第7話 時を越えて

 ┃ゲート遺跡にて┃

 「行ったらどう?ヒーローさん。あなたの憎い相手が待ってるよ」


 ミアが微笑を浮かべてそう言うと、楓は一瞬の間に遺跡の入り口、そしてミトロセリアの町に向けて走っていった。凄まじい衝撃が部屋中にかかり、遺跡が崩れそうになっている。


 「カエデ!どこ行くの?!」

 「ざんねん。彼氏さんには聞こえてないみたいね」

 「ミアちゃん、あなたはいったい何なの?」


 ミアは、さらに不適な笑みを浮かべて、


 「今さらね。私も彼らの仲間。アトラスから逃げたカエデ、シュネムから逃げたアイリア、あんたたち二人を消すために派遣されたのよ。」

 「そんな……!」


 アイリアは、ミアが告げる言葉を信じられなかった。驚愕の表情のまま、動くことができない。

 一方ミアは、余裕の表情である。


 「あの強~い蛇も私の作戦。いろいろいじったのよ。あんたたちを始末するためにね。いろいろ失敗したけど、せめてあなただけでもやらないとね!」


 台詞の終わりと同時にミアは右の指を鳴らした。


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 指を鳴らすと、アイリアに向けられた無数の光輝く槍状の物体が現れた。しかも、アイリアと槍との間にはわずかな隙間すらなかった。


 「え……?」


 その至近距離で現れた槍をアイリアは避けられるはずもなく、全てをまともに受けた。

 彼女の体は槍でズタズタにされ、後にはアイリアだった何かが残った。


 「あら、こんな程度で無理なのね。それならもう一度♪」


 そして再びミアは左の指を鳴らした。


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 「せめてあなただけでもやらないとね!」

 「あれ?」


 私ってさっきミアに殺されなかったっけ?槍かなんかが刺さって。いや、そんなはずないわよね。死んでない、そうに違いない。……じゃあ、さっきのは何?


 アイリアが考え事をしている間に、ミアは次の用意を済ませた。


 「さぁ次!」


 そしてミアは右の指を鳴らした。すると、今度はアイリアと隙間がある状態で、アイリアを囲むようにして槍が大量に現れた。

 瞬時に見切ってその槍を全て避けるも、次の瞬間にはまた槍に囲まれていた。さらに避けても、また囲まれる。避けるたびにミアは左の指を鳴らす。

 避け続けていくうちに、アイリアの体力は限界に近づいていた。


 「いったい……いつまで……」


初めは現れた瞬間には回避行動をとれていたのだが、次第に遅くなりついには――


 ザシュッ―――


 「ギャッ!」


 大量に現れた槍の一つが、アイリアの左足首を突き刺した。


 「フフッ。刺さっちゃったね。とどめよっ!」


 ミアは右腕を高く掲げ、その上に大きな桃色に光る槍を生成した。その大きさは、ミアの身長を縦に2人分重ねたくらいはあった。


 「いっくよ~!そぅれっ!」


 その巨大な槍を大きく振りかぶり、アイリアへ向けて投げつけた!

 速度は音程度。左足を負傷したアイリアには避けることは絶対に不可能。そう思われたが――

 甲高い音が聞こえた。しかし、自分の身には痛みも穴も空いていない。不思議に思ってみると、


 「大丈夫か?」


 日本刀のような刀を持ち、正面に構える少年がそこに立っていた。

 年は結構若そうだ。楓と同じくらいだろうか。


 「あなた……突然やめてくれる?」

 「君には誰も殺させたくはないんだ。早く帰ってくれ」


 優しく呼び掛けるように少年は言った。それに対してミアはいまいましいと言わんばかりに、


 「いいわ。アイリア、今度こそあんたを叩きのめしてあげる。じゃ」


 と言って、石のゲートのなかに消えていき、同時にゲートとなっていた緑色の幕は消えた。


 「大丈夫か?」


 刀の少年がアイリアに話しかけた。


 「ええ……とは言えないわ。左足はもう動かないわね。」

 「ちょっと見せて。」


 そういって少年は、右手に淡い緑色の光をともしてアイリアの足に触れた。すると、刺さっていた槍がひとりでに抜けて消滅し、足に残った穴も完全に塞がった。


 「すごい。どうやったの?」

 「簡単な回復魔法だよ。こっちには存在しないのかな?」


 少年は微笑んで答えた。


 「あなたは何なの?」


 少年は一拍をおいてから答えた。


 「僕は木村零きむられい。レベルの世界に召喚された、剣の勇者だ。」

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