肆ノ章【新たな英雄】

第1話 黒い人影

 ゲート遺跡のワールドポータルに飛び込むと、金に輝く壁のトンネルに繋がっていた。果てしなく長く、その道は続いている。


 3つ目の世界――"レベルの世界"では、魔王の討伐を目標として行こう、零の助けとして。アトラスに関係があるのだとしたら、なんとしてでも魔王からその情報を聞き出さなければ。


 どこまでも続く長い道を進み始めて、数分が経過した頃だ。このまま3つ目の世界に到着すると思っていたのだが、異変が発生した。


 ふと、後ろを振り返ったのだが、トンネルの奥の方が異様に暗く見えるのだ。


 「みんな、後ろの方、なんか暗くない?」

 「え?……言われてみれば……」

 「そんな気も……」


 4人揃って後ろを見ていると、鈍い音とともに紫の光線が奥から何本も放たれた!


 「「「「ぬわぁぁ!!」」」」


 いきなりなんだよ!もしや、このゲートは罠だっていうのか!!


 「カエデ!後ろになにかいる!!」

 「なに?!みんな!急いでトンネルを抜けるぞ!走れぇぇ!!」


 俺の合図と同時に一斉に走り出した。全速力で駆け抜け……もう間もなくで出口だ。それまでにも光線は撃たれ続けている。そして……


 ―バキイィィンン――――


 ものすごい衝撃と共に、金色のトンネルから抜けることに成功した!!


 「抜けたぞ!」


 トンネルを抜けた先は、深い森のなかだった。どこまでも木々が生い茂り、どうやら、零もここがどこか分かっていないようだ。


 「なんだったんだ……今の」

 「分からないわ。真っ黒で顔も見えなかったし」


 スキルの世界からの道で追いかけてきた、謎の黒い何か。あれの正体は結局分からずじまいか……と、思った瞬間、


 ―――バキバキバキィィ!!!!!


 「うわっ!なんだ!!」


 再び空間にヒビが入っていく。ヒビが広がり……ついに、空間に穴が空いてしまった。そこから出てきたのは――


 「黒い……影?」


 ――先ほど追いかけてきた、黒い影だった。

 それは、影そのもの、とでもいうような人物だった。シルエットしかない……と言えば分かるだろうか。

 その形から、性別は判断できない。ただ、目の位置のみは、暗い赤に光っているのが分かる。


 「おまえは誰だ?!」

 「勇者……貴様は我を忘れたか……我が名はブラック……数千万年前に貴様に封印された悪魔だ」


 唯一判別できる目を細め、低い声で影――ブラックはそう言った。


 「悪魔だと?おまえもアトラスや魔王ロベリア・ジュエリーの仲間か?!」

 「アトラス?ロベリア・ジュエリー?我はその名を知らぬ。我の目的は……」


 台詞を言い終わる前に、ブラックは消え、零の後ろに瞬間移動して…


 「長き眠りから目覚め、貴様を倒すことだ!」

 「まずい!!」


 そう言いながらブラックは、右手に溜めていたエネルギー弾のようなものを零にぶつけた。


 やばい……零の奴、もろにくらった。同時に爆発も起きてるし、明らかに無事ではないぞ。


 って……なんだあれ?爆破痕から明らかにおかしなものが出てきている。真っ黒な……霧?分からないけど、触れたら危険なのはすぐに分かる。


 霧が広がっていって……まずい、零とブラックを見失った。どこだ?!


 よし、霧がだんだん晴れてきたぞ。あの2人、どこに行った……!!


 「ほう……寸前で避けたか……勇者め」

 「あぁ、明らかに何かする気満々だったからね。警戒はしてたよ」


 よかった。零は無事のようだが、2人がいる近くの木々や草の様子がおかしい。異様に、色が濃いようないや……


 「植物が……黒い?」


 ブラックが放った霧、それが広がった範囲の植物が、真っ黒に染まっていた。


 「なんだよ……これ……」

 「くらえぇ!!」


 やばい!!ブラックの奴、さらに次々と紫の光線を放って植物を黒く変えていってるぞ!


 ここで、零が何か話してきた。


 「楓、たぶん楓たちではこいつに勝てないよ?」

 「は?何言ってんだよ!」


 零、いくらなんでもそれはないぞ。俺たちだってスキルの世界で鍛えてきたんだ。


 「いい?この世界では自分のレベルで強さが左右される。そしてこの世界に来たばかりの君たちはLv.1だ。恐らくあいつのレベルは果てしない。そんな奴に君たちがかなうわけがないんだ。だから、楓とアイリア、ルナはここから逃げてくれ」


 たしかに……零の言うことも一理あるけど、それじゃあここに1人で残った零はどうなるんだ?


 「頼む。僕は……後で必ず、追い付くからさ、先に行って魔王ロベリア・ジュエリーを、倒してくれ」

 「………わかった。零を、親友を信じるよ。」


 あの感じ、物語の中なら後で死体となって見つかるやつだけど、ここは現実だし、零の力……勇者の力なら悪魔を封じ込められるかもしれない。


 「アイリア!ルナ!一旦引くぞ!2人は一緒に、俺は別の方向に逃げる。後で合流だ!」


 「「了解!」」

 「逃がすわけなかろう!」


 ブラックが楓に向けて光線を放ち続ける!


 「うりぁぁ!!飛空乱斬撃ぃ!!」

 「零!」


 零が光線を放つブラックを飛空乱斬撃で妨害している。この隙に!

 走れ走れ!ひたすら、どこへ着くかも分からないけど!!


 そうして、零が森に残りブラックを引き付けているうちに、俺とアイリア、ルナはレベルの世界のどこかへと逃げ去っていった。

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