第9話 今への繋がり

 アトラスとミアは勇者パーティの零たちを一網打尽にした後、ロベリアがいる魔王城へ戻り、報告会をしていた。


 「それと、最後にひとつ。勇者たちとは関係ないけど、シュネムが近いうちに倒されるらしいよ。」


 ミアはそう言ったが、このことはまだ起きていない、未来の出来事のはずだ。しかし、アトラスとロベリアはさも当然のように、続けた。


 「なんだ、あいつ死ぬのか」

 「まぁ、彼の能力は戦闘には不向きだからね」

 「でも、死なれると困るなぁ。ミア、シュネムを殺す奴の特徴は?」


 ミアは、未来のミトロセリアでシュネムを倒す人物、楓、アイリア、零のことを話した。しかし、3人のことをはっきりと知ることはできず、あやふやな説明だった。そのため、アトラスとロベリアは個人の特定には至らなかった。


 「どうする?」


 ミアが聞くと、アトラスは


 「それじゃ、そろそろ俺が動くか?さっきのお遊びではなく、ちゃんと仕事としてさ」

 「遊びだったの?…………あれ」


 そして、アトラスは自身の力を用いて世界を渡り、楓の住む世界、無能力の世界へと向かった。



――というのが、アトラスが楓のいる町を襲った理由だ。


 ―――――――――――――――


 「――というのが、僕のこれまでと、ミアについての話」


 俺は零の話が終わってから暫くは、考えることができなかった。衝撃がありすぎたのだ。ミアにアトラスに魔王ロベリア・ジュエリーに……

 心の整理がついて、改めて零と話した。


 「もうひとつの世界にも、アトラスがいたのか」

 「うん」


 まさか、アトラスが3つの世界全てにいるとはな。だが、奴はどうやって世界を渡ったんだ?ここの他に"ワールドポータル"があるというのなら別だが、そうでなければ世界を渡る手段が存在しない。じゃあ、奴はいったいどうやって……??


 いや、それは後にして今はミアのスキルだ。


 「それで零。結局ミアのスキル……得意だった魔法はなんなの?」

 「うん。彼女の力、それは『時空間操作じくうかんそうさ』。つまり、時間を止めたり、戻したり、未来を見たりする力だ。」


 『時空間操作』それがあれば、時間を戻すことができる。


 「結論を言うと、ミアはその力でゲートの時間を戻したのではないかな?かつてこれが使われていた時代に戻して、ゲートを甦らせた、と、僕は思う」

 「なるほど……」


 しかし、この中に時間を操るようなスキルを持った者はいない。つまりこの方法では俺たちはゲートを開けることはできないようだ。


 「んーー……どうやって開けようか……」


 と、おもむろに零がゲートに近づくと、ゲートからピーと音がして、ゲートに緑色の幕が現れた。同時に、次の音声が再生される。


 『勇者の同行を確認。ゲートを開通します』


 「あれっ?」

 「ゲート……開いたわね」


 俺たち全員があっけらかんと見ていた。


 「零……どうやった?」

 「いや、僕にも分からないけど、あの音声の感じだと、僕…というより"勇者"が鍵だったみたいだ」


 まぁ、開いたなら開いたでいいや。3つ目の世界に出発するとしよう。


 「よし、ゲートが開いたなら早速行こうか。みんな、準備はいいかい?」


 俺と零は経験済みだが……普通は経験しないけど……アイリアとルナは初めての異世界への移動だ。特にルナに関しては、しっかり守らないとな。


 「僕は問題ない」

 「わたしもよ」


 魔王ロベリア・ジュエリーの討伐を目標とする零と、異世界の調査に出るルナは即答でOKの返事だ。しかし、アイリアは世界を渡ってまで俺たちについてくる理由がない。だが、


 「ええ、行きましょう」

 「アイリア……ありがとう」


 彼女は、俺たちについて来てくれるようだ。


 「じゃあ、行くぞ!」


 そう言うと、俺たち4人は一斉にワールドポータルに飛び込んでいった。


 ――――――――――


 「……………」


 4人がポータルに飛び込むのを、黒い人影がじっと見ていた。


 その見た目はどうと言うこともない。ただ、"黒い人影"としか言い表すことしかできないほど、なにも分からない、シルエットのみの人だ。


 その影は、ゲートにゆっくりと歩み寄ると、その中へと消えていった。


 彼の歩き、踏んだ地面の部分のみ、石が灰色ではなく、真っ黒に染まっていた。

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