第2話 強敵と謎の射手
逃げて、逃げて、逃げて、数分が経過した。もう、ブラックの光線が飛んでくることはなく、音もしなくなった。
森をひたすら進み、村などの人工物を探す。そうすれば、ブラックや魔王と戦える戦力を見つけられるかもしれない。
さらにしばらく歩くと、レンガで作られた壁のようなものを見つけた。遺跡とかいうほど大きくはない。ただ、なにかの建物の跡のようではあった。
「誰かいますかー?」
声をかけながら壁に近づいていく。何か対話できないようなものが出てくるかもしれないから、最大限警戒をしながら。魔法剣も構えておいた。
恐る恐る歩み寄り、壁の裏側を覗いた!
「って、あれ?」
そこには、誰もいなかった。ただ、なにか生き物がいた形跡はある。
「皿……これは、火をおこした跡か?……結構知能が高いな」
もしかして、この近くに人間がいるかもしれない。そう思うと、ますますワクワクするような気がした。
しかし、次の瞬間、全てが絶望に変わった。少し目をこらすと、岩の裏に人の形をした何かがいるのを見つけられた。
「あっ、こんにちは!この近くに村とかあっt……」
「ぐぎギ……」
しかし、その人影の正体はゲームでよく見る魔物のような姿をした怪物だった。
全身緑で手には斧、ボロボロの布を腰に巻き付けた
「ゴ…ブリン?何で……こんなところに……」
「ギギがぁっ!」
って、驚いている暇はねぇっ!ゴブリンが斧を振り下ろしてきたので、即座に魔法剣で防ぐ……が、
バキン……!!
「はっ?」
ズドッ!
甲高い音と鈍い音がほぼ同時に流れた。1つは俺の魔法剣が割れた音、もう1つは俺の肩に斧がザックリと刺さった音だ。
……って、はぁ?斧が肩に刺さったって……!!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」
「ケケケっ!」
やばい、やばい、やばい、やばい!!痛い、痛すぎる!右腕が動かない。というか、あるかすらもわからない。いや、ある。ちゃんと繋がっている。
……っと、落ち着け。まずはスキルで痛みを無くせ。ダメージも徐々に無くしていけ。
こいつ、とんでもない攻撃力を持っている。俺だって剣は素人とは言えスキルの世界で戦ってきたんだ。魔力も大量にあって、その分剣も頑丈なはず。
それが、一撃で割れた?いくら俺のレベルが低いとはいえ、あり得ないだろ。
「キキケッ!!」
「うわぁっ!」
考えている暇すらない!っと、ゴブリンの拳の叩きつけを避けるが、振り返ると恐ろしい光景が生まれていた。
「じ……地面が、割れてる」
ぱっくりと割れた地面は、どこまでも深く、漆黒の穴が続いている。
明らかにただのゴブリンの強さじゃない。だって、ゴブリンってゲームにもよるけど、弱いほうの魔物として登場するだろ?
それが俺の魔法剣を砕いて肩に斧を突き刺して、さらには地割れまで起こすって、どうなってんだよぉ!
「グギギ……ガハァッ!」
ゴブリンは叩きつけた拳を斧に握り直して、再び斧を振り下ろした。すると、今度は地面が次々に爆発してかなりの範囲の木々が破壊されてしまった。
「危ねぇ……うわぁっ!!」
「キガガカッ!」
爆破の連続はまだまだ続き、ついに俺の足元が爆発した。
俺はその勢いのまま吹き飛ばされて、少し離れた木に頭から激突した。
「クケケケ………」
「やべぇ……」
まずい……
ゆっくりと、ゴブリンは近づき、ついに俺の目の前までやって来た。そして、斧を振り上げた、
その瞬間――
グサグサグサッ――!!!
「キェェ!!」
ゴブリンの背後から大量の矢が飛んできて、背中を次々に突き刺していった!ゴブリンはこちら側に飛ばされ、俺の横でぐったりしている。
「ひ、ひぇぇ……」
いったい、何が起きたんだ?すると、頭上、岩の上から青年の声がした。
「おい!何してる、さっさと逃げろ!」
「へ?」
「そいつはまだ死んでない。麻痺の矢で一時的に動けないだけだ。またすぐに動き出すぞ!」
「わ、わかった!」
そして、俺はその場から逃げ出してしまった。
「そっちの方角にずっと行くと村がある。そこで治療してもらえ!」
うしろから、そう叫ぶ声も聞こえた。うしろから聞こえる戦闘の音はなるべく聞かないようにして、ひたすら走り続けた。
そういえば、俺はこの世界に来てから逃げてしかいない気がする。ブラックの時も、あのゴブリンの時も。魔王を倒すぞ!とか言ってきたのに、何て様だ。情けねぇなぁ。
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