第3話 不思議な村
俺は走って、走って、走って、ひたすら走り続けた。
そのとき俺は、今までのことを思い出していた。
何でもない日に突然アトラスに襲われて、森でアイリアに会って、零と再開して、シュネムを倒して……
アトラスにロベリア、シュネム、そして……ミア。あの4人が世界のあちこちで人を殺して回っているのなら、俺は、その被害者を少しでも減らしたい。
でも、俺はこっちの世界に来てから逃げてばかりだ。情けないなぁ。
そんなことを考えていると、森の奥に明らかに人工物の建物が見えた。あのゴブリンのようなボロボロではない。ちゃんときれいな建物だ。
「きっと、あれだな」
あの少年が言っていた村ってきっとこれのことだろう。だが、さっきのこともあるし、しっかり警戒しながら近づこう。
村の門の近くに来ると、その前に二人の門番がいることがわかった。
「まて、ここに何の用だ?」
「まさか、正面から堂々と襲撃に来た、とか言わないだろうな?」
こ……こえぇ……
門の前に立つ二人の門番。2人とも強面の30代くらいの男性で、身長と同じくらいの長さの槍を持っている。その槍でバッテンを作り、俺が村に入るのを防いでいる。
「あの……俺は治療に来たんです」
「治療だと?……ってことは、カイトの奴に招待されて来たのか?」
カイト?と聞き返すと、同じ門番が答えた。
「カイトってのは……青いフードの少年だよ。君の話を聞くに、その子に会って来たんだろ?」
たしか、あのとき助けてくれた少年は……やっぱり、青いフードだった。ってことは、あの矢を飛ばしてきたあの子のことをカイトというのだろう。
「はい!そのカイトにゴブリンに襲われているのを助けられて、こっちの方角に来れば村があるから、って」
「分かった。そういうことなら入りな」
「あの、その前に。治療をさせてくれるとカイトから聞いたのですが、それはどこで?」
「んぁ?君はそれも聞いてないのか」
この村には、全体をおおうようにして結界が張られているのだという。その結界の中にいる者には、強力な治癒の効果がかけられ、傷や呪いなどがみるみる治っていくらしい。
「カイトが言っていたのはそれだ。まっ、細かいことはいいんだ。とりあえず、ゆっくりしていきな」
そういって、門番は村の門を開けてくれた。
――と、ほぼ同時に後ろから爆音をならしながらなにかが近づいていることに気づいた。振り返ると、ものすごい速度で走るフードの少年、カイトが門の前に……停止した。
「カイト!いったいどうしたんだ?そんなに急いで」
「いや、森でキングゴブリンに襲われてたこいつを、とりあえず村に行かせたけど大丈夫かなぁって。この森に来るくらいだから、かなりの手練れでしょ?」
「いや、こいつは特に強い力も感じない、普通の人間だ。まだ、会話しかしてないが、邪悪な感じもない」
「ならいいけどさ、とりあえず、俺はカイト。君は?」
「俺は楓、よろしく」「こちらこそ」
俺たちはカイトの案内で村をまわることにした。
第一印象としては、村はなかなかに賑わっているようだ。住人はだれもかれも楽しそうにそれぞれの作業に没頭していたり、会話していたりしている。
「ねぇ、なんでこの村はあんなに高い塀に囲まれてるの?」
門の時点で分かっていたのだが、村全体が結構高い塀に囲まれている。そのおかげで村の中からは周りの森は一切見ることができなかった。
「これは……その……魔王軍の侵入を防ぐためのものだよ」
「どういうこと?」
「この森の奥には魔王城があるんだ。ほんと、村を出てちょっと歩けば、城が見えるくらいの距離に」
魔王城……か。零が最終目標とする魔王ロベリア・ジュエリーがいる場所だ。まさか、こんなに近くにいるとは思わなかったよ。
「魔王軍の連中がいつ攻め込んでくるか分からない。だから、あんな風に壁をつくって守ってるんだ」
「城に乗り込んでいった村人もいるの?」
「いるさ。何人も乗り込んでいってる。ただ……ほとんどが帰ってきてない」
やっぱり、ロベリアやアトラスたちに殺されてるのか。零たちのチームであれだ。普通の冒険者で太刀打ちできるはずもない。しかも、あのときのアトラスは遊んでいたらしいじゃないか。
「でも、希望がないわけじゃない」
「え?」
「ついてきてくれないか?」
そういって、カイトはある建物のほうへ向かった。
向かったのは、小さな祠のような場所だった。祠の中には、弓が1つ納められていた。
「これは伝説の武器の1つ、"弓"だけど、まずは伝説の武器についてから説明しないとな。
伝説の武器は勇者が使う武器の総称で、この世界には3つの伝説の武器がある。"剣"、"弓"、そして"杖"。これらは世界のどこかに封印されてるんだ」
「んで、これがその1つねぇ」
「ここに"弓"があるということは、この村から弓の勇者が選ばれる可能性が高いということになる。だから、君もこれを試してほしい。勇者として選ばれたなら、弓を手にできるはずなんだ」
ちょっと待ってくれよ!いきなり何言い出すの?!と、とてつもない大声で叫びそうになった。
「まぁ、いきなり言われても分からないよな。つまり、君が勇者かどうかを確かめたいってことだよ」
勇者……かぁ。零はたしか、剣の勇者って言ってたよな。カイトが言っていた3つの内、1つは零が持っているってことだ。
「俺が……弓の勇者?」
「かもしれないってだけだよ」
ふーん、と俺は弓のほうへ近づいていって、弓に触れようとすると……
バチィィ!!
「うわぁっ!」
「はぁ……君もはずれか」
俺は弓から走った電撃で弾かれてしまった。同時に、カイトは見るからにガッカリした顔でうなだれていた。
「やっぱり……こんなものに期待しても意味ないよな……この村も魔王に滅ぼされるのか……」
「カイト……」
もし、零の他にも勇者が見つかれば、魔王ロベリアを倒す力になるかもしれない。そして、アトラスたちの野望を食い止められるかもしれない。カイトはこの村のために、俺はアトラスたちを倒すために、勇者を見つけたい。そう思って、
「カイト、せめて一緒に勇者を探す協力をさせてくれないか?目的は……一緒みたいだし」
俺は、そう提案した。
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