参ノ章【レベルの世界】
第1話 何も無かった世界
目覚めると俺はどこがで寝かされていた。
どうやら、まだ生きてはいるようだ。三つ並んだベッドには、部屋の奥から順に、俺、零、アイリアと寝転がっている。
「気がついたか」
「ん?」
そこで、髭を生やした30~40代の男性に話しかけられた。知らない人だが、俺たちに付き添ってくれていたようだ。
「あなたは?」
「私はスクーダス国の騎士団長、マルクス。君たちはミトロセリアの中心地で倒れてしまったので、私たちが保護しているというわけだ」
「ここはどこですか?」
「ここはベニアドラの病院だよ。……早速だが、ミトロセリアでの出来事を覚えているかい?」
…何となく思い出してきたぞ。たしか、ミトロセリアでシュネムに出会って、そのまま戦闘になって――
「――そして、シュネムは死んだんですよね?」
「ああ。そこまで覚えてくれてるならありがたい。そこで聞きたいんだが、君たちは奴とどういう関係なのだ?」
「それは、俺が答えることもできるが、本人から聞いた方がいいでしょう」
俺では、答えられない部分もあるからな。それに、いくらアイリアの過去を知っているとはいえ、勝手に話してはならない気がする。
おっ、なんとタイミングの良いことか、アイリアが目を覚ました。
「カエデ?ここは……?」
「起きたか。ここは、ベニアドラの病院だよ。スクーダス国の騎士の方々が助けてくれたんだと」
「それで、起きたばかりで申し訳ないが、事情聴取をさせてくれないだろうか。あまりにも大きな事件だから我々ものんびりしていられなくてね」
マルクスの言葉に、アイリアは顔を曇らせた。彼女にとっては辛い過去を思い出さなければならないのだから。
「いいよ。話すね」
ぽつりぽつりと、アイリアは過去の話を始めた。シュネムに家族を殺されたことや俺と共に奴と戦ったことまで。そして、復讐を完遂したことも。
ついでに俺や零にも同じことを聞かれたので俺らも答えた。と言っても、俺はここに来てから初めてシュネムを知ったからあまり話すことはないし、零はもっと無い。
「分かった。では次に、奴が言っていたことで少し引っ掛かることがあったんだが、聞いてもいいだろうか」
「構いませんよ。」
「では聞くが、"ロスト"と言う単語に聞き覚えはあるか?」
「『失った』?」
ロスト――lostならば、これはloseの過去形で、失う、とかを意味する。
「うん。確かにそういう意味もあるが、ここでは違う。――実は、この単語はシュネムが死ぬ間際に残した言葉だ。」
それを聞いて、俺はあいつが言っていたことを思い浮かべた。えぇーっと……
『ホッホッ、貴様らがどうあがこうと……!必ずやロスト様が……!』
確かに、ロスト様、と言ってるな。この感じだと誰かの名前のようだな。
「語尾に"様"がついているから誰かの名前だと私たちは考えているのだが、聞き覚えはあるかい?」
俺はこの世界で出会った人だけでなく、もとの世界の知人やアニメやゲームのキャラクターにまでも考えを広げてみたが、俺の知っている限り、分からなかった。
「……いや、知りませんね。零、アイリアは?」
「僕も知りません。」
零に関しては予想通りだ。しかし、
「私……聞いたことあるかも。昔の文献とか見るの好きで、古典とかを調べていたことがあったの。そこで"ロスト"って名前を見たのよ」
「なに?!本当か?!」
その後、アイリアは"ロスト"について話してくれた。その内容を簡単にまとめると、このようになる。
ロストは、『死と破壊の神』と呼ばれている存在である。
遥か昔、この世界の全てはその存在に支配されていた。それは闇そのものと言って良い。
とはいえ、始めからそのような状態ではない。さらにさらに昔は緑豊かな世界だった。人も、動物も、虫も、魚も、植物も、みんな一緒に過ごしていた平和そのもののような世界だ。
――ある時、"それ"が現れるまでは。
"それ"――ロストはどこからともなく現れ、一瞬にして世界の全てを闇へ
―――――――――――――――
それから、果てしない時が流れた。世界は黒いままで、あれ以降、変化は何もなかったことを示していた。
そこへ、一人の女性が現れた。彼女は『創造と生まれの神』レイア。
2つの神は衝突した。世界を闇へ閉ざそうとするロスト、闇から解き放とうとするレイアは、その力をぶつけ合った。
長き戦いは、レイアの攻撃にて終わった。レイアはその力にてロストを小さな石に封印した。
さらに時が流れた。世界はレイアによってもとの姿を取り戻し、今現在のスキルの世界になった。
―――――――――――
「と、いう感じよ。これが、この国に伝わる……神話?の一部」
なるほどな。
「まさか、シュネムはそのロストを蘇らせようとか考えているのではないか?!」
「おいおい、もしそれが本当なら……!!」
このとき、俺は想像もつかなかった。"ロスト"という存在が、今後の俺の復讐劇にいかに影響を及ぼすのかを。
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