第8話 英雄の――

 カイトが目を開けると、もとの弓の祠の前にいた。だが、あのときとは状況が違う。カイトは、伝説の弓を正式に授けられ、"弓の勇者"になったのだ。


 ――新たな力に、覚醒しているのだ。


 「あんた……その弓……」

 「……………」


 カイトは黙ったまま弓をゆっくりと上げ、ロベリアの方へ向ける。そして、


 「勇者の力、【英雄の一撃】」


 そう、ポツリと呟いた。すると、手の弓は虹色に輝き、みるみると輝きを増し、そして……


 「まずい!」


 ロベリアは、ここで気づいた。彼の今、せんとしていることを。すぐさま振り向き、猛スピードで駆け出した!


 だが、カイトのチャージの方がわずかに早かった。走り出して少しだけ広がったロベリアとの距離を、その弓から放たれた矢……ではなく光線で一瞬で詰めた。


 虹色の光線は、ロベリアの体を貫かんと、ぐんぐん迫る!だが、ロベリアも葉っぱで盾を作り出し、光線を防いだ。


 「こんな……もので………!!」


 少しずつ、葉っぱの盾は押され、ロベリアの方へと光線が漏れていった。


 「いっけぇぇ!!!」


 カイトが叫ぶ。さらに光線は勢いを増し、ロベリアの盾を追い詰めていく。ついに………


 バキィィン―――――!


 盾が割れ、光線がロベリアにぶつかる。そして、彼女の腹を――貫通した。


 「カハッ…………」


 致命傷……そうとしか見えない傷をロベリアは負った。そして、その体から稲妻が走る。あの、戦隊ヒーローの敵が、やられる直前のような……


 「せめて……あれだけでも………!!」

 「ッ!」


 ロベリアはゆっくりと手を伸ばし、魂の球体をどこか遠くへ飛ばそうとするが、カイトはその手を踏みつけた。


 「どかしなさい!!」

 「させて……たまるかよ!守るんだ、村の人たちを、その魂を!!」

 「チッ!」


 瞬間、ロベリアの深緑色のドレスが、真紅へと変わった。体を炎で覆い、すさまじい魔力を、熱を、蓄積していった。


 「何を?!」

 「吹っ飛べぇぇ!」


 踏まれていない、もう一方の手で火の玉を次々に放つ。そのすべての狙いは、カイトの体だ。


 そのすべてを、カイトに正確に、ぶつけていった。カイトも、徐々に蓄積していくダメージに、少しづつ耐えられなくなっていった。そして――


 「しまった!」

 「………!!」


 カイトは足を上げてしまい、ロベリアの手が自由となる。さらにその手に、いとど魔力が集まっていき、大爆発を起こした。


 そこから、ロベリアの猛攻が始まる。手にするのは炎の大剣。それを"振り回し"、がむしゃらにカイトへ向かっていった。

 ロベリアは、すでに正気を失っていた。腹に大穴を開けられ、さらに屈辱的な攻撃を受け、魔力を体に溜めすぎて、暴走を起こしているのだ。


 「うがあ゛あ゛あ゛!!」


 だが、ロベリアの力は異常だった。正気を失ってなお、その力は健在。カイトはなすすべなく、一方的に押され続けていた。そして――


 「やべぇ……」

 「ギギギ………」


 先ほどとは真逆、ロベリアが、カイトの体を踏みつけるかたちになった。

 ロベリアが吠える。それは、森に住む獰猛な獣そのもののようだ。

 炎の大剣を掲げ、それを振り下ろした―――――


  キィィン――――――!!


 大剣は、カイトの体に触れることはなかった。いや、突如現れた"それ"が、カイトを切り刻み、燃やし尽くすのを防いだ。

 それにより、ロベリアが数歩後ずさる。同時に、勢いが落ちたのか、正気が戻った。

 彼は、ゆっくりと剣を下ろし、カイトの方に向く。


 「ごめん、遅くなった」

 「おまえ……遅えよっ……ありがとう、カエデ」

 「……!よく、生きてたじゃない」

 「はっ!あのくらいで死ぬようなら、ここに来る前にとうの昔に死んでるよ。でも、希望は、捨てなかったからな」

 「役立たずが、何しに来た」

 「よせよ。見ただろ?ていうか、体験しただろ?俺の大活躍をよ!」

 「はいはい。んじゃ、とっとと魔王倒そうぜ!」


 カイトは、そっと手をカエデに差し出す。


 「おうよ!!さぁ、決着つけようぜ、魔王ロベリア・ジュエリー!」


 それを、カエデが握り返した。


 「いいわ。お腹の傷も回復したし、2人とも地獄送りにしてあげる」


 最後の戦いが、始まった―――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る