入隊式の後、私の執務室に来なさい。配属先など色々な通達を行う。」
「はい、了解しました。」
そしてエルリッヒ上級大将は颯爽と訓練場から去っていった。
訓練場に残されたのが俺と父だけになると張り詰めていた緊張の糸が途切れ、どっと疲れが肩にのしかかった。
「父上、司令官が来るなんて一言も聞いていませんが。」
「うちは貧乏な上、レオンは三男だから今まで大して何もしてやれなかった。学院に通わす金だってなかった。だからこれくらいはやってやらないとな。」
「ありがとうございます。しかし、学院に関しては今では通わなくてよかったと思います。なので気にしないでください。」
「そう言ってくれるとありがたい。しかし、グリモール導師の話は本当なのか?今までそんな素振りは一切見られなかったが。」
「はい、父から彼女のことを聞いて初めて敗北感というものを味わいました。それまでも負けたことはたくさんありますが、全て年上の大人でした。」
「そうだったのか…」
「それにメイナード家は生粋の軍閥系の家系なので学院に入るより軍に入ったほうがコネとかで出世しやすいかなと思いまして。」
「相変わらず出世にしか興味がないのだな。向上心があるのはいいが、戦場では常に命懸けということを忘れるなよ。」
「はい、父上。」
ーーーーーーー司令官執務室ーーーーーーー
「お前たちから見てどうだった?」
エルリッヒ上級大将が護衛の2人に問いかける。
「レベル的にはなりたての第四位階魔術師かと思われます。あの年齢で第四位階に到達するのは魔術名家や皇族でも難しいでしょう。しかし、彼は生まれる時代を間違えたと思います。」
「私もそう思います。彼はこれからグリモール導師と比較され続け、2番手として人生を歩みます。時代が違えば神童として扱われたでしょうに。」
「確かに、私の同年代にも彼くらいの歳で第四位階に到達したものはいなかった。しかし、これから彼が急成長する可能性も大いにある。我々は彼に成長できる環境を整えてあげることくらいしかできないから結局はこれからの彼次第だ。」
エルリッヒ上級大将は護衛の言葉に納得しながら彼の配属先をどこにするのか考え始めた。
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