第8話 剣の勇者

 ゲート遺跡でのミア戦、ミトロセリアの町での壱ノ魔人戦が終わってから3時間ほど過ぎた後、2人はミトロセリアで合流した。時刻はすっかり夕方になってしまった。


 「アイリア、大丈夫?わりぃな、突然走っていってしm……え?」


 俺は草原がある方から歩いてくるアイリアに話しかけた。しかし、俺がアイリアの方を見ると、驚くべき人物がそこにいて口が完全に停止した。


 「ん?……えっ、お前ってまさか……」


 アイリアのとなりに立っていた少年もまた、俺を見るなり驚きの表情で固まった。


 「お前ってまさか……零?2年前に行方不明になったはずだよな?」

 「ってことはやっぱり、君は楓?」


 零――木村零きむられいは俺の中学校に一緒に通っていた生徒で、俺とは結構仲が良かった方だ。

 しかし、彼は中学2年の時に突然失踪し、行方が分からなくなっていた。あのときはかなりの騒ぎになっていたよ。

 そして、行方が分からないまま2年が過ぎ、俺の町はアトラスに襲撃を受けて俺は死んだ。


 「まさかお前、異世界召喚されたから行方知れずになったのか?」

 「ああ……多分…そうなんじゃない?」

 「曖昧だな……ってそうか。お前はこっちでどうなってたか知らないんだな。」


 ……とまぁ、俺と零は昔からの仲ではあったので、結構話が盛り上がってしまった。その間、アイリアは話の外にやってしまったので、かなり退屈そうにしていた。


 数分後、俺たちは話に夢中だったため感覚的に数秒後、退屈さに飽き飽きしたアイリアが声をかけた。


 「あの2人とも、そろそろ私も話にいれてくれない?真面目な話もしたいし。」

 「おっと、すまないな。零、お前なんでここにいるんだ?」


 零に改めて話を聞くことにした。


 零の話をざっとまとめるとこうだ。

 2年前のある日、零が学校から帰っている途中だった。足下によく分からない魔方陣のような模様が現れてその瞬間に気を失った。気がつくと、祭壇のような場所に立っていて、ローブをまとった人に囲まれていた。

 それから彼は彼らに『魔王』という邪悪な存在の話、彼がなってしまった『勇者』の話、世界のシステムたる『レベル』の話、そして、勇者に魔王を倒してほしいという話を聞いた。

 零は元々、そういうファンタジー的な話がとても好きだったので、喜んで受けたそうだ。かなりワクワクしていたそうな。


 「そして、未だに魔王を倒すことはできず、何やかんやでこのスキルの世界に来て、助けを求めようとしたら楓に会ったって訳だ。」

 「いや、倒せてねーのかよ。」


 2年もあったんだぞ。どんだけ強いんだよ、その魔王ってやつは。


 「えげつねぇんだ、やつの作戦は。あちらこちらの町を植物みたいなので襲っては、そこを支配する。しばらく後に行ってみると、町は植物で汚染されて、人もみんなやつの手に落ちてんだ。」


 零は魔王の被害を受けた町、人、自然、零の仲間についてその凄惨さを語った。


 「仲間を募って魔王に挑んだんだが、みんなやられっちまった。僕らだけではもうどうにもならない。だから、こっちの世界の誰かに助けを求めに来たんだが、まさか楓に会えるとは思わなかったよ。」

 「それで、零くんは私たちに魔王討伐の協力の要請したいのね。」


 アイリアは若干声のトーンを低めていった。


 「うん、頼めないかな?」


 俺個人としては是非とも手伝いたい案件だった。他の世界に行ってみたかったのもあるし、2年前とはいえ、仲良くしていた友達の頼みだからだ。

 しかし、アイリアはというと、いまいち乗り気ではなかった。彼女の目的はあくまでもシュネムへの復讐だ。……と、俺は思っていたが、


 「いいわよ。」

 「えっ?アイリア、いいの?」

 「だから、そう言ってるじゃない。」

 「でも、まだ君の目的を果たせてないでしょ?」

 「ええ。だから、あそこにいるやつをさっさと倒しましょ?」


 そう言って建物の屋根の上を指差した。そこには、見覚えのあるカラフルな小面こおもてのお爺さんが立っていた。


 「ほう、まさか見つかるとは思わんかったわい。して、お主らは私に何用かな?」

 「とぼけるな。今からぶっ飛ばしてやる。」


 アイリアは一歩前に出た。そして、シュネムを指差して真剣な眼差しで、


 「あなた、私の生活をめちゃくちゃにした張本人よね?だからずっと、私はあなたへの復讐を考えていた。今こそ、私の家族の無念を晴らすとき!」


 とて、左手に雷の槍を作り出した。

 シュネムは不気味な笑みを浮かべて、


 「ホーッホッホッホ、いいじゃろう。すこし、お前たちで遊んでやる。」


 そういって、背後に大きな魔方陣を展開した。すると、楓たちの意識は遠のいていき……


 アイリアの復讐は、如何様いかように終わるのか。

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