8 無償の愛
日は落ちて、
街は暗闇に包まれている。
遠くから車のエンジン音が聞こえてくる。
あたしの左手と秋人の右手は、
まだ繋がれたままだ。
「紗良。」
秋人が唐突にあたしの名前を呼んだ。
「なに?」
「生きてるよな?」
暗闇のなかで、
秋人の息づかいが隣から聞こえた。
「うん、あきの隣にいるよ。」
秋人の右手をぎゅっと握った。
まじで守れねーかと思った、びびった。
秋人の呟きは、車のエンジン音に紛れた。
「来てくれないのかと思った。」
「んなわけねーだろ、
俺は紗良を守るのが一番大事。
ずっと前から、今も。」
秋人の思いに気づいて、はっとした。
秋人は昔の約束をまだ守ろうとしてるんだ。
ー秋人は一番に紗良を守ることー
今はもう亡き奈紘さん、
秋人のお母さんの教えだった。
その言葉を聞いたら堪らなくなる。
俯いて目を擦った。
「泣いてんの?」
返事をせずにいると秋人は身を屈めて
あたしの目を見ようとする。
でも、暗闇が邪魔して
秋人はあたしの目を捉えれない。
あたしには秋人の顔が、
遠い蛍光灯の微かな明かりで見えた。
秋人は少し笑って、あたしの頭を撫でた。
「悪いな。怖かったろ。」
ゆっくりと首を振った。
「嘘つけ。
今回、ずいぶん一人にしたもんな。
悪い。」
そうじゃない。
約束を破ったあたしが悪いのに、
秋人は無条件に全てを許してくれる。
その無償の愛が苦しく嬉しい。
溺れて息が出来なくなりそうだ。
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