第5話 森に飲み込まれた村

 考え事こそしていたが、いつの間にか寝てしまったようだ……


 翌日の朝、俺はこれ以上ない不快な夢を見た。大量の虫に全身を埋め尽くされる夢だった。


 カサカサカサカサカサカサカサカサ――――


 「うわぁぁ!!!」


 あまりの恐ろしさに目を覚ましてしまった。視界に広がるのは虫の腹……ではなく宿の部屋の天井……でもなかった。夢のせいで一気に目が覚めたため、異変にすぐさま気づいた。

 部屋が、つるに侵食されていたのだ。

 夢で聞いたのは、虫が歩き回る音……ではなく、つるの葉っぱがかすれあう音のようだ。

 急いで体を起き上がらせようとした……が、


 「あれっ?動かない……!!」


 つるに体をベッドに縛り付けられ、身動きが取れなかった。しかも、なぜか腰から下の感覚が全くなかった。


 急いで魔法剣を取り出して……って、腕も動かせないから剣を取り出せない。だったら、スキルで……!


 パァァン!


 よし!つるの一部が消滅したぞ!おかげで右手を自由に動かせるようになった。

 その調子で次々と体に巻き付いているつるを消していき、ようやく体を動かせるようになった。


 「さて、一体なんでこんなことに……?いや、目星はついてる。あいつ以外にこんなことできる人はいないだろう」


 つい昨日、一戦を交えたばかりの奴。魔王ロベリア・ジュエリー。奴なら、村をまるごと植物で飲み込むこともできるかもしれない。


 ロベリアはあのとき、大量の葉っぱを召喚して俺を切り刻んだ。その傷はまだ残っている。でも、この戦いでロベリアのスキルを予想することができた。それが、


 「"植物を操る"とでも言うのかな。ロベリアのスキルがそれならこの現象にも説明がつく。目的は分からないが、何か良からぬことを企んでいるに違いない」


 そう思って、俺は窓を覆っているつるを切り刻んで外に飛び出した。部屋の扉は……奥から押さえつけられてて開かなかったよ。


 で、飛び出してから思い出したのだが、全身が痛い。そういえば、ロベリアと出会ってから一晩だ。治癒の結界や、俺のスキルがあるが、なぜか傷の治りが異常に遅いので、全身の切り傷はほとんど治っていない。


 「でも、非常時にそんなこと言ってられないよな」


 外に出て分かったが、宿だけでなく、村の中全てがつるに飲み込まれているようだ。特に、人が住んでいそうな民家には重点的につるが襲っている。やはりこれは、村ではなく、人を狙ったものであるのだ。


 となると、実は自然につるが伸びすぎただけでした、という可能性も消える。それなら人を狙うこともないし、何より一晩で村がひとつ飲み込まれるほどつるが成長するはずがない。


 よって、この現象の原因はロベリアであると確定できるだろう。


 ここまで分かると、原因のある位置も予想できる。魔力やエネルギーを村中に広げなければならないが、そのために最適な場所がある。この村は円形であるため、その場所は……


 「村の中心。伝説の弓が納められている祠だ。」


 あの祠は村を円と見たとき、その中心に位置する。つるを村の端まで伸ばす場合、そこは村の端のどの点からの距離も等しい。そのため……って、難しいことはいいから、とにかくそこが一番つるで飲み込みやすいってことだ!


 ということで、俺は村の中心弓の祠に向かって歩いていった。


―――――――――――――――


 祠の前に着くと、驚くべき光景が広がっていた。祠を覆うようにして、ドーム状の建物が、つるで作られていた。

 1つ開いた穴から中に入ると、その穴は閉じてしまった。そして、奥には、見覚えのある少女が椅子に座っている。


 「見つけたぞ、ロベリア!」

 「あなた、生きてたのね」

 「あんな程度で死ぬかよ。それより、このつるはおまえによるものだよな?なぜ、こんなことをしたんだ?」

 「あたしたちの計画のため、人の魂を大量に集めるためよ」

 「計画?」

 「そう」


 なるほど。アトラスにシュネム、それにこいつまでもが3つの世界のあちこちで村を襲って回っていたのはその為なのか。

 だが、ここで知りたいのはそこじゃない。その先だ。魂を集めて、何をするのか。


 「あの方を蘇らせるため、大量の魂が必要なのよ。長年封印されたあのお体を再び解き放つためにはね」

 「シュネムの言っていた、"ロスト"のことか」

 「あら、知ってるのね」


 ロスト、それはかつてこの世界を闇へ閉ざした死と破壊の神だ。


 「ロスト様が復活なされば、いまのこの世界をすべて壊してくださる。そして、新たな、より良い世界をつくってくださるのよ……」


 それを言うロベリアの顔は、何かに心酔する、そんな乙女の顔だった。それだけ、ロストという存在を信じているのだろう。


 「つまり、おまえたちはロストを復活させ、世界を滅ぼしたいわけだな。そんなこと、させてたまるか!」

 「ヒーローのつもり?復讐に燃えるだけの人が?」

 「これでも人間の感情は残ってるんでね。奴のことしかの頭に残っていない、幽霊とかじゃあるまいし」

 「フフッ。それと、あたしもあなたに1つ言いたかったのよ。あなた、記憶の魔人を倒すって予言された人でしょ」

 

 記憶の魔人?そんなやつは知らないんだが。


 「こう言った方がいい?シュネムを倒したのはあなたよね?大切な仲間が倒されて、あたしたちはとても傷ついたのよ」

 「驚きだよ。お前らにそんな感情があったんだな」


 まぁ、後半部分はほとんど棒読みのようだったけど。


 「だから、あたしはあなたを倒す。あたしたちの計画を邪魔したこと、その仕返しの気持ちを込めて!」

 「あぁ。絶対におまえを倒して、計画を止めてやる!」


 魔王を倒せば、奴らの計画は終わり、他の手下たちも降参するはずだ。そのときついでにアトラスにはやられてもらって、俺の目的を完遂してやる!


 そして、魔王ロベリアと俺の、世界をかけた戦いが始まった。

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