第7話 覚醒

 同じ頃、村の別の場所でカイトは目を覚ました。カイトは目覚めると同時に現在の状況を把握し、行動にでた。


 森のなかでの生活で身に付けた力を使ってつるを引きちぎり、ベッドから起き上がり、外に目を向ける。


 「魔王が……動いたのか……」


 村はすべて、つるに飲み込まれてしまっていた。


 カイトの心の中では激しい怒りが燃え上がっている。しかし、同時にどうでもよくも思えた。

 どうせ終わるこの世界だ。どうなったところで結局関係ないのではないか?そう、カイトは思っていた。


 そこで、つるの海のなかに、爆発や燃えた痕があることに気づいた。爆破痕は、村の中心から直線に伸びていって、端の壁にまで到達している。

 何かが燃えながら移動した……かのようで、ただの火事ではなさそうだった。


 まさか、と考えがよぎる。

 ――誰かが、魔王と戦っているのではないのか?


 でも、仮にそうだとして誰が?でも、やりそうなやつは一人しかいない。


 森から村に連れて帰った人物、カエデ。彼のことはまだよく分からないが、彼は魔王を討伐しようとする気があるようだった。


 彼の実力次第では、実は魔王の方が吹き飛ばされてあの燃え痕をつくったのではないか?とも考えられるが、キングゴブリンにやられかけていたところを見ると、とてもそうは思えない。

 ―――ただの無謀なやつだったのか。


 でも……そんな弱いやつが魔王に挑んでいる。自分の力量も分からないような、天と地ほどの差がある相手に挑むような、そんなやつが、だ。


 この村の人々はすべてを諦め、もうどうとでもなれと誰もが思っている。魔王に侵略されて、命も何もかも奴に利用されようとどうでもいい、と。


 それでも、この村の命運を彼に、力の無いものに任せて、俺たちは情けなくはないのか。

 ―――と、カイトの頭の中をよぎった。


 とたん、カイトの目に光が宿る。


 「そうだよ。何をしているんだ、俺は。力の無いやつが必死で頑張っているっていうのに、こんなところで呑気に突っ立っている場合か?いや、違う。俺がすべきことは―――」


 そして、カイトは村の中心に向けて、つるの海に飛び込んだ。


――――――――――――――――――――――


 弓の祠を覆うドーム、その中心にある水色の球体が光輝いている。下には、同じく輝く伝説の弓が祠に置かれていた。


 楓を倒したロベリアは、祠に戻り、球体を見上げていた。


 「中々に貯まってきたようね。そろそろ……かしら」


 光の玉は直径2メートルにまで巨大化しており、すでにかなりの数の魂を吸収していた。


 そこへ………


 「何か用?」

 「お前じゃない。カエデはどこだ」


 目に光をともした、いや、光を取り戻したカイトが、決意の表情でドームに入ってきた。


 「村の人間どもが、希望を取り戻したのか。邪魔になる前に、潰しておくべきよね」


 瞬間、ロベリアの葉っぱがカイトを襲う!ゆっくり歩くカイトだが、葉っぱは1つも当たらない。


 「はあぁぁぁ!!!」


 カイトは加速し、一気に接近!そのままロベリアの横を抜け、祠までゆっくりと歩いていった。

 ロベリアはカイトの意図を理解し、さらに攻撃を苛烈にした。だがカイトはヒラリヒラリと躱す。


 「なぜ、当たらない!」


 ロベリアの放つ葉っぱは、どれ1つとしてカイトに当たることはなかった。そして、祠まで到着した。


 「そういえば、俺は伝説の弓に一度も挑戦したことがなかったんだ。どうせ選ばれるわけがない。選ばれたところで………って。でも、あいつの姿を見てそんなこと言ってる場合じゃないって思えたんだよ」


 そして、祠に置かれている弓に手を添えた。

 目を閉じ、精神を弓にすべて集中させる。


 (どうか……俺に力を貸してくれ………)


 すると、弓から電撃が発生してカイトの手を弾……かずに、まばゆい光が発生し、カイトと祠を包み込んだ


――――――――


 目を開けると、そこは水色に輝く神秘的な空間だった。地面も、壁も、空間のすべてが水のように透き通り、鏡の部屋のようになっている。

 そして、伝説の弓を手に持った、シスター風の女性がいた。優しく微笑み、弓をじっと見つめている。


 「あなたは?」

 「カイト、あなたには弓の勇者たる資格があるようね。でも、最後に、あなたに試験を課しましょう。私の質問に答えるのよ」


 女は、カイトの質問を無視して続けた。


 「あなたは、この弓を手にして何をするの?」


 女の態度に、カイトはなにを聞いても無駄だと悟った。そこで、何も言わずに彼女に従うことにした。


 「俺は……伝説の弓を手に入れて、村のみんなを……いや、世界をそのすべてを守りたい。魔王の勢力から、人々を救いたいんだ」

 「あなたには、魔王に強い恨みがあるようね?」

 「ああ。その通りだ。でも、それにとらわれていちゃ、何もできないからな。それと、さっきのに加えて、償いもしたいかな。先代の勇者は、俺が死なせてしまったようなものだから」


 カイトの答えに、女は深く考え込んだ。彼女の頭の中で、何が考えられているのかは、カイトには検討もつかない。ただただ、祈ることしかできなかった。


 「先代の勇者を死なせたって?」

 「数年前、俺たちの村が魔王軍に襲われたときだ。少しでも勝てると思ったんだ。魔王軍の連中にさ。でも、勝てなかった。よりにもよって、魔王ロベリアの目の前で動けなくなって、殺されかけたんだけど、先代の勇者が守ってくれたんだ。代わりに先代が………」


 その事がトラウマになって、カイトは何もする気にもなれなくなった。しようとすら、考えなくなった。そして、勇者を倒されたために村人たちも希望を失って、今の、活気の無い村になってしまった。


 そして、女の答えは……


 「あなたの弓の使い方次第では、村はもとに戻るでしょうね。それを期待して、あなたに、伝説の弓を授けるわ。そして、あなたを弓の勇者として認めましょう」

 

 合格……だった。

 すると、女の手元にあった弓は、光になってカイトの手に移動した。


 「ありがとう」

 「ええ。伝説の弓の力、上手に使いなさいね」


 そう言って、女は立ち去ろうとしたが、カイトは、最後に聞きたかったことを聞いた。


 「待って、最後に、あなたは何者なんだ?」

 「………レイア。生まれと創造の神よ」


 こう言い残して、女……レイアは立ち去っていった。

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