第9話 あのとき~アイリア編~
私―アイリアの家庭は、一般に比べると少し貧乏であった。私たちの家族は父を除いて吸血鬼であったため、何度も命を狙われることがあったためだ。
この世界には"ヒト"のなかにもいくつかの種族が存在している。特に特徴のない"人間"、人間に動物のような特殊な部位がついている種族"亜人"、亜人のなかでも獣度合いが強い"獣人"である。
私たち家族は、亜人の一種である吸血鬼であったため、人間に比べて差別的な扱いを受けることがあった。
それでも、私の母は人間の男性を愛し、結婚して私を生んだ。父の方も、亜人だからといって差別することには反対していたため、母が亜人であることには何も気にしていなかった。少し生活に苦労はあったようだが。
ある日、私たちの家に何者かが押し掛けてきた。
吸血鬼は人間にとって外敵だ、と言って始末しようとする組織もあるらしい。たまに、私の家にもそのような人が来ることもあった。
しかし、今回はいつものその組織ではなく、一人の男性だった。それゆえに私たちは油断していた。まさか、扉を開けるなり父の頭が消えるだなんて想像するだろうか。
「あなた?」
母は、玄関の方で大きな音がしたので見に行った。母の種族は吸血鬼だから多少の傷ならすぐに治る。しかし、首をとられてはさすがに回復はできない。
私はそのとき2階の部屋にいたためそのとき起きていたことを知ったのは事件が起きてからだ。
カラフルなお爺さんが家から服の赤い模様を増やして出てきたのが部屋の窓から見えたので、ただ事ではないと思い1階を見に行った。すると、両親だった胴体のみが2人で倒れているのを見つけた。
まさか……吸血鬼を外敵と見る連中が襲ってきたのだろうか。
(なんで……私たちが何をしたっていうの?……私たちが人間と違うことってそんなにダメなことなの?)
許さない。種族の違いだけで私たちを
家族を失った私には、もはや失うものなんてない。だったら、犯人を地獄の果てまで追いかけて、この報いを受けさせてやる。
犯人――後に殺人鬼シュネムと知る人物への復讐は、このときから始まった。
私は、あの事件と同じような手口で行われる事件が多いというミトロセリアの近くの町、ベニアドラで事件を調査することにした。確実に犯人へと近づき、復讐を遂げるためだ。後のパーティーメンバーとなる男、カエデと出会ったのはそんなときだった。
事件の調査は進み、後は犯人たるシュネムを見つけるのみだった。生活費がすこし安心できなくなったので、魔物を狩って稼ごうとしていたとき、その男と出会った。
最初は始めてみる顔だったため、初心者と思い見守ることにしていた。問題なさそうなら気にせずに去ろうとしたのだが、彼はそこそこ苦戦するような魔物、大熊と戦おうとしていたため、見過ごせなかった。
彼が熊に殺されかけたとき、とっさにスキルを発動して熊に雷を落とす。
「……???」
「大丈夫かな?」
声をかけると男……と言うより少年はこちらに振り返った。
「あなたは?さっきのはいったい?」
「ちょっ、質問が多いわよ。」
そう次々に質問されても困るんだけど。とりあえず、聞かれた分は答えた。
「私はアイリア。この辺りを中心に活動している冒険者よ。」
「さっきの雷は?」
「あれは魔法。人の魔力を使って自然現象を再現したものよ。あなたの魔法剣と似てる、といえばわかるかしら?あなた、初心者ハンターよね?だったらもっと手前でか、別のもっと安全な場所で狩りをすることね。それじゃ!」
一通りの説明を終えたし、そろそろ宿に戻ろうかと思ったので去ろうとした。しかし、
「待ってくれ。あの、あなたは今一人でしょうか?ならば、俺と一緒に来てくれませんか?」
そう言って彼に止められた。普通に接しているだけのはずなのに、その声はカタコトだった。
まあ、彼は初心者だろうし心配だからついていってもいいかな。どうせもう帰る予定だっから、利益がすこし増えたと思えばいいわ。
「うーん……まぁ、いいわよ。あなた一人だとまた無茶しそうで怖いしね。」
あれ?この言い方だとすこし煽るようにならない?あっ、彼の顔が少しひきつってる。
「俺は楓。どうぞよろしく。」
「カエデね。よろしく。」
まぁ、特に何もいわれなかったからいいか。
その日はそのままカエデに戦いかたを教えながら狩りをして終えた。カエデがいたところはそこそこ強い魔物が多いところだったため、一緒にいても危ないシーンがあったが、なんとか斬り抜けられた。
(カエデ……ね。あの感じは私と同じような雰囲気だった。もしかしから………まさかね。)
カエデと分かれて私はベルランスの私の家にいた。ちなみに、今日の戦利品は換金済みだ。
カエデとは狩りの時に少し話した程度だけど、彼からは深い悲しみと憎しみを感じられた。考えすぎかもだけど、もしかしてカエデも私と同じような境遇なのかしら。なら、もしかしたら、彼なら私と……
私の考え事は耳をつんざく爆発音を以て妨害された。
爆心地――ベルランスのギルドへとわたしは駆けつけた。と言っても、野次馬にだけど。
ギルドの前ではある2人による戦闘が繰り広げられていた。いや、あれは戦闘と言うより一方的な暴力だ。
「ん?あれって…カエデと……!!!」
そこにいたのはカエデとカラフルな格好な老人。それこそ、今までに集めた"奴"の情報にぴったり合致する人物。シュネムがそこにいた。
そして、カエデはシュネムによって倒され、わたしは彼を自分の家に運び込んだ。
カエデが目覚めた後、シュネムのことを彼に話した。するとカエデは、私に協力を頼んできた。
私は彼の頼みを一度保留にして考え込んでいた。
(私は確かに"奴"へ復讐したい。でも、カエデの言葉を信用してもいいの?それに、カエデは『シュネムに』ではなく『シュネムら一味に』と言っていたからね。そこは怪しいけど、目的は一致してるから良いのかしら?)
さんざんに考えた結果、私はカエデにある結論を告げた。それは、
「……なら、私はあなたに協力する。」
そうして、楓と私は協力関係を結んだ。
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