12. まだ帰さない



君の猫になりたい



秋人はあたしの叔父さんの家の前まで

送ってくれた。




あたしはここで四月から暮らしているんだ。







静かな住宅街では、

足音がやけに大きく聞こえた。







あたしは、玄関の前で立ち止まった。






人の気配を察して、家の電灯が点く。




そこにいた猫が驚いて、走り去っていった。








伸びる二つの影を眺めて、




自分から手を離すべきかどうか迷う。





「明日さ、桜坂のみんなに会いに




旧校舎に行きたいんだけど、いいかな?」




みんなにお礼を言いたいし、

シズさんが心配だった。




  





「分かった。




迎えに行くから、

今日と同じ場所で待ってろ。」







「うん」




頷き、視線を繋がれた手に向ける。






どうしよう。




恐る恐る秋人を見上げた。






すると、秋人はふい、と目を反らした。







「おやすみ。」




仕方ないから、夜の別れの言葉と共に




手を離そうとした。







けど、秋人は




「まだ帰さない。」




低い声で呟いて、

繋いだ手を顔の前までもち上げた。








「どうして?」




どくん、と心臓が跳ねた。










「紗良が約束を破った理由を聞いてない。




なんで俺のこと、待ってなかった?」





秋人に真っ直ぐ目を見つめられた。


 







急に体が沸騰したように熱くなる。





学校帰りの校門の前で




綺麗な女の人に言われた言葉を思い出した。







「ごめん」




あたしは、俯く。







「なんで?

 これまでこんなことなかったよな。」




低く響く声。少しの戸惑いが感じられた。








毎日、秋人は迎えに来てくれる。






今日も秋人を待つ学校の校門の前で、




女の人に話しかけられるまでは

待っていたんだ。










「ちょっとコンビニに行こうと思っただけ」




口を尖らせて、嘘をついた。








「んだよ、そんな理由かよ。」




秋人は安心したように笑った。





  





あたしは曖昧に頷いた。



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