第6話 被害
「……で!…カエデ!」
(誰かが、名前を呼んでいる気がする。あれ、俺はこの世界の奴らに名乗ったことあったっけ?ていうか、俺って生きてるの?)
視界もなく、意識も朦朧としているなか名前を呼ぶ声が聞こえる。聞き覚えがある。確か、アイリアさんかな?
ガバッと起き上がって周りを見る。そこそこ広い部屋の隅にあるベッドに俺は寝かされている。ログハウスのような雰囲気の部屋だ。
ベッドの右側からアイリアさんは俺を見守っていたようだ。
「アイリア……さん?」
「良かった。まだ生きてるみたいね。具合はどう?」
「ああ、それは問題ないよ。それより、ここはどこ?」
「ここは私の家よ。町で倒れていたのを見つけたから連れてきたの。いったい何があったの?」
俺はあの場所からアイリアさんによって彼女の家まで運ばれたようだ。それで看病をしてくれていたと。
そして俺は、あの場所であった出来事、狂ったじいさんについて話した。
「そう。戦闘の形跡があるなぁと思ってたけど、そういうことだったのね。……カエデは知ってる?ここ数ヵ月ほど世界を騒がせている殺人鬼のこと。」
「いや、知らないな。まさか、あいつ!」
「ええ。おそらくそいつの名前はシュネム。被害は数百人に上ると言われている過去最悪の犯罪者よ。」
そんなやつが。……もしかしたら、アイリアさんはその殺人鬼を捕まえられるかもと言ったら協力してくれるだろうか。ただ、俺が異世界から来たことは隠した方がいいのか?なんか面倒なことになりそうだからな。
「あの、1つ話を聞いてくれないか。」
「なに?」
「俺はそのシュネムら一味の1人によって家族を皆殺されたんだ。だから、奴に復讐をしたい。だが、あいつの力は戦ってみたからわかるんだが普通の能力者とは桁違いだった。そこで、俺に協力してくれませんか?」
そのまま言った。復讐について話すことで見限られる可能性もあるが、戦力を蓄えるためにはそんなことを言ってられない。得られそうなものは貪欲に手に入れないとな。
「……奴らの事件に首を突っ込むの?やめた方がいいわよ。」
「関係ない。」
「………。」
アイリアさんはうつむいて、何も言わずに別の部屋へ行った。
さすがに無理か。やはり人の復讐とかそういうのには関わりたくないよな。それとも、アトラスの話を出せば変わるのだろうか。でも、そのためには俺が異世界から来たことも話さなければならない。
しばらく後に再びアイリアさんが帰ってきた。その顔はまだ暗かったが、先ほどとは違う、決意に満ちたようなものだった。
「ねえカエデ。あなたは本当にシュネムの事件に関わるの?」
「ああ。」
「その危険も承知で?」
「当たり前だ。」
「……なら、私はあなたに協力する。」
「へ?いや、でも……アイリアさんは危険だからって……」
おもわずすっとんきょうな声が出てきた。
「そこは承知の上でしょ?それに……私もあいつにはちょっとあるからね。」
アイリアさんはうつむきながらそう呟く。どこか悲しそうな顔だった。
「協力してくれるのならありがたい。今後ともよろしく頼みます!アイリアさん!」
「……ずっと思ってたけど、どこか堅苦しいのよね。そのしゃべり方。普通にしてくれない?」
「なら………よろしく、アイリア。」
「こちらこそ、よろしくね。」
ということでなんとか一人目の協力者を見つけることができた。彼女のとシュネムに何があったかは知らないけど、同じ境遇のもの同士なんとかやっていこう。
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