第6話 壱ノ魔人

 目の前に立つ男(だった人物)は元はただの人間とは思えないような魔力を容易に感じ取れた。

 その姿は宝石のように輝く水色の鎧を全身に纏う、騎士のようだ。右手には同じく水色の剣を持ち、恐らく俺に対して凄まじい殺気を向けてきている。

 "殺"――そいつからはそれ以外の何も感じることはできなかった。

 無言のままこちらを睨み続けている。


 「人と物を俺のスキルを使って融合させて召喚した人工生命体、魔人。名前は面倒だから、一人目だし壱ノ魔人とでも呼ぶことにして、魔人は特殊能力を豊富に持つのが特徴だ。まっ、死なないようせいぜい頑張りな」


 そうとだけ言い残してアトラスはどこかへ消えた。一触即発の状態が数秒、いや、数分か分からないが続いた。壱ノ魔人はこちらが動けばその瞬間にでも俺を消すことができるようであった。

 魔法剣を構え、攻撃のタイミングをうかがう。


 ダンッ―――!


 俺の足音と共に戦闘のコングが鳴り響いた。

 楓は壱ノ魔人を攻める側に常時いた。剣を振り、相手をねじ伏せんと斬りつける。一瞬たりともその攻撃は止まなかった。

 だが、それは壱ノ魔人についても同じだ。彼の場合は楓の剣を自身の剣で防ぎ、その身を守る。


 斬る―弾く―斬る―弾く―斬る―弾く……


 「………!!」


 楓が魔法剣で斬るタイミングを一瞬だけ遅らせた。それにより、壱ノ魔人のタイミングがずれ、剣が空振った。


 「チャンスだ!」


 どういうわけか自身の体に存在するという凄まじい量の魔力を呼び覚まし、己の魔法剣に魔力を込める。

 しかし、ここで壱ノ魔人が突然片ひざをつき、剣を立てる形にしてしゃがみこんだのだ。


 「は?!」


 訳の分からない行動に俺は混乱した。だが、次の瞬間に全てを察した。

 壱ノ魔人の周りに黒いもやのようなものがかかっているのに気づいたのだ。さらに、やつは大量の魔力を溜め込み、小刻みに震えているような気がした。

 その瞬間、アトラスの言っていたことを思い出した。


 『魔人は特殊能力を豊富に持つのが特徴だ』


 (……こいつ、大技を使う気だ!)


 まずい、この距離で何かを撃たれたら確実に命中する。

 いや、落ち着けよ、俺。俺にはスキルがあるじゃないか。その効果は対象を無に帰すこと。なら、


 「わるいな!お前にそれをさせるわけにはいかねぇんだ!」

 「………??………!!」


 ~【能力消失】~


 俺の特殊能力で一旦壱ノ魔人の大技を封じた。が、すぐに次を撃とうとしている!


 「嘘だろ!まだ次を撃てないのに!」


 俺のスキルは一度使うとしばらく次を使えなくなる。一方魔人の方はそういう性質が無いようで、間を空けずとも次々に大技を撃てるようだ。


 「まずい……間に合わねぇ!」


 壱ノ魔人の魔力はどんどん膨れ上がっていった。その一瞬の間に俺は魔人から大きく距離をとった。次の瞬間!


 ―――――――――――――――――――――


 凄まじい轟音と共に小さなキノコ雲のような雲がミトロセリアの中心に発生した。地上では、壱ノ魔人を中心として半径数十メートルが破壊され、クレーターが現れた。


 「………嘘だろ…」


 爆発には巻き込まれてしまったが、かろうじて生き延びられた。しかし、全身がかなり痛い。

 魔人はというと、爆発の衝撃で上空へ吹っ飛ばされたようで、ふんわりとこちらへ降りてきていた。


 「あれをまともにくらったら一発GAME OVERだよな」


 壱ノ魔人は破壊された地形をものともせずにこちらへ向かって来た。


 「止めを刺そうにも俺のスキルでは攻撃ができないからなぁ。特殊能力で必殺技的なのを出そうにも、それはスキルから作るもの……いや、まてよ?」


 まさか、特殊能力はスキルだけでなくても使えるのか?

 物は試しだ。やってみるか。


 「イメージしろ。剣からなんかすごい感じのが出てくるところを」


 スキルの力を魔法剣に込めて、剣自体に俺のスキルの力を宿らせる。

 剣に力を込め、ゆっくりと粉々になった地形を気にせずに歩く壱ノ魔人を見る。やつの体を切り裂く、それだけを考えて。


 「今だ!」


 ~剣技けんぎ【イグノア・ディフェンス】~


 特殊能力を叫ぶと、紫のオーラが全身から発した。スキルとは別の特殊能力を発動することに成功したようだ。


 「はぁっ!」

 「!!」


 剣に紫の光を宿し、壱ノ魔人に向けて一気に距離を詰める!魔人は、その手を光らせ、あちらこちらで小さな爆発を起こして、俺の進路を塞ごうとしている。さらに、バックステップで逃走するため、なかなか距離を縮められない。


 「うがっ!」


 まずい。このままだとこちらの魔力が尽きてしまう。しかも、今の爆発をわずかにくらってしまった。でも、こんなところで止まってしまっては、やつを倒せない!

 気合いでなんとか爆発だらけの空間を突っ切った。そして、魔力の込められた剣を壱ノ魔人に振り下ろし、


 ザシュッ――――


 先程発動した特殊能力は自身の剣で攻撃したとき、それが当たった対象の防御を無視するというものだ。そのため、水色の鎧でその身を守る壱ノ魔人も、その鎧の効果を発揮しない。

 鎧で普通の剣ならばその体を斬ることはできないが、今の俺はそれを無視するため、横に振られた剣は壱ノ魔人の体を上下に切り裂いた。


 「………?!」


 そのまま魔人の体は倒れ、爆散した。


 「はぁ…はぁ…なんとか倒せたようだな。」


 倒せたのはいいけど、アトラスによってミトロセリアの町はかなりの大ダメージを受けてしまったな。戦った場所周辺の建物のほとんどは崩れ落ちたし、巻き込まれた人もたくさんいるだろう。


 「はぁーあぁーやってくれたねぇ、楓くん。まっ、あれは試作品だから大したことはできないと思ってたけどさ。それに、"これ"もそこそこ集められたしな」


 そういうアトラスの手には、シュネムも持っていた水色の光が浮かんでいる。


 「試作品にしてはなかなかの働きをしてくれたとは思うよ。さて、これでお前は俺らにとって邪魔であることが確定した。絶対にお前を消してやるから覚悟しておけ」


 とて、アトラスはニヤリと笑みを浮かべて、手を上へ掲げて何かを唱える。


 ~火土融合かどゆうごう隕石連撃いんせきれんげき】~


 唱えた直後、アトラスが立っている建物の前に、横に5つの魔方陣が展開された。そして、そこにめがけて、5つの巨大な岩の塊が落下してきた!

 岩によって爆発したあとの煙が晴れてから建物の屋根をみると、そこにいたはずのアトラスの姿は消えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る