第5話 正体

 アトラスは、大きく息を吸い込んだ。


 「何を……?」


 そして吸い込んだ息を、ものすごい勢いで吐き出した!同時に炎も発射された。"火炎放射"だ。


 「あっつ!」


 炎は僕たちはもちろん周りの木々までも燃やし尽くさんと、その火の手を広げていった。


 吐かれた炎は、僕たちの体にまとわりついてきた。火だるま状態のようになってしまったのだ。火は、僕たちの体をじわりじわりと焼いていく。


 かろうじて燃えている範囲からは逃げられたが、森に火がついたら、もう止めることはできない。さらに火は広がり、灰に変えていく。


 「き、消えた……か」


 体についた火は消えたが、まだ全身が痛い。火傷どころの騒ぎではないのが確かだ。


 森は、僕らを中心に全てが灰へと変わり果ててしまった。


 「まさか……炎も使えるとはな」

 「炎だけじゃあねぇよ」


 アトラスは、右手を天に向けて掲げると、同時に、僕たちの周りに5つの魔法陣のようなものが出現した。

 パッと見はそれだけの変化、しかし、その上空からはとんでもないものが魔法陣に向けて落下していた。それに僕たちは、まだ気づいていない。


 「そうりゃ!」

 「わわっ!」


 アトラスは、腕を氷の刃に変えてこちらを襲ってきた!

 それに対して僕らは、刀や斧、剣に氷の魔法で奴の剣撃をさばいていく。

 弾き、受け流し、鍔迫り合い、何とかして己の身を守りつつ、4人は何とかして反撃もしていった。


 その時――


 「ぬぁぁ!!」


 爆発音と共に、誰かの断末魔が耳に入ってしまった。その後、立て続けに4回爆発があちこちで発生した。


 「ちっ、当たったのは1人か」

 「……隕石」


 爆発の正体、それは真っ赤に燃え上がる隕石の落下によるものだった。先ほど設置した魔方陣めがけてそれは降り注いだ。


 しかし、まずい。隕石の爆発が直撃したウィルはしばらくは動けないだろう。HPが完全に削られていた。


 そこで気づいたのだが、やはりおかしい。こいつ、いったいいくつ属性魔法を使った?

 ※属性魔法とは、火、水、雷、土、風、氷、木の7つの種類の魔法をまとめて呼ぶ呼び方である。ただし、地域や時代によっては、分類が難しいものがあるため、その種類の数に違いがある。


 『属性魔法っていうのは、基本的には1人1つ、多くても3つくらいが限界なの』


 前に、フィオナはそう言っていた。しかし、こいつは確認できた限りで、木、火、土、氷を使っている。明らかにただ者ではないこいつが、単なる手下なのか?


 そうこういう内も、アトラスによる攻撃は止まらない。


 「はぁ!!」


 バチバチと帯電させた腕を横に凪払い、そこから全方向に稲妻を発射する。とてつもない早さで雷が僕たちを落雷を繰り返しながら追いかけてきた!


 「やべぇやべぇやべぇぇぇぇ!!!」


 落雷から全力疾走で逃げ回る!速い!落雷は、今にも僕の体を真っ黒焦げにしてしまいそうな距離で迫ってきた。


 「ぎゃぁ!!」

 「ふふ……また1人……」


 今度は、同じく雷から逃げ回っていたフィオナに直撃し、HPを完全に削られた。


 「嘘……だろ……?」


 仲間が、次々にやられていく―――


 落雷が収まり、真っ黒焦げでぐちゃぐちゃになった森で僕は息を切らしていた。


 「はぁっ……はぁっ……」


 ビル、ウィル、フィオナはアトラスの謎の属性魔法によってHPを削りきられ、気絶状態となっている。


 「なぁ、レイ。どうするよ?」

 「……………」


 ライトが、苦しそうに呼吸しながら話しかけてきた。彼もまた、属性魔法を回避し続けているのだが、体力は限界寸前だろう。


 アトラスの属性魔法を攻略しないと、奴には勝てない。しかし、攻略の糸口すら見えないため、どうしようもなくなっていた。


 攻略の前に、ずっと引っ掛かっていることを解決しておこう。


 「あんた、魔王の手下、じゃないよね?」

 「はぁ?」

 「レイ、どういうことだ?」

 「まず、あんたの戦い方だけど、他の手下たちと違いすぎる。それに、あんたは合計5つも属性魔法を使っている。それは、あの手下たちにはできないことだ。」


 しばしの間、沈黙が場を支配したが、アトラスの笑い声でかきけされた。


 「ハハッ、よく気がついたな、おめでとう」


 アトラスは、しばらく俯いた後、続けた。


 「その答えは、この人に聞いてくれや」


 その瞬間、近くにあった崩れた木の幹から極太の蔓が伸びていった。ものすごい速度で成長していき、桃色の花を開いた。そして、


 「やぁ、勇者御一行様じゃまものさん?わたしは魔王、ロベリア・ジュエリー。世界の全てを我が物にする者だ」


 花から、そんな声が聞こえた。

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