第6話 さぁ、勝負だ!

 あの日、俺はアトラスに家族を、友達を、町のみんなを殺されて、アトラスに復讐を誓った。俺のすべてを奪ったあの残虐な行為が、奴らにとってはほんの作業にすぎないことだと知って、はらわたが煮えくり返りそうになった。


 ――――――――――――


 今、その親玉である、魔王ロベリア・ジュエリーが、俺の目の前にいる。

 こいつを倒せば、すべての事件が解決するんだ!


 「さぁ、勝負だ!」


 俺は素早く魔法剣を構えて、ロベリアのもとへ突っ込んでいった。

 対して、ロベリアはすっと砂を拾う仕草をすると、同時に地面から大量の葉っぱが浮かび上がった。


 俺は撃ち出されるその葉っぱを、右へ左へと避けながら徐々に近づいていった。


 なんだ、あのときは初見だったから驚いて当たってしまったけど、今見ると、一直線に飛んできているだけじゃないか。


 そして、ついにロベリアが目の前に迫っているところで、彼女は手を前に出し、そこから突風を出した。


 吹き飛ばされ、つるの壁に激突する。ものすごい衝撃が背中から全身へ伝った。


 「へぇ、葉っぱ以外にもできることあるんだ」

 「バカにしてる?」


 さて、一応ロベリアの行動パターンは読めた。遠距離では葉っぱを飛ばして敵を切り刻み、近づかれると突風で弾き返す。俺には遠距離攻撃ができないため、とにかく厄介な相手だ。

 このままではロベリアには勝てそうにないな。やはり、誰かが弓の勇者に覚醒しなければ勝ち目はないのか?弓の勇者なら遠距離戦は誰よりも得意分野であろう。


 「いや、なんとか勝たないとな」

 「できるの?あなたはあたしの葉っぱに翻弄されているだけ。それに、まだまだ隠し持っている力があるしね」

 「マジ?」


 となれば、考えていてもしかたないな。何とかして、その隠された力を引き出そう。


 そして、俺は再び魔法剣を構えてロベリアのもとへ走っていった。一方、ロベリアはやはり葉っぱを飛ばしてきた。


 すこし、俺から行動を変えてみるか。


 俺は左手をあえて飛んでくる葉っぱの方へ向けた。そして、手に魔力を込めてスキルを発動させた!


 「何?」


 すると、手からバリアが展開されて、当たった葉っぱが次々に消滅していった。そう、スキル"無"を使い、ロベリアの葉っぱの魔法を無効化しているのだ。


 「そんなこともできるのね。でも、これはどう?」


 ロベリアはそういうと、葉っぱの射出をやめ、同時に二本のつるで俺に襲いかからせる。


 それらは、バリアを避けて俺は完全に背後を取られてしまった。ロベリアはというと、いつの間にか目の前まで来ており、おそらく風の魔法の構えをしている。


 挟まれた。絶体絶命ではあるが、でも、諦めず、素早く横へ避け、剣をロベリアに向けた、その時!


 シュン―――


 剣は空振っていた。刹那、背後からおぞましい殺気と熱を感じた。


 これは、さっきまでとは違う。ロベリアのじゃないみたいだ。そして……


 ズゴォォ――………


 すさまじい衝撃が腹から全身に伝わった。そして、俺の体は壁を突き破り、家々を貫通し、村の端まで飛ばされていった。


 「ケホッ……何が……起こって――」

 「しぶとい……」

 「?!」


 声が聞こえた瞬間、絶句した。


 なんでだ?あの場所からここまでは、かなり離れているはずなのに!


 ――速い。一瞬にも満たない速度で、かなりの距離を移動できる。それが、今の状態のロベリアなのだ。


 そこからは、自分でも語りたくない。ただただ、殴られ、蹴られ、一方的になぶられ続けたのみだった。


 そして……俺は気を失ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る