第8話 豚王②

 

 壊れた民家から抜け出し物陰に隠れながら魔法をチマチマと当て続るが隙生まれないな。よし、荒技だがやってみるか・・・・物陰からある物を持って豚王の前に躍り出る


「ガラスでも喰っとけ!」

「ウィア⁉︎」


 テーブルクロスいっぱいに包んだガラスの破片を豚王目掛けてクロスごと投げつける。ガラスの中には細かく割れたものも混じっている。その細かいのが眼球内に入れば角膜を損傷させ視界を一時的に奪える!


「汝、地を断つ水の刃 【水刃】」


 【水刃】は豚王の腹肉を切り裂くが傷口がボコボコ盛り上がり、瞬く間に傷口が塞がってしまった。奴の射程範囲外に脱し再び物陰に隠れ様子を伺う


「回復力どうなってんだよ・・・トロールの血でも入ってんのか?」

「ウォウォ」


 俺が何処にいるのかも見破られ、それに加え圧倒的な実力差がある・・・・それにしても笑いながら腹叩きしやがってムカつくッ!でも、どうする並外れた再生能力に馬鹿力。唯一の救いは知能が其処まで高くないこと機動力が低い事だな


「機動力だけで言えば俺のほうが上、それに俺は体躯が小さいからこその当てにくさもある。圧倒的に俺のほうが有利だ」


 魔力の爆発から逃げるように裏路地の奥に飛び込むと俺のいたとこが地面ごと削り取れていた。一発でも喰らえば挽肉になっちまう!死ぬ覚悟はできてはいるがやっぱり死にたくない


「あそこまでの体躯を持っているなら当たり前の威力だな。掠るだけでもアウト・・・・・死にたくねえな」

「ブイイイイイイ!」


 そんなことをボヤいていても仕方がないことだ。今は生きて帰ることを考えろ!俺の持っている知識でどこまでヤツに通用する。瞬時に路地から飛び出しヤツの懐に潜り込む


『この超至近距離なら攻撃はできないはずだッ‼』


 膝の皿に触れゼロ距離で魔法を発動する。【風極性】と【火極性】のミックスである融合魔法【熱極性】を使う!


「汝、地を割く烈風 汝、万物を滅却せし業火 汝らが今、彼の者に終無の苦しみを与えたまえ【プロミネンス】」


 その刹那、俺の右手を巻き込んで巨大な火柱が立ち上がる。火に包まれたオークは声にもならないような絶叫を上げ火を振り払おうともがく。俺はすぐさま後方にあった商店に飛び込む。早くしないとアレが来る!その瞬間、想像を絶する痛みが走る


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああッ‼ポッポーションッ!」


 唇を食いしばりながら、かっぱらってきたポーションを右腕にかける。皮膚を剥がされる様な痛みとともに灼けた皮膚が新しい皮膚と入れ替わり、切れた肉も繋がる


「ハアッハアッハアッオークは・・・・・・・・どうなった」


 割れた窓から外を見ると大通りの中心に焼けたオークがいた。あそこまで黒焦げになれば流石に立ち上がれないだろ・・・・撤退しよう。隠れていた商店から脱出し大通りを駆ける


「リディア達は大丈夫か?無事だとは思うが・・・・」

「ブヒョッ!!」

「sッ!」


 その瞬間、アーサーの体に高速で走るワゴン車に追突されたような痛みが走る。民家を三件突き抜け農作物を保管する蔵の壁を突き破る


 *


 アーサーは目が覚めると何もかもが白い空間・・・・そこはペルセポネーと初めて会った時と同じ光景だ


「俺・・・・・死んだのか?」


 アーサーは辺りを見回すが誰もおらず、自分一人しかいないことを理解した


「いいや、まだ死んでないよ」

「誰だ!」


 アーサーが振り返った所には彼よりも二回りほど大きく、純白の髪・純白の肌・翡翠色の右目と琥珀色の左目を持つオッドアイ美少女が立っていた。


「初めまして。アーサー君」

「は・・・・初めまして・・・・」

「まあ、そんなに硬くならないでよ。私はサリエル・・・・サリエル・B・レイヴン。あ~今、私がアーサーと関係ないって思ったでしょ~」

「は、はい」


 サリエルと名乗る少女はむくれ面を見せたと思いきや、花が咲いたような笑みを浮かべる。感情が読めない人だなと感じながらもアーサーは何処か自身とは関係のない人物だとは思えなかった。


「私とアーサーの関係性は置いといて。単刀直入に言うけどさ、アーサーはまだ死んでないよ」

「え、死んでないんですか?」

「うん!」

「どうすれば現実世界に戻れるんですか‼」


 サリエルににじり寄るとアーサーの肩をポンポンと叩いてなだめる


「まあまあ、私だってね速く送り出してあげたいよ?でもさ・・・・」


「今行けば死ぬよ」


 一気に場の空気が凍り付く


「でも、それでも行かないといけないんです!」

「へぇ~なんで?」

「なんでって・・・・そりゃあ、死人を出したくないんですよ!」

「ふ~ん、随分と当たり障りのない理由だね。」

「当たり障りのない理由って・・・・」

「じゃあさ」


 サリエルがアーサーと鼻が触れる手前まで肉薄した。音もなく間合いを潰され、背中に手を回されガッチリとホールドされ動こうにも動けない。透き通る瞳、柔らかそうな唇、きめ細やかな純白の肌がより認識される・・・・死の気配を感じながらもあまりの美貌と見た目にそぐわない妖艶さに当てられアーサーはサリエルから目が離せないでいる


「目の前に暴走するトロッコがあります。トロッコはブレーキが壊れていて止まれない、トロッコが向かう先には二つの分かれ道があって・・・・・一つはそうだなぁ~君の大好きなリディアちゃんが、もう一つは名前も知らない他人が。君は分かれ道のレバーを動かせる・・・・片方を生かせばもう片方は死ぬ。君はどっちを選ぶ?」

「トロッコに体当たりでもすれば・・・」

「あ~ダメダメ。君はレバーに手を固定されてるし魔法も使えない、無理にでも動けば両方殺されるよ。さぁ~どうする?」













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