第11話 記憶の魔人

 時間は十分に稼いだ。一気に決めるぞ!

 チラリとアイリアの方を見ると、手をグッドサインにしてこちらへ向けていた。

 準備完了の合図だ。

 それを確認すると、俺はシュネムの方へ一気に近づいて剣を振る。当然避けられるがそこは重要ではない。問題は、俺の異変にシュネムが気づくかどうかだ。


 「なっ!お主、どこからそんな力が?!」

 「さぁ、どこでしょう?」


 俺は今、意味もなく大量の魔力を放出している。しかし、そこに意味がないことを知らないシュネムは、当然警戒する。

―このまま、をしてくれたら良いのに。


 「ホッホッ、何をたくらんでおるか知らんが、そんなものはお主の力を使える私には無意味!はぁっ!」


 ~【能力消失】~


 シュネムの特殊能力で俺が放っていた魔力が消えた。……計画通り。


 「零!」

 「オーケー!」


 零はシュネムが能力使用直後のクールタイムの隙をついて、シュネムの足元を攻撃した。


 「くらえ!空剣くうけんまい!」

 「ぬおっ!?」


 零の剣から出された大量の小さな剣はシュネムの足元の地面を切り刻んで、足がちょっと引っ掛かる程度の穴を作った。

 シュネムはそこに足をとられて体勢を崩した。


 「今だ、アイリアァ!」

 「いけぇ!」


 ここまでが作戦だ。奴に俺の能力消失を使わせ、直後のクールタイムのうちに体勢を崩し、そこを一気に叩く。

 最後は、ずっと魔力を溜め続けていたアイリアの全力の一撃をもって決める!


 「クッ…足を……」

 「今まであなたが殺してきた何万人もの悲しみ……しかとその身に焼き付けなさい!」


 彼女の手にはすさまじいほどの電流が溜め込まれている。その電流をシュネムへ解き放つ!


 「はぁぁぁぁぁ!!!!」

 「フグッ!クク………」


 シュネムのやつ、手から小さな結界のようなものを生み出して守っている。しかし、それもむなしく砕け散り……シュネムの体を貫いた!


 「……ぬぉぁぁぁ!!!」


―――――――――――――――――――――――


 「はぁ……はぁ……ど、どうなったの?」

 「シュネムは……気絶か?それとも死?」


 シュネムは電撃が直撃して倒れ込んでしまった。かぶっていたお面も砕け散り、その素顔が明らかになっている。口調の割に意外と顔は若い男性風だ。鮮やかな赤い目が特徴的だ。


 「アイリア、ものすごい威力だったな」

 「私の全てをつぎ込んだ最高出力よ。そのせいで魔力も空っぽ。体を動かす余裕もないわ」

 「正直、僕たちもだよ」


 そこへ、銀色の鎧をつけた集団が駆けつけてきた。


 「これは……いったい何があったんだ?」

 「ひどい……全てボロボロではないか」


 彼らは、崩れてしまった建物のなかに入って被害状況を調べているようだ。

 俺たちはその人たちの一人に話しかけてみた。


 「あのーあなたたちはなんでしょうか?」

 「我々はスクーダス国の騎士団だ。ミトロセリアより、非常事態のため、応援を要請されたために駆けつけた」


 スクーダス国とは、この世界におけるそこそこの大国だ。そして、今いるミトロセリアがある国でもある。


 「もしかして、ここの状況について、何か知っているのか?」


 これは……答えても良いのか?「シュネムと戦って殺しました」とか言ったら一発で逮捕されるだろうし……

 あいつがまだ生きていることを願ってこう言おう。


 「あそこに倒れている人、大量殺人犯のシュネムだと思うんですけど…」

 「なに?なぁ、ちょっと確認してみてくれ。」


 俺が話しかけた騎士が別の騎士に確認をさせる。


 「間違いないです!」


 「ふむ。ところで、君たちは何を?」


 その質問に、知られるとまずいことは隠しつつ答えようとしたが、聞きなれた男の声が遮った。


 「よくも……ここまで私を……」

 「なんだ、まだ生きてたのか」


 生きてるって言っても、かなり瀕死に近いだろうかな。ていうか、あれを受けてもう起き上がる方がおかしいだろ。


 「ホッホッ、貴様らがどうあがこうと……!必ずやロスト様が……!」


 ついに立ち上がってしまった。いや、体から火花が散ってるな。まるで戦隊ヒーローの敵が倒されかけてるときみたいに。

 火花がますます激しくなっていって……


 ズドーーン!


 シュネムは爆散して死んだ。

 といっても肉片が飛び散って……とかグロいことにはならなくて、そのまま消滅した感じだ。


 「なんとか……終わった……なぁ……」


 シュネムが消失すると、俺たち三人は力が全て抜けて、その場に倒れ込んでしまった。

 緊張が一気に解けたからな。

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