第1話愚者のインタビュー
――向島大吾選手、おめでとうございます。最高のプロデビュー戦でした。
「……ありがとうございます。今季、トップに上がれなきゃ、終わりだと思っていたから……でも、まだ始まったばかりです。これからもっと頑張らないといけないんです」
――初対面で大変失礼ですが、大活躍をしたのに、その表情と言動。悲壮感を感じさせる、いや、卑屈ですらあるように思えます。どうしてそんな風に思っているんですか?
「……そうかもしれないですね。否定できないところがあります……たぶん、自分はまだ何も成し遂げていない、と思っているからだと思います」
――……J1開幕戦で岡山は食中毒者が続出。大変でしたね。それでも、デビューには、まずは父親である博監督にアピールしなければなりませんでした。
「……父親に自分をアピールするのは、結構難しかったです。良いところも、悪いところも小さいときから知っているから。父親が師匠兼上司、そういう関係ってあんまりないとは思うんですけどね」
――向島選手が途中出場してから0-4の試合を5-4に、その両足のプレースキックでひっくり返しました。これはルーキーのあなたがゲームを支配していたことと同義だと思います。そんなゲームは滅多に……いや私は巡り合えたことがない。『前人未踏』。この言葉がよく似合うと思います。
「……自分としては、そんな大袈裟じゃなくて……一歩一歩、踏みしめるように成長していきたいと思っています」
――17歳のルーキーらしく、もうちょっと明るくいきましょう! リラックス・リラックス! 堅いですよ?
「は……はい」
――兄である真吾選手へのアシストであなたのデビュー戦が始まった。試合に参加してその間たった20秒でした。彼は日本代表のエースストライカーでもあります。彼はあなたにとってどんな存在?
「刺激を与えてくれる存在です。……俺にない高さ、パワー、スピード。全部持ってる」
――1点目。グラウンダーのフリーキック。相手の壁の下を通しました。
「上を狙ってくると思っていたんじゃないか、と。サッカーは騙し合いだと思っています。だからその逆を突きました」
――お見事でした。そして2点目は左足……
「左利きの兄貴の得意エリアでしたけど、俺の左足だって狙えない角度じゃない……」
――そして3点目は無回転シュート! 今ではボールの質が変わり、以前より使い手が少なくなってきています。
「基礎的な技術や、ボールコントロールには自信があるつもりです」
――4点目。アディショナルタイム最後には、コーナーキックを直接のオリンピックゴール! 1試合に4ゴール決めるのをポーケルって言います。あなたはデビュー戦で、しかもフリーキックでポーケルを成し遂げてしまいました。
「俺が試合を決めるんだ、とそのときは思っていました。自分は勝敗に
――一晩寝てみた後の感想は?
「抽象的ですが、『フットボールの匂い』というものを感じたような気がします。その匂いはサッカーに人生すべてを賭けても良いとさえ思いました。それをもう一度感じたいと思いながら、現役を続けて行くのかもしれませんね」
――ちょっとここからは辛辣な内容になるかもしれません。あなたはアンダー13代表のときには大型FWとして期待されていました。
「んー。俺は小学生で168㎝あった、けれどもその後いくら経っても身長は168㎝だった。そのことを自分の口から言わせたいんですよね?」
――その通りです。小学生の頃は圧倒的だったあなたのフィジカルは歳を重ねるごとに逆にハンデと化していった。そのことでパワー不足のあなたはポジションを下げざるを得なかった。そのことはどう思いますか?
「ASバルセロナのメッシとかは、俺と身長変わらないですよね。元バルセロナのシャビや、イニエスタは俺とポジションが一緒です。ボディバランスやボディコントロールの問題だと思ってはいるんですが……」
――メッシ、シャビ、イニエスタ……悲壮感どころか、あなたはとても自分に対する自信を内に秘めているかのようにも感じます。では、プロでの最終目標は何でしょう?
「バロンドール!」
――返答に、急に勢いがつきましたね! 表情も別人のように明るくなりました。
「少しだけど、テンション上がりますよね。バロンドールの話題は」
――前述の3人以外に、憧れの選手は誰でしょう?
「年俸30億でJリーグにやって来た、ラファエウ・サリーナスです」
――バロンドールが目標と先ほど言いました。でも、ラファエウはバロンドールを取っていませんよね? そんな彼に憧れているとは?
「……でも、彼は俺の中で世界一です」
――もう向島大吾をA代表に呼ぶべきだってネットでは騒がれています。スポット・キッカー。『フリーキックやら、コーナーキックのときだけ使えるようにルール変更するようFIFAに申請しろ』って、意見が大半です。確かに、A代表には絶対的なキッカーはもういませんからね。
「……褒められているのか
――世界一の選手、ラファエウに憧れていると言いました。ラファエウはブラジルからスペインに帰化して、ワールドカップを勝ち取ったサッカー史の重要人物ですよね。私は個人的に日本を前人未到のワールドカップ・ベスト8に導いて行く存在を探しています。あなたは……どうでしょう?
「個人ではそうだけど……サッカーは22人でやるチームスポーツだから、どうなるかは、俺個人の力量ではわからないと思います。ラファエウだって、レベルの高いスペインの仲間がいたから……」
――正直、日本代表がベスト16で敗退することに疲れている感が国民の心の内にはあると思うんです。他に何か、あなたは感じることがないですか?
「自分の中に、燃え滾るものがあるのは確信しています。それはサッカーへの熱量とかだったり、愛情だったりもする。それが、日本人全員の憂鬱を吹っ飛ばせるかどうかは分からない……でも、サッカーが好きって気持ちだけは、世界中の誰にも負けるつもりはないです!」
――話し方に熱がこもって来ましたね?
「サッカーを好きって気持ちだけは、本当に誰にも負けたくないんです!」
――サッカーで世界の誰にも負けない……それは有名になるということでもあります。街を歩いていて、知らない人からサインを求められる。世界一の選手というのはそういうことだったりもするけれども……それは自分ではどういうことだとお思いですか?
「たぶん書いたサインの量に比例して、俺はよりサッカーが巧くなって、より好きになっているということかもしれないです。俺のサッカー人生の熱量が、トータルでそこで測られる、ということなのかもしれないですね」
――人生の熱量。うーん……ゴールとかアシストとか数字ではなく、空気感ですか?
「昔、落ち込んでいたときにラファエウ・サリーナスに感情を呼び起こされたことがあります。サッカーは感情を、心を揺らす。俺が彼に憧れる
――サッカーのパワー……私もそれに呼応して記者になったような気がします。
「眼に見えないものしか信じようとしない人は多いです。でも、それは確かにあると思います」
――わかります、わかるつもりです……!
「眼には見えないもの、ありますよね!」
――デビュー戦のあなたは可能性に満ち満ちていました。『バロンドールを目指す』と言われても、なるほど、と妙に納得してしまうくらいです。そのあなたが全盛期に移籍するとして、その移籍金はいくらくらいだと自分では思ってますか?
「高ければ良いものだとは思ってないです。けど、選手の価値を決める物差しでもあると思っています。500億円……くらい?」
――史上最高額ですね! インタビューの最初のときに感じた悲壮感とは真逆、自己評価が高い……いや、自己肯定感が非常に高い? あなたは矛盾の塊のような気もしてきましたが、それを実際に支払えるクラブはどこでしょう?
「ロイヤル・マドリーか、パリ・セインツくらいでしょうか」
――あなたが最終的にマドリーに行けることを、心の底から願っています!
「ありがとう、ございます」
――じゃあ最後に、ウィークリー・フットボールを読んでくれる読者に頂けるでしょうか?
「そうですね……俺のフットボールの旅を一緒に楽しんでもらえたら、と思います」
※※※※※
2018年、
しかし、その1年後にはJ2へと大方の予想通り降格。
それでも地力を付けた岡山は、J2に所属しながらも天皇杯においてベスト4へと進出するジャイアントキリングを成し遂げた。
向島監督は一度退任したものの、再び監督に返り咲いた。
そして一昨年、見事にJ1昇格を再び決めた。
その原動力は188㎝の大型FW、向島監督の実息である向島真吾(20)だ。
彼は日本代表のエースとして自覚し始め、次のオリンピック、そしてワールドカップでの活躍が見込まれている。
そして今、再び向島監督の息子がJの初舞台に臨み、168㎝の小さな痩躯から前人未到のフリーキックでの
偉大な父と兄の背中を追い、彼の『
彼の背番号38サイン入りユニフォームを抽選で1名にプレゼント!
もしかしたら、将来的にとてつもない価値が出るかもしれない!
応募先メールアドレスは、weekly-football@……
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