第3話 狩り

 冒険者登録をした楓たちは、シュネムらへの復讐をするため、チーム募集をかけつつ、自分達の技能を伸ばそうとしていた。


 「登録も完了したし、次は冒険者の仕事の大半を占める、『魔物狩り』に行きましょう。ついでに2人の連携を確認しておきましょう。」

 「おう。」


 ミトロセリア周辺では近くのゲート草原で狩りをするのが定番らしい。ここはあまり強い魔物もいないため初心者にはうってつけだそうだ。


 「この辺りにいるのは、角ウサギ、ストーンドッグね。どれもあまり強くはないからまずはこいつらを3体ずつくらい倒しましょうか。」

 「おーけー。」


 角ウサギはその名前の通りで見た目は普通のウサギだけど、頭に角が生えているものだ。特殊な能力もないため魔物狩りの基本中の基本となっている。

 ストーンドッグは濃いめの灰色と背中に乗っている岩が特徴の大きな犬だ。そこそこ素早く、簡単な岩系の魔法を得意とするため少し苦労することもあるようだ。

 

 草原を見渡した感じ、それらの特徴に当てはまる魔物がそこそこ見える。一番近いのは角ウザギ5匹ほどの群れだ。


 「うりゃぁぁ!!」


 魔法剣を構え、群れのうちの1匹に突っ込む。角ウザギはこちらを見つけるなり逃げ出そうとするが、俺は逃がさない。


 ザンッーーー


 そんな鈍い音と同時に角ウザギのうち3匹が絶命して光として消える。


 「やるわね。」

 「まぁ、こっちに来た初日で大熊を2匹倒したからね。この程度なら余裕さ。」

 「次はストーンドッグよ。素早い動きに翻弄されないでね。」


 また草原を奥に進んでいくと、4匹の犬の集団に出会った。濃い灰色、背中の岩、ストーンドッグに違いない。大きさはなかなかに大きめで血走った目をしている。

 再び剣を構えて相手の動きを見る。ストーンドッグもまたこちらを発見して、警戒しているようだ。


 先に動いたのはカエデだ。剣を振りかぶり、ストーンドッグ4匹のうち、もっとも自分に近いものを狙う。


 (いける!)


 そう思ったときだった。ストーンドッグのまわりに直径20~30cmくらいの岩が何個か現れ、こちらへと弾幕のごとき技として飛んできた!


 「は?!」


 そのままの勢いで突っ込んだため、岩は全て俺の体に命中した。後方に吹っ飛ばされ、よろめきながら立ち上がる。


 「な……なんだよ今の?!」

 「『スキル』とは別にそれから生まれた必殺技みたいなのを総称して『特殊能力』って言うんだけど、魔物の中にはそれを使えるやつがいるのよ。ストーンドッグのは今の【岩飛ばし】がそれよ。」


 アイリアがそう説明してくれた。

 特殊能力持ちって、それのどこがあまり強くない、だよ!とか突っ込みつつ、もう一度ストーンドッグに向き合う。もはや隠す気もないのか、すでに4つの岩を用意していた。


 (正面からじゃ、また同じだ。どうすれば……?いや、俺は俺の能力…スキルに頼れば良いじゃないか。)


 俺のスキルは『』。つまり、あらゆるものを無に帰すスキルだ。ならば、ストーンドッグの特殊能力である岩を消せるのではないか。

 そういえばあの時の『無力【ノーパワー】』だって、特殊能力だったのだろうか。それが自由に作り出せるようなものなら今ここで作ってしまえば良い。……よし、イメージはできた。


 「アイリア、俺の能力も見ててくれよ。」

 「もう略してるし。いいわ、見せてちょうだい。」

 「ああ、とくと見よ!」


 脳内に浮かんできたフレーズを読み上げ、叫ぶ!


 ~【能力消失のうりょくしょうしつ】~


 瞬間、周囲から感じていた緊張をなにも感じなくなった。ストーンドッグのまわりに浮かんでいた岩も消え失せ、驚愕のような表情でこちらを睨んでいる。つまりこれは、


 「ストーンドッグの能力が消えた……!?」


 ストーンドッグは能力を消されたことで動揺が隠せない。今なら、奴等は隙だらけだろう。剣をその頭へ向けて……


 ―――――――――――


 動きが止まったストーンドッグを切り落とし、光として消える。

 その勢いのまま残りの3匹も切り伏せる。


 「……まさか、本当に倒すとはね。」

 「え?」


 ストーンドッグってそこまで強くない初心者向けだよな?そんなに驚くようなことではないはずだけど。


 「弱い方ってだけで、魔物全体としては中位くらいのやつよ。」


 アイリアの話し方の問題なんだろうが、もういいやと思ってこの話を切りあげた。

 空は赤みがかり、いつの間にか夕方になったことを俺たちに知らせてくれた。アイリアがそろそろ終わりにしようと言ったので、今日の狩りを終えた。


 特殊能力、結構面白そうなものだな。そういえば、アイリアも特殊能力を持っているのかな。

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